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第二章 始まりの街防衛戦‼

第百五十三話 土妖精の力(中編)

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 習得できないと思っていたスキルを自分は習得できると言われて動揺したナギは呆然としていたが、数秒で正気に戻ってとにかく落ち着こうと小さく息を吐き出した。

「ふぅ……」

『主様、大丈夫ですか?』

「…大丈夫だよ。他の人間には難しいと言われたスキルが、まさか俺は習得できると言われるとは思ってなくてな」

 心配してソルテが無事を確認してくるとナギは少し疲れた様子ではあったが頷いて答えた。ただ少なからずまだ動揺しているようで、言わなくてもいい動揺した理由をソルテにまで説明していた。
 その理由を聞いたソルテは納得したように何度か頷いていた。

『そう言う事だったんですか!でも少し考えればわかると思いますよ?妖精の私と契約していて、妖精は精霊とも近い種族ですから。精霊との遭遇率は他の人とは段違いに高くなってるんですしね‼』

「あぁ~確かに言われてみればそうだな。でも精霊ってそこらへんにいるようなもんなのか?」

『結構普通にいますよ?種類にもよりますけど、精霊は自然と共に生きる存在です。だから自然が存在する限り結界でも張らなければ、ほとんどの場所に入り放題ですから』

「そう言う感じだったのか」

 精霊について詳しく知らなかったナギはソルテの説明を聞いて驚きはしたが、知らない事を知れて満足そうに大きく頷いていた。ソルテとしては常識程度の知識のつもりだったのでナギの様子に少し不思議そうだったが、とりあえず満足しているようなので良かったと嬉しそうに笑顔を浮かべていた。

「よし、とりあえず俺も『鉱物識別』を習得できることはわかった。とりあえず習得は後で挑戦するとして、今回は他のスキルについても説明してもらっていいか?ちょっと時間も気になるし…」

『あれ?なにかこの後予定有りましたっけ?』

「いや、こっちじゃなくて元の世界でちょっとな…」

『なるほど!そう言う事だったら納得です‼』

 少し申しわけなさそうにしながらもナギは晩御飯の支度もあるので今はそんなに時間を掛けられないのだ。と言う事で詳しくではないけど簡単にナギが事情を説明すると、ソルテは理解してくれてすんなりと受け入れてくれた。
 その事にナギが安心して胸を撫で下ろすとソルテは元気よく次のスキルの説明を始めた。

『では少し急ぎで説明しますね!もう一つのスキルは『共感覚:土』は鎚の属性を持つ無機物に感覚を共有して、その物の状態などを知ることが出来るスキルです。今、主様の視界にも映っているとは思いますが『3/10』というのは好物のランクで、状態は『良好・普通・悪い』の3つがあります!状態が悪い時に加工すると、品質やランクが下がってしまう事もあるのであると便利ですよ?』

「なるほど…やっぱりこれはそう言う事なのか、しかも状態なんて言うものが存在する事も初めて知ったな」

『確かに便利なんですけどね。でもこのスキル、発動中は常時MPを消費し続けるので残量には気を付けて使わないと何ですよね。ですから採掘してすぐに確認しようとして発動すると、急に敵と遭遇した時にMP切れ!なんてこともあるので注意が必要なんですよ』

「あぁ~効果を考えると、当然と言えば当然のデメリットか…」

 最初はスキルの効果を聞いて優良な効果だと頷いていたナギも、デメリットを聞くと難しい表情で効果のメリットとデメリットの釣り合いが取れていると考えて頷きながら、実際に使用した時の状況を想像していた。

(今行ける南の鉱山だと、主な攻撃方法が魔法に依存している。鉱石の採掘は何よりも優先したいところだけど、このスキル効果だと魔法系のステータスをそこまで強化してないし、すぐにMPが無くなりそうだな。そうなったら鉱山の中でろくな攻撃方法のない状況での戦闘で…)

『主様~!生きてますか~~』

 ナギが考え事に夢中になって動かなくなったのに気が付いたソルテは目の前でピョンピョン!と跳ねて呼びかけた。
 その声が届いたのかナギは少し驚いたように目を見開いて正気に戻る。

「っ!…おう、ちゃんと生きてるよ。急に黙って悪かった。ちょっと考え事に夢中になっていたみたいだ…」

 また自分が考えることに集中しすぎていた事に気が付いたナギは、申し訳なさそうに謝った。
 ただナギとしては何度も繰り返している短所だと思っている事なのでやらかしたと思っているが、ソルテからすればほとんど初めてのような事なので真剣に謝られた事の方に戸惑っていた。

『い、いえいえ!そんな気にしなくていいですから‼それよりも最後のスキルの説明しても大丈夫ですか?』

「あぁ、もちろん問題ない」

 訳も分からず謝られるのは居心地の若かったソルテは少し早口だったが話題を元のスキルの説明に戻すことにしたのだ。
 その提案にナギもすぐに頷いた事もあってソルテは安心して笑みを浮かべると、楽しそうに最後のスキル【コネクト】の説明を始める。

『もう何となくわかっているとは思いますけど、最後のスキル『コネクト』は使用した者と他の人の感覚を共有する効果があります。今回なら私の感覚に作用する『鉱物識別』『共感覚:土』で変化した資格の情報を、『コネクト』の効果で共有している訳です!』

「やっぱりそう言う効果だったのか。その効果だと俺が鑑定スキルで、今すぐに鉱石を鑑定すると結果をソルテも見ることが出来るのか?」

 何となく予想はできていたがしっかりとしたスキルの効果の説明を聞いたナギは納得したと大きく頷き、すぐに他の可能性にも気が付いて可能なのか確認した。
 その質問の内容にソルテは小さく苦笑いを浮かべながら答えた。

『いえ、このスキルもそこまで万能ではないですよ。共有できる感覚は発動者から一歩的な物で、効果を受けている人の感覚までは共有できないんです。一応ぼんやりとした感覚でどう行動して欲しいか、とかならギリギリわかりますけど…それだけですね』

「まぁそこまで都合のいいスキルは、さすがに無いか。それでもこのスキルもかなり便利なスキルではあるな」

『そうなんですけどね。『コネクト』は妖精は基本持っていますし、共感覚系統のスキルも属性の違いはあっても妖精は習得しているんですよ。なのでありがたみが薄くて…』

 デメリットを聞いても便利なスキルだと話すナギだったが、ソルテとしては同種の妖精達は全員が同じか、似たような種類のスキルを持っているので微妙な反応だった。
 ただそれは他種族ゆえの感じ方の違いが原因でナギはその事を理解して優しく笑みを浮かべた。

「人間からしたら十分に便利なスキルだよ。正直俺も欲しい程だしな!」

『そうですかね?』

「そうなんですよ。って言葉で言っても信用はしにくいだろうし、証拠をとして一緒に製作してみればいいじゃないか!…そうすれば俺も説明しやすいし…」

 どんなに言っても自身のなさそうなままのソルテの様子にナギは自信満々にそう言った。単純にナギが説明下手なのも原因の一つではあるが、具体的に言うと三割ほどだ。
 ただソルテには最後のナギの呟きは聞こえなかったようで少し考えた後、満面の笑顔で頷いて見せた。

『…確かにそうですね‼何事も実践してみるのが一番です‼』

「そう言う事だな。と言う事で、鉱石の選別をして銅の短剣の製作だ‼」

『製作だ~!』

 意見の纏まった2人は拳を突き上げて叫んで勢いを付けると発動中の三つのスキルを使って素早く素材の鉱石を仕分けていく。ランク・光・状態をよく観察しながら素早く一度も手を止める事無く動かしてナギとソルテの2人は、数十もある鉱石を2~3分程で素材の仕分けを完了した。

「うん、やっぱり一個ずつ鑑定する必要がないぶん早く終わるなぁ」

『今まではそんな風なやり方だったんですか?』

「あぁ…そうじゃないとランクとか確認できないからな…」

『それは確かに効率わるいですね』

 今までのナギのやり方を聞いてソルテは自分の目の前の仕分け終わった鉱石の山を見てしみじみと言った。そこには使う予定のを右、練習用に取って置く奴を真ん中、納品や売却用の物が左と丁寧に仕分けられていた。
 一番多いのは真ん中の練習用だが、それでも十分に製作するのに適した物の数もそろえられたのでナギは問題なしと大きく頷いていた。

「まぁ今まではともかく、これからはソルテもいるしかなり効率的に進められるから問題なし‼」

『それもそうですね。次からは私に任せてください‼』

「おう!よろしく頼むよ!」

 そう言ってナギとソルテの2人はお互いに信用したいい笑顔で拳をぶつけ合った。
 こうして更にやる気を募らせた2人は使わない物をアイテムボックスに仕舞って、最初は練習用で試そうと真ん中の山から鉱石を1つ取って窯へと向かった。

「とりあえず、初めてだし今回は俺がいつも通りにやるから、ソルテはサポートに回ってもらえるか?」

『はい!というか使い魔とは基本的にそう言う物ですから。一々確認に取らなくてもいいんですよ?』

「そうかもしれないけど、つか今でも感情はあるんだし自分で作りたくなる時もあるだろ?そういう時は遠慮せずに行って欲しいしな‼」

『っ⁉』

 自分を尊重するようなナギの発言にソルテは驚いて言葉を失う。基本的にこの世界での使い魔は便利な道具として扱われることも珍しくないので、妖精であるソルテはその常識を持って行動していた。
 なのに一個人として相手してくれ句と言うナギにソルテは信じられないと言う気持ちと同時に、嬉しくて感動していた。

『わかりました!これからは本当に遠慮しないですよ!』

「お、おう!それでかまわないぞ。それよりも鍛冶を始めていいかな?」

『はい!問題ないですよ‼』

 興奮した様子のソルテに若干戸惑いながらもナギは手に持った鉱石を火を付けた窯へと入れた。それと同時にナギとソルテの2人は今までの軽いやり取りが嘘だったかのように真剣な表情へと変わっていた。
 すでにそこには緩い空気は存在せずに張り詰めたような空気だけが張り巡らされていた。

 そしてじっくりと観察していたナギは鉱石の僅かな変化を感じ取ると、その感覚に従って功績を取り出して鎚を振るった。カンッ!カン!とリズムよく鎚の音が響いて、1人必死に鎚を振るうナギに対してソルテはやる事がないように見えるがそうではなかった。
 鎚を振るうナギの後ろからソルテは鉱石と鎚に対して何かの魔法を使っているようだった。

 その事にナギも気が付いていたが作業に集中しているために魔法の事は頭の隅へと押しやり、今は目の前の作業へと集中して鎚を振るっていた。
 後は特に変化なくいつも通りに冷めれば熱して鎚で叩いての繰り返し、最後に形を整えて刃を研いで完成した。

「……ふぅ~、今までで一番の出来だな」

 作業の終わったナギは完成した短剣を作業台の上に乗せて脱力しながらそう評価した。横では後ろでずっと何か魔法によるサポートに徹していたソルテが同じように脱力していた。
 本当ならナギもすぐに声をかけて鑑定したいところだったが、作業中にも感じられたいつもと違う何かに極限まで集中したため必要以上に疲れていて余裕が残っていなかった。そのためある程度疲労が回復するまでナギ約3分程休憩することにした。 
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