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第二章 始まりの街防衛戦‼

第百六十三話 課題に達成に向けて‼《後編》

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 平日でもなんとか銅鉱石を全部インゴットに変えた渚は、更に2日の時間を掛けて必要数を生産する事に成功した。
 ただ代わりに睡眠時間が少し犠牲になった渚は普段の三割増しで機嫌が悪くなって、気が付くのが遅れた竜悟が絡んで返り討ちに合っていた。
 もっともそれ以外の人達は夏輝に夏帆を筆頭に誰もが迂闊な行動は控えたので影響はなかった。

 そして今週最後の登校を終えた渚は少しふらつきながらも買い物を済ませ、家事も素早く終わらせるとすぐにAOへとログインした。

「う~ん…最近無理しすぎだな。今日は早く終わらせよう」

 さすがに2日連続での夜更かしはナギでも答えるようで怠そうにゆっくりと移動する。
 そんな疲弊したようすのナギに懐に居るソルテは心配そうに見つめていたが、別段なにかする事ができる訳でもないので頭を切り替えることにした。

(こうなったら早く作業を終わらせて、主様にゆっくり休んでもらうしかない!)

 そう頭を割り切ったソルテはやる気を募らせてコートの奥で準備体操を始めた。
 程なくしてゴド爺さんの店に着いたナギは作業場に迷いなく進んで窯の準備を進める。今日は珍しくゴド爺さんの姿は作業場にはなくて、店の中にも気配はなかったことからどこかに出かけているようだった。

 しかし今のナギには気にする余裕もないようで、一応だが気が付いてはいたが鍛冶の下位だの方を優先したのだ。

「まずは作った銅のインゴットを短剣と指環にしないと、ふぅ……やるか」

『っ‼』

 疲れているせいかいつも以上に集中力が上がっているナギは、言葉にした事で一気に空気が変化して窯へとインゴットを放り込んだ。そしてコートの中にいたソルテは戦闘時のように纏う空気の変わったナギに驚いて体を震わせていた。
 それでも先頭にも付いて行った経験からすぐに立ち直ったソルテはサポートするためにナギの動きに注視した。

 少し経つとインゴットも熱がいい感じに加わって、それを感じ取ったナギは素早く取り出して鎚を振るった。
 カンッ‼カンッ‼カンッ‼としっかりと芯に届くような響く金属音が続き、それに合わせてゆっくりとインゴットは形を変わっていった。
 ただ一気にはさすがに出来ないので、途中で何度か窯の中に戻して熱を加えて取り出しては叩くの繰り返しとなっていた。何度も繰り返すうちに形を徐々に短剣へと変えて行った銅のインゴットは綺麗な短剣の形へとなった。

 ここから更に刃を研いで銅の短剣の完成した。その短剣は今までにない程の光を放っていて作ったナギは見惚れるように角度を変えながら確認した。

「うん、いい出来だな。鑑定は後で一気に纏めてするとして、次は指環に行くか」

『了解です‼』

 短剣の出来に満足したナギは続いて指環の製作に入ることにし、それにソルテも元気よく返してサポートのために魔法を決める。今回は重労働と言う訳でもないので使われたのは結局【純化】の魔法だけになった。
 ただナギは付与が発動する前に窯の中へと銅のインゴットを入れていた。熱が十分に入ったのを確認すれば取り出して綺麗に半分に割ると、半分になったインゴットをペンチでゆっくりと引っ張りながら叩いて伸ばす。冷める前に窯へと戻して熱を加えて取り出し、また叩きながらゆっくりと伸ばしていくのだ。

 細い銅線のようになると指のサイズに合う円柱に巻き付けて成型していく、銅線が巻き付いているようだった見た目が綺麗な指環の形になると円柱から外した。
 形だけは指環となったそれを見てナギはやすり掛けをして表面を綺麗に整えて完成である。

「まぁ…これだけ出来れば問題ないか。さすがに装飾までやると時間が足りないし、今回は速度優先で行くってことで‼」

『…今回はどうしようもないですね。期間のわりに製作する数が尋常じゃないですからね』

「そういうことだな。なのでこの後はひたすら速度優先で銅の指環と短剣を一気に作っていくぞ‼」

『了解ですっ‼私も全力でサポートしますよ~』

 ナギとソルテの2人は改めてやる気を煽るように元気よくそう言うと、積み上がっている銅のインゴットをとって構えと入れて黙々と鍛冶を再開した。
 その日は翌日が休日と言う事もあって現実で2時になるまで鍛冶を続けた。もちろん途中で晩御飯などでログアウトしたがそれ以外はAOの時間で合計して約21時間もの間ナギは無心で鍛冶を続けていたのだ。
 結果ナギは寝るまでの間に銅の短剣が25本・銅の指環が41個だったが完成させられた。ただ終わってログアウトした時はさすがに疲れたのかベットに横になると泥のように眠った。


 次の日もいつも通り7時前後に目を覚ました渚は寝不足気味のようで目を擦りながらフラフラと危なげな足取りで動き出した。一回に下りて顔を洗った渚はなんとか目を覚ますと顔を叩いて気合を入れ直した。
 朝食の準備に始まって掃除・洗濯・ごみ捨てに家事全般を1人でこなす渚の朝は忙しかった。朝食の用意ができると渚はまだ寝ていた夏輝と夏帆の2人を起こして手早く朝食を済ませた。

「ごちそうさまでした」

「それじゃ俺は部活だから行ってきます‼」

「怪我には気を付けろよ~」

「分かってるよ‼兄さんも何やっているかは知らないけど、AOやりすぎて体調崩さないようにな‼」

「こっちも分かっている」

 軽く話して夏輝は忙しそうに慌てて準備をして走って出かけた。そんな忙しない様子に渚は疲れたように溜息を漏らしたが、今日も家に一緒に居るはずの夏帆が食器を片付けもせずにいなくなっている事にもう一度大きく溜息を吐くのだった。
 その後何とか気を持ち直すと夏帆の分の食器も下げて洗い物を済ませ、残っている家事も終わらせると10時前にはAOへとログインしていた。

 ログインしたナギは今回も一切躊躇する事なくゴド爺さんの店へ向かった。すでに夕方になっていたので店には局は誰もいないようで、遠慮なしに入ったナギは今日は店番のマールもいない事を確認してから奥の作業場へと入っていった。

「さてっと、今日は銅の指環の生産を中心にやるぞ!できることなら課題文の銅の指はを今日中に終わらせて、次からは鉄のインゴットに挑戦だな」

『今のところ順調ですしね~頑張れば必要数には届きそうで良かったですね‼』

「あぁ…本当にな。正直なところ俺も初心者に1人で任せるような数ではないと思うよ。その点ではソルテのサポートには助かっているよ、作業効率が1.5倍は上がっているからな!と言う事で、今日もよろしく頼むぞ?」

『そこまで言われたら頑張るしかないですね‼安心して任せてください‼』

 お互いに楽しそうに笑い合ってナギとソルテの2人は頷くと一瞬で真剣な表情へと切り替わって、銅のインゴットを大量に取り出した。
 窯に火を入れて準備が整うと躊躇なくインゴットを中へと放り込んで観察し、十分に赤く染まると取り出して引っ張りながら鎚で叩くわけだが何度と繰り返したためか、熟練度のようなものがあるのかナギの鎚を振るう手はより素早く洗練されていった。

 それに合わせてコートの中に居るソルテも生産魔法でインゴットの純度を上げるのに協力して、今回は更に作業効率を上げるために体力の消費軽減の魔法も併用した。
 この結果ナギはいくら鎚を振るっても疲れを感じることがなく、精度を上げたまま一定のテンポで作業を続けることが出来るようになった。

 後は冷めては窯に戻して合わせて温度を微調整しながら熱を加え、また取り出しては鎚を振るった。銅線のようになると円柱に上手く巻き付けて鎚で叩きながら形を整え、やすり掛けをして表面を滑らかにして更に磨く事で完成した。

「うん、なにか感覚的にだけど馴染んできたように感じるな」

 作業の終わったナギは完成した銅の指環を確認した後、自分の手を軽く閉じたり開いたりと繰り返してそう漏らした。いつもどうりにやっているつもりだったが今回の生産でナギは、自分でもわかるほどに作業の効率や精度が飛躍的に上がっている事を実感しているのだ。

「やっぱりスキルって言うのは使えば使うだけ強くなってくるって事か…」

『それはレベルが上がれば出来ることも増えますからね。他にも生産系のスキルにもアーツが有ったりするんですけど、その説明は使えるようになったらしましょう‼』

「…できれば今教えて欲しいんだが?」

『教えると長くなってしまいますよ?そんな時間ないでしょう』

「…確かにそうだな。ならちゃんと後で教えてくれよ?」

『それはもちろんですよ‼』

「はぁ…よし、やるか…」

 まだ少しだけ未練のある様子だったナギも今は余裕はないと割り切って、目の前の課題に向けて集中する事にした。その後は一切の雑念を切り払ったように集中した表情でナギは鍛冶に没頭した。
 昼食や晩御飯などでログアウトする事はあったが、それ以外の時間すべてを生産に使用したことで銅の指環をその日だけで約73個も生産する事に成功した。その次の日も課題達成のため必死に鉄の加工へと挑戦するのだった。


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