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第二章 始まりの街防衛戦‼

第百六十二話 課題に達成に向けて‼《前編》

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 そしてスタンピードについての話し合いやソルテとの連携の調性も順調に進み、現実の学業も問題なく渚は楽しく過ごしていた。
 なので課題の期限であるAOの時間で3カ月が目前に迫った5日前になって、学校や家事などのやる事を終わらせた渚はすぐにログインしていた。

「あぁ…やばい、スタンピードの方を優先しすぎた」

 ログインしたナギは噴水広場で分かりやすい程に意気消沈した様子でうつむいていた。ここ1~2週間でナギがやって来たのはスタンピードの向けての住民達との打ち合わせ、緊急依頼の消化にほとんどの時間を使ってしまったのだ。
 なのでイベント間近で大変なこの時期までゴド爺さんからの課題が達成できずにいたのだ。

『だ、大丈夫ですよ‼まだ頑張れば間に合いますよ‼』

「まぁ、確かに1から100個ではないし行けるとは思うけどな。単純に素材のインゴットへの加工、インゴットから短剣・指環への加工。しかも素材は銅までなら楽だけど、鉄が何とも難儀な物なんだよな」

『そ、それでも鉱石は依頼のついでに一杯持っているじゃないですか。これで時間はかなり短縮できたと思うんです‼』

「そうだな。とりあえずポジティブに行こう!正直、ここで考えている時間も惜しい‼」

 自分を元気づけるように叫んだナギは勢いよく立ち上がるとソルテを掴んでコートの奥へと押し込み、全力でその場からゴド爺さんの店へと走って移動を開始した。
 周囲にいた住人やプレイヤー達は落ち込んで、急に叫んで走り出す!というナギの奇行に全員が奇異の視線を向けていたが、さすがに全力で移動するナギをちゃんと視認して追いかけられる人はいないようで、姿が見えなく成ればコソコソと噂話をする程度ですぐに興味を失くしたようだった。

 そして周囲の反応なんてまったく気にしていないナギは最短距離を最高速で移動して、数分も掛からずにゴド爺さんの店へと到着した。
 すでに夜のため店は閉まっていたが鍵は開いていたのでナギは気にせずスムーズに奥の作業場へと向かった。今日もゴド爺さんは自分の場所で作業に集中していたが、ナギが入って来たことには気が付いたのか視線だけを向けて堕行に戻った。

 視線に気が付いたナギも静かに目礼すると貸してもらっている窯の前に移動して、持っている鉱石をインゴットに加工するために大量に取り出した。

「今更だけど、良くこれだけ集まったよな…」

『暇を見つけては採掘してましたからね~』

 しみじみと言うソルテに釣られてナギも鉱石を集めていた時を思い出したのか、疲れたように苦笑いを浮かべていた。なにせ言われた通り依頼に行くたびに採掘していて、しかも途中からはどちらかと言うと採掘の方がメインになっていたりしたのだ。
 なので軽く見ても銀が30個はあって、銅や鉄にいたっては3桁ずつは確保できていた。

「まぁ…数が有って困るような物では無いし、別にいいか‼」

『それもそうですね‼』

「ならまずはインゴット製作だな。サポートは頼むぞ?」

『安心して任せてください‼完璧なサポートを約束しますよ!』

 元気のいいソルテの返事に楽しそうに笑みを浮かべたナギは窯へと火を入れる。
 すでに嫌になるほどに繰り返した作業のため温度調整はすぐに終わって、一応確認してナギは満足げに頷くと楽な銅のインゴット製作を先に行うことにした。
 それに合わせるようにしてソルテもサポートの生産魔法の準備に入っていた。

 そして熱が入って赤く染まった鉱石をナギが取り出すのと同時に、ソルテは以前にも使った【純化】と【腕力強化】の2つを使用した。その発動のタイミングは絶妙で補助魔法が付与されたのを感覚で理解したナギは小さく笑みを浮かべて作業を始める。
 この時ナギとソルテの2人は戦闘で連携するようになったおかげで、生産においても阿吽の呼吸で合わせることが出来るようになっていたのだ。ただ生産自体が久々のため2人が自覚するのはもう少し後の事だった。

 その後はいつものように鎚を振るって鉱石を加工するナギだったが、作業の速度は依然と比べてはっきりと分かるほどに向上していた。以前は1個のインゴット製作に最低でも30分で最高で15分程だった。
 でも今は普通に作業しているつもりでも15分弱でインゴットを1個製作できるようになっていた。

「ここまで早く創れなかったはずなんだけど、もしかして鍛冶レベル上がったかな?」

『まぁ、課題の数が数ですからね~。本気で達成しようとすれば嫌でもレベルが上がっていると思いますよ?』

「ははは…確かにその通りだな。そう言えば最近はステータスも確認してなかったし、後で確認しておくか…とりあえず今はインゴットを作らねば‼」

『そうですね。まずはこの鉱石の山をどうにかしないとですからね‼』

「本当にその通りだな‼」

 インゴットを1つ完成させたことで少し緊張も解れて来たのか2人は、気軽にそう言うと肩の力が抜けた軽い動きで次々に鉱石をインゴットに加工した。
 ただ一度は晩御飯のためにログアウトするため結局インゴット12個が限界だった。

 そして晩御飯を済ませて夏輝と夏帆の2人からの追及を上手く躱した渚は風呂なども終わらせて、軽く休憩してから再度ログインするのだった。
 ログインしたナギはまた最初の噴水広場に出たことに少し不満げだったが、時間もないので足早にゴド爺さんの店へと向かう。

「まったく毎回ログインする場所が一緒なのはどうにかならないのかね。…もしかして俺が変更方法知らないだけか?」

『そう言えば他の異邦人の方が出てくるところはみませんね』

「……よし、考えるのは後にしよう‼」

『逃げましたね?』

「さぁ?どうだろうね~」

 あからさまに話を逸らした事にソルテが呆れたように話すとナギは誤魔化すために普段は出さない陽気な声で答えたのだ。それにソルテは顔を引きつらせてコートの奥に引っ込んでしまい、さすがに今の反応はないな…と自分でも思っていたナギも黙って真っ直ぐにゴド爺さんの店に向けての移動に集中することにした。

 ほどなくして無事に店に着いたナギは既に朝方で、煙突からは煙が出てきているのを確認すると無遠慮に入って奥の作業場へと向かった。
 作業場では何時から始めたのかゴド爺さんが汗を流しながら必死に鎚を振るっていた。それをみたナギは邪魔しないように注意しながら自分の窯の前へと移動した。

「さて、日数も冗談なく危ないし頑張ってやりますか!」

『はい!私もちゃんと協力しますよ‼』

「…おう、頼むぜ‼」

 ナギとソルテの2人共先ほどの会話はなかったことにしたようで元気よくそう言うと、何事もなかったかのように鉱石を取り出して窯に火を入れた。温度の調性もすぐに終わると今回は鉄のインゴット製作のために鉄鉱石を同じランクと品質の物を2つ入れた。

 同よりも熱が通るのに時間はかかるが程なくして赤く染まる、それを確認したナギは素早く取り出して鎚を振るった。その時にソルテもしっかりとコートの中から魔法でサポートを始めていた。
 今回ソルテの使用したサポートの生産魔法は前にも使用した【腕力強化】と【消費体力低下】の2つだった。この2つを選んだ理由としては鉄は銅以上に鎚を振るう必要があるので振るう腕の力を強化して、更に振るう回数が増える負担を減らすために体力の消費を抑えることに重きを置いたのだ。

 その魔法の効果もあってナギは今まで以上に楽に腕を振るう事ができて、いままでのように特に疲れる事も無く25分弱で鉄のインゴットを一つ完成させることが出来た。

「ふぅ…いつもよりもやりやすかったな。そう言えば今回は【純化】を使わなかったんだな?」

『はい、なにせ今日は品質よりも速度を優先した方がいいかと思いましたからね。私が同時に発動できるのは2つが限界なので、品質は諦めたんです』

「なるほどな。そう言う事なら正しい判断だろ。今はレベルも上がって普通に課題の基準は作れるようになっているし、本気で今は時間がないしな」

 どこか不安気に質問に答えるソルテに安心させるようにゆっくり頷いてナギはそう言ったのだ。実際にナギは普通にやっていても30分程で鉄の加工は出来るようになっているので、今回のような場合は速度を上げるようなサポートをしてくれた方が嬉しいのだ。
 そんなナギの内心はわからないにしてもソルテは間違っていなかった事に安心したように胸を撫で下ろした。

「まぁそう言う事で、この後も今のような感じでサポートを頼むぞ?」

『任せてください‼』

 そう言って気合を入れ直したナギとソルテの2人は続けて一気に鉄のインゴットの製作を進めた。回数を重ねるごとにナギの作業からは無駄が消えていき、ソルテのサポートにも隙が無くなって行った。
 最終的に鉄のインゴットは19個までなんとか生産できた。

 確認のためにナギが鑑定しても全部が課題を達成の基準を超えていて、それに満足したナギは安心してログアウトして眠りについた。


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