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第二章 始まりの街防衛戦‼

第百七十一話 ゴブリン本軍戦‼《2》

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 調査のために森の奥に入りすぎてナギが戻るのに時間がかかっている間、防衛陣にはゴブリンの本体からの襲撃によって追い詰められていた。

「だぁーっ‼マジでこいつらうっざい‼」

「叫んでる暇あったら手を動かせ!こっちには余裕なんて無いんだよっ」

「分かってるよ‼」

 そして前線に陣取っていたドラゴ達は最初に襲撃してきたゴブリン・ライダーの対処に追われていた。
 ゴブリン・ライダーたちは基本的にヒット&アウェーと言う感じで一撃攻撃を入れると、決して無理をせずに交代するのだ。しかも最初に後衛から集中的に狙われたためなのか離れすぎず、だが近接武器の届かないギリギリのラインまでしか引かなくなっていた。

 そのため後衛が上手くライダー達に攻撃を与えられなくなったことで更にダメージ効率が落ち、倒すのに時間がかかるようになってしまったのだ。
 他にも苦戦する事になった要因の一つはゴブリン・アーチャーとゴブリン・メイジによる援護攻撃が大きかった。
 前衛がライダーに対して盛り返してもその場所を的確に攻撃してくるので、どうしても攻めに転じることが出来ないようにされていたのだ。

「くそっ!めんどくさい攻め方しやがって…」

「本当ですね。ここまで魔物が集団行動できるとは思いませんでしたね」

 しかも数が多くて数体倒しただけでは減った気がしない程の波状攻撃が続き、さすがにドラゴ達も疲れが出て来たのか少し悪態を吐きながら戦い続けていた。それに比例して攻撃が少し大雑把になってダメージを受ける回数が徐々に増えていた。
 それはドラゴ達だけではなく多くのプレイヤー達がそうで、まだ現実で一ヶ月程しか経っていない事もあって初心者なみの技術しかないプレイヤーが多かったのだ。反対に住人の冒険者や騎士達は熟練の動きで的確にローテーションを組んで上手く回し、確実にゴブリンを倒して余裕が生まれ始めていた。

 そんな動きの違いを見せつけられてプレイヤーの何人かは自信をなくしていたが、他のプレイヤー達は必死に見た住人たちの動きをまねて周囲の所見のパーティーとすら協力して戦うようになっていた。

 おかげで少しずつだが確実にゴブリンの数を減らして攻勢に転じられるようになって余裕ができ始めた時、ゴブリン軍団の側も動き出した。

「なんだ?」

「何してるんでしょうね~?」

「何か出てくるのは間違いないだろうけどな」

 その動きにドラゴ達や防衛陣は動揺してはいたが冷静に全員が武器を構えて対応できるように準備していた。
 態勢を整えて待ち構えているとゴブリン達も一気に動き出しておくから皮鎧を身に着けて小さな盾を持ったゴブリンの集団が出て来た。

「あれは…ゴブリン・ファイターだ!全部が武器を扱って来るぞ‼後衛にも注意して慎重に対処しろ‼」

「「「「「了解っ」」」」」

 ウェインが全体に聞こえるように大声で敵の情報を伝えると冷静に周囲の騎士達から答えて動き出した。
 その声がちゃんと聞こえていたプレイヤー達も今まではライダーの速さに付いて行くために軽装の者が前に出ていたが、入れ替わって鎧や大盾を持つ者達が優先的に前に出るようにしたのだ。
 防衛陣の準備が終わるのとゴブリン軍団の突撃は同時だった。

「おんどりゃっ‼」

「こいつら思ったよりたいしたことないですね。しいて言えば、やっぱり後衛がうざったい…」【ファイヤーウォール】

「はははっ!それは確かに言えてるわね‼」【ウォータージャベリン】

 ゴブリン・ファイターに対処しながら普通に会話しながら焔とエレンの2人が魔法でサポートしていた。焔が使ったのはナギも使う炎魔術の【ファイヤーウォール】で炎の壁を作ってアーチャーからの弓矢を防いで、エレンが水魔術の【ウォータージャベリン】を発動して水の槍を創り出して後衛のアーチャーやメイジに向けて放った。
 とは言っても狙い通りに後衛のゴブリンに当たる前にファイターの一隊が割り込んで盾で受けて吹き飛ばされた。だが吹き飛ばされたゴブリン・ファイターはダメージをほとんど受けていないようで、普通に立ち上がって魔法を放ったエレン目掛けて走り出した。

「この魔法を使った相手を集中して狙って来るのも厄介ですね‼」

「本当になっ‼戦いに集中できねぇ」

 後衛を狙われればその対処に前衛の人間は動かなくてはならず、そのせいで前衛が安定して戦えずに戦線が安定し辛くなっていたのだ。それでもファイター自体はドラゴ達が言っていたように大した腕前ではないので倒すのは簡単だったので何とか押されずに済んでいたのだ。
 だが戦いの様子を見ていたウェインはゴブリンの数が上位種も含めて報告書よりも大幅に多い事が気になっていた。

「さすがにこれは誤差とかの範囲で納める訳にはいかないか…」

 深刻な表情で呟くようにそう言ったウェインは森の奥に視線を向けて何が起きているのかを考えていた。その間にもゴブリン達は次々に森の奥から湧き出るように現れ続けていた。
 しばらく戦い続けているが防衛陣の者達はの勢いに衰えは見えていない、だが倒した端から次々にゴブリンが現れるので数が減らないのだ。その事実にプレイヤーや住人達も気が付き始めていた。

「だぁぁぁっ‼減っている気が欠片もしないっ」

「これは本当に…ちょっと辛いですね」

「MPポーションも心もと無くなってきました~」

「私が余ってるから少し分けるわね」

 延々と続く戦闘に体力などよりも先にスキルや魔法の発動に必要なMPの減りが激しくなって、それに比例して回復アイテムの消費が激増したのだ。
 そのため前線で戦っているドラゴ達は更に減りが激しくてMPポーションの切れかけたホホに、まだ余裕のあるエレンがMPポーションを数本譲って何とかしのいでいた。

 それでも確実に回復アイテムが減っていく状況には、まだボスであるゴブリンキングが出てきていない事を知っているウェインなどは事態の深刻度が更に増したと判断した。

「このままだと拙いな…。騎士団の備蓄を解放して配れ!このままだと戦線が崩壊しかねない」

「了解しました‼」

 いまは何よりもこの状況を改善しようとウェインは騎士団の緊急時用の備蓄の回復アイテムを解放するよう指示を出し、近くにいた騎士は疑問を持つことなくすぐさまに反応して動き出した。
 備蓄は騎士団の人数に合わせているためにそれなりの量が有って、おかげで回復アイテムが十分に行き渡って戦線は盛り返して一先ず差し迫った危機は乗り切った。

 それでもまだ戦いが終わった訳ではないので安心する事はできずウェインを真剣な眼差しで奥の森を見つめる。

「ここから先は何が起きてもいいように備える必要があるな。それにも必要だな…」

 静かにそう呟いたウェインは近くに控えていた騎士に周囲に聞こえない声で指示を出し、その指示に騎士は不思議そうに首を傾げたが考えている余裕はないのですぐに指示通りに動き出した。それを見送ったウェインはゴブリンの奥が騒がしくなったのを感じて新手が出てきたと判断し、いままでは本陣から動かなかったのを止めて腰の剣を引き抜いて前線へと向かって動き出した。

 そしてゴブリン軍の後ろから一際は大きな体のゴブリンを成長させたような見た目の【ホブ・ゴブリン】10体以上が姿を現した。その手には木をただ削っただけの棍棒が握られていた。
 作りこそ荒い棍棒だったが大きさは言えの大黒柱に比例する大きさが有って殴られればただでは済まない。

「ここに来てホブ・ゴブリンか、まだジェネラルよりはましだが…」

 ホブ・ゴブリンの姿を確認したウェインは気を引き締め直して剣を握る手に力を入れて走り出した。

「相手はホブ・ゴブリンだ‼あれが出て来たと言う事は、ゴブリンどもはかなり追い詰められている!今が攻め時っ全員陣形を維持しながら突撃!蹴散らせっ」

「「「「「オォォォ――――――っ!」」」」」

 自ら先陣を切って行くウェインに触発されて防衛陣の者達は呼応するように声を上げて真っ直ぐに突っ込んで行くのだ。それに反応してゴブリン達も全力で迎え撃つ構えで突っ込んで行った。
 今日初めて正面から二つの集団が衝突した。そんな頃に森から戻っている途中のナギはと言うと…

「……街はどの方向だったかな?」

 最初に捜索のために左右に大きく動いたために方角を見失って迷子になっていた。それでも遠くから聞こえる大勢に叫び声を頼りに少しずつ街へと戻って行くのだった。
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