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第二章 始まりの街防衛戦‼

第百六十一話 防衛に向けて《後編》

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 そして南の草原で何度も戦闘を繰り返して連携を確認したナギとソルテは、日が落ち始めると街へと戻った。

「今日でだいたいは連携の感覚が分かってきたな」

『そうですね~正直、所見の魔法をここまで使いこなすとは思いませんでしたよ。…本当に主様は鍛冶師でいいんですか?実は戦闘職だったりしません?』

「いや、俺のステータス見れるって言ってたじゃん、今さら何を疑ってるんだよ」

『それはそうなんですけど…』

 先ほどまでの戦闘を見て判断力・戦闘技能・戦闘センスなどを見たソルテは動じても生産職と言う事に疑いを持ってしまったようだった。
 なにせ生産職は戦闘スキルを習得はできるが補正は最低値で、元から生産職になろうとする人間は戦闘には不向きな性格の者が多いのだ。そんな常識から考えるとナギの行動はかなり斜めにズレていた。

 そしてナギ本人も自分が生粋の生産職だとは思ってはいないので、疑われても仕方ないと思っているので強く否定する事も無かったのだ。。

「戦闘は元からちょっと実践的な武術を学んでいた影響だよ。何かを作る事は楽しいし好きだから、俺はこの世界では自分の武器を作りたいと思ってきたんだよ」

『…そう言う事だったら理解できなくはないです。鍛冶師の中には、自分で制作したものは自分で試す‼なんで変わった人もいますからね…』

「ははは…とりあえずそんな感じだから、あんまり気にしないで貰えると助かる」

『わかりました。今後は気にしません!』

 ナギが頼むと大きく頷いてソルテは満面の笑顔で受け入れてくれた。
 それからは軽く戦闘を振り返りながら街へと帰ってナギは一度昼食のためにログアウトした。

 自分と夏輝や夏帆の3人分なのでかなり時間を掛けて昼食を済ませ、他にも家事を終わらせると15時過ぎには何とかすべて終わらせた。
 そして少しの休憩を挟んでから改めてログインしたのだ。

「さて、今度は何するかな?とは言ってももう決めてるんだけどな…」

『今度は何処に行くんですか?』

「う~ん…これから行くところは安全保障できないから、消えれるなら消えておいて欲しいんだけど…」

『いやです!せっかく外に自由に出れるようになったのに、また引き籠るのはもったいないじゃないですか‼』

 気を使って顔を引きつらせながらしたナギの提案にソルテは一瞬も迷わずに断った。なにせ妖精は基本自分達の住処から自由に外に出ることをしない、なので人と契約した容姿柄のように自由に外を動けると言うのは妖精にとっては大きな夢の1つだったりするのだ。
 そんな事情をナギは知らなかったが目の前のソルテの様子から切実さだけは伝わって多様で、最終的に少し噛んだえてから仕方ないと言うように小さく息を吐いて頷いた。

「そこまで言うなら、わかった。でもコートの奥から出てこないようにな?」

『了解です‼』

 元気のいいソルテの返事を聞いてナギは押し込むようにコートの奥の方へと入ってもらうと、足早に裏道へと入って以前言ったスラム街へと向かった。
 そこは以前来た時と同じように暗い空気が漂っていたがナギは特に気にしたりせず、普通に歩いて何かを探すように周囲へと視線を巡らせていた。周囲には壊れかけの建物や、薄汚れた格好の住人が多くいて臆することなく進むナギを興味深そうに、あるいは警戒したように見ていた。

 もちろん視線にはナギも気が付いていたが何かしてくるわけでもないので無視して目的のなにかを探して進み、奥のこじんまりとした場所で何かに気が付いたように足を止めた。
 周りを少し見回して確認すると確信したように小さく頷いてナギは建物の中に無遠慮に入っていった。

「どうも久しぶりですねミストさん?」

「本当に来たのか…それでなんで俺がここに居ると分かった?」

 気軽に声をかけるナギに疲れたようにミストはそれ以上に気になった。なにせ諜報員であるミストが簡単に居場所を知られるようなことをするはずがなく、何か原因があるなら対処しないといけないので真剣に聞き返したのだ。
 そして姿こそ依然あった時と同じ浮浪者のようなものから変わらないが、纏う空気は達人のそれでナギはそれにこたえるように楽しそうに笑みを浮かべる。

「周囲にも同僚の方が居るでしょう?その人達の気配の動きや、視線の微妙な揺らぎ、それに以前にあった時にちゃんとミストさんの気配を覚えていたんで、少し探ればわかりました!」

「これでも諜報員だから気配の隠蔽は得意なんだがな…」

「あんまり気にしない方がいいですよ?俺は自分で言うのもなんですけど、ちょっと特殊ですから」

「…なるほどな。はぁ…とりあえず来た理由はなんだ?」

 いろいろナギに対して諦めが付いたのかミストはちょっと疲れたような表情でナギの来た理由について聞いた。
 その質問にナギは楽しそうに笑顔で答えた。

「はい!今日はちょっとスタンピードに備えてお話ししたくて来ました」

「はぁ…そう言う事だったら無下にも出来ないか。少し待て」

 そう言ってミストは建物の奥に入ってしばらくすると手にファイルを持って戻って来た。

「これが今現在、領主側で分かっているスタンピードの詳細な規模だ」

「…こんなもの一般人の冒険者、しかも異邦人の俺に見せてもいいんですか?」

 さすがに内容が内容なだけにナギも手放しで受け取る事なんてできず、緊張した面持ちで真剣に聞き返した。
 そんなナギの反応にミストは呆れたように小さく笑みを浮かべながら答えた。

「ふっ…おまえの事を報告した領主様からのお言葉だよ『そんな面白く強い者なら、敵対せずにとことん恩を売って味方にしておけ』だってよ。よかったな?かなり領主様から認められているようだぞ?」

「えぇ…同じくらい厄介事の臭いもするんだが…」

「そこは俺と関わった自分を恨め」

「はぁ…仕方ないですね。とりあえず見せてもらえるんだったら、遠慮なく見せてもらいますよ」

 いろいろ諦めが付いたのかナギは疲れた表情で溜息を吐くと、一瞬で切り替えて机に置かれているファイルを手に取って内容を確認する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
《スタンピード規模:殲滅》

内容:西の森でゴブリンの大規模な集落を発見。それに伴い森に生息する他の魔物達が食糧不足により森の外へと出てくる事態が発生、いずれはゴブリンの群れの進行がある事は確定と思われる。

 現在確認できているだけでゴブリンの戦力は…
《ゴブリン×300》
《ゴブリン・ファイター×20》
《ゴブリン・メイジ×15》
《ゴブリン・アーチャー×20》
《ゴブリン・ジェネラル×5》
《ゴブリン・キング×1》
 しかしスタンピード時には更に規模が増加している可能性が高いと予想される。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 その後もこまごまとした内容だが装備の品質や活動の時間などの生態に関する情報が書かれていた。他にも狩りの時の動き何かの情報もあってナギは少しめんどくさそうに顔をしかめた。
 だがすぐに真剣にその内容を読むとほんの数分で読み終えてナギは顔を上げた。

「なるほど、思ってた以上に詳しく調べていたんですね」

「そりゃ街の近くでスタンピードが起きるってんだ。詳しく調べない奴は無能もいいところだろ?」

「確かにその通りですね」

「こっちとしてはその量の資料を短時間で読み切った事に驚きだよ…」

 ミストは困ったように苦笑いを浮かべてそう言った。ファイルは厚さだけでもかなりの物で、その上で内容も調べた事全てが書いてあるような物なので量が異常に多いのだ。
 渡された以上ちゃんと目を通していたミストでも軽く30分は読み続けるほどの物だった。

 そんな反応を見たナギは今回はどこか納得したように頷くと、少し気まずそうに頬を掻いていた。

「別に驚かれるようなものじゃないですよ。俺の場合は必要のないと判断した情報を読まないので、ちゃんと読んだと言えるのは半分程でしょうかね?」

「そんなんでいいのか?」

「いんですよ。不特定多数の人間の情報の羅列なんて、無駄が多いのが基本なんですから。自分で適度に添削しないと全部なんて呼んでいられませんって‼」

「う~ん、言われてみればそうなんだろうが…」

 ナギの理屈に理解はできたが納得ができないと言った様子のミストは黙って考え込んでいた。
 その姿を見てナギはちょっと困ったように苦笑いを浮かべながら話しかけた。

「気になるのはわかりますけど、今日はスタンピードに関しての話をもう少ししたいので考えるの後にしてもらっていいですか?」

「あぁ…わるかったな。だったら奥で話すか、あまり外に漏れていいような話でもないしな」

「確かにその通りですね…」

 提案をナギが受け入れると2人は建物の奥へと入っていった。奥は表から見た薄汚いのとは反対に、ゴミや汚れ1つない綺麗な部屋だった。
 最初はそんな外観と内装のギャップにナギは驚いたが、ゲームだし何でもありだろうと思い直した。それからナギとミストの2人はスタンピードでのお互いの立ち回りについてなど多岐にわたって話し合った。
 すべての話し合いが終わったのは数時間後のことで、ログアウトした渚は話し合いに満足できたのか楽しそうに鼻歌を歌っていた。

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