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第三章 神の悪戯

第百八十三話 南の鉱山:中腹(3)

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 なんとか大ダメージを与えても徐々に回復するロック・ゴーレムを見たナギは何とか近接に持ち込もうとしていた。巨体を誇る敵は確かに力が強く近づくと危険が増える、しかし同時に足元や背後などに死角も増えて安全圏も実は至近距離の方が広く存在するのだ。
 そのために接近しようとナギはしているのだがロック・ゴーレムは近寄らせないよう近くの岩を砕いては投げ接近の邪魔をするため、思うように近づく事ができずにいた。

「あぁ~もう‼あんな巨体のくせにちまちました攻撃の方がうまいってどうなんだよ!」

『手が大きいですからね。その分、投げる岩も大きくて躱すにも大きく移動しないとですから』

「それはわかってるよ!」

 力技で来ると思っていたロック・ゴーレムがちまちまとした投擲ばかりしてくることにナギは苛立っていた。しかもソルテの言ったように体の大きさに比例して大きな手を持つロック・ゴーレムの投擲は、投げる物一つ一つが巨大な岩で避けるたびに大きく迂回させられることが多く思うように近寄る事ができなかった。
 しかしそれだけならナギもいずれは慣れて攻勢に出れたのだが、それだけではなく投げる前に砕きで破片を散弾のように投げるなど応用技も使用して徹底的に近寄らせようとしなかった。

 もちろんナギとしてもやられっぱなしではなくソルテと協力して土壁で防いだり、ギリギリで上空に逃げるなどを使用して対処しようとした。
 それでも土壁は容易く砕かれ時間稼ぎ程度の効果しかなく、上空に逃げれば散弾に切り替えて逃げ道を塞ぐように覆われてしまい咄嗟にスキルを切って落下する事で避け切った。その間に近寄れたのは2~3mほどでまだロック・ゴーレムとの距離は10m以上の開きがあった。

「真面目にうざいなぁ…」

 そんな細々とした相手の妨害を主にした戦い方にナギは怠そうに言葉を漏らす。
 でもナギは確実に攻撃をしのぎながら前に進んではいたのだ。それだからこそロック・ゴーレムも手を緩める事無く攻撃を続けているのだ。
 横からこの景色を観た者が居れば『節分の時の子供のようだ』とロック・ゴーレムの事を表したかもしれない。

『これは…どっちが気の毒なのでしょう?』

 そんな戦闘を間近で見ていたソルテは徐々にロック・ゴーレムの方が気の毒なような気もして来て、結果的にナギとどちらが攻められているのだろう?と疑問に思った。
 だがソルテの呟きもナギとロック・ゴーレムの攻防の音にかき消されて誰の耳にも届く事はなかった。

 そしてさすがにうんざりしてきたナギが状況の打開へと動き出す。

「本当にうざったい‼」『ファイヤーボール‼』×6

 一瞬にして6個の火球を作り出して背後に配置して一瞬にして圧縮した。以前までならできなかったがスキルレベルが上がっていて、なによりも我慢の限界を超え怒りによって支配されたナギは様々な制御がおろそかになっていた。
 つまりはリミッターが解除されて普段以上の離れ業が出来るようになっていた。

「纏めて吹き飛ばすッ」

 叫ぶと同時に背後の火球を全て放ち最初の2発でロック・ゴーレムの投げて来る岩を吹き飛ばし、残りの4発で本体であるロック・ゴーレムと周辺の地面を吹き飛ばした。
 結果的にまた土煙で状況が確認し難くなってしまったが今のナギはそんな事は気にせず土煙の中を突っ切って進んだ。

「これであらかたつかめる岩はなくなっただろ⁉ぶん殴ってやる‼」

 それがこの攻撃の2つ目の目的だった。爆発によってロック・ゴーレムの周囲には岩はほぼなく、中心部にいたロック・ゴーレムも回復してきていたHPが半分を下回るほどに削れていた。
 こうして邪魔な物を排除したナギは接近する事の出来たロック・ゴーレムの腹部?に全力で拳を振るう。ドガ!バゴッ!ガギャッ!と硬い物を砕く音を響かせながらナギは調子近距離で拳と蹴りの連撃を続ける。

 もちろんロック・ゴーレムも反撃しようとはしたのだが、腕で払おうとすれば肩や肘に当たる部位を敵アックに攻撃されて妨害され、距離を取ろうとすれば膝や股関節を狙って妨害された。
 つまりは先ほどまでロック・ゴーレムがやっていた相手の行動の妨害をおナギがやり返したのだ。
 ただ言葉で言うのは簡単だがロック・ゴーレムが遣ったのは遠距離からの一方的な妨害で見る余裕があった。しかしナギは調子近距離で常に攻撃を続けているさなか、相手の動きの機微に気が付いて妨害すると言う常人離れした観察力と反射速度がなければなせない業だった。

 もっとも怒りに身を任せて戦っているナギは何か考えている訳ではなく本当の意味でのと言うもので対応していたにすぎない。

 こうなってはロック・ゴーレムには何か対処する方法なんて残されておらず、ひたすら自分の防御力を頼って守りの体勢を整えるので精一杯だった。そんな相手にお構いなくナギは全力で比較的脆い関節を集中的に攻撃していた。
 それが続けばいくら岩の体でも徐々にヒビが全身に広がって動きが余計に鈍くなっていき、程なくしてロック・ゴーレムのHPは全損して崩れ落ちて光となって消えた。

 そうして最終的には倒せたが怒りに任せた戦い方だったので、すべて終わって冷静さを取り戻したナギは全力で憂鬱そうにしていた。

「あぁぁーーーーやらかした…」

『倒したのにすごい落ち込みようですね~』

 面白いぐらいに分かりやすく落ち込むナギにソルテは珍しい物でも見るように突いていた。
 そんな事にも反応できない程にナギは先ほどまでの自分の戦い方を反省していた。

「はぁ…」

 なにせ別にあんな戦い方をせずとも時間は少しかかるが確実に勝てた相手だ。それを怒りに任せた強引な戦い方をしてしまったのはナギにとっては酷くみっともないことだった。
 しかもナギに戦い方を現実で教えている師匠はこう言う事に異様に厳しい事もあって、もしもバレたらと思うとナギは肝が冷えるような思いだった。

「……ふぅ、今は考えるの止めよう。俺が言わなければ多分バレないし」

 ただ少し動く事なく休むと落ち着いて考えることが出来たのかナギは息を吐き出すと、そう言って自分を納得させてゆっくりと立ち上がって周囲を見渡す。そこは最初は岩がそこかしこにあるような典型的な岩山だったが、いまでは大小の穴がそこかしこに開いていて、爆発によって大きなクレーターのようになっている場所も数か所あった。
 無数にある穴はロック・ゴーレムが投擲で投げた岩の後だが、他のクレーターに関してはナギのめちゃくちゃな圧縮した火球によるものだ。

 そんな周囲の惨状を目にしたナギは目を閉じて少し考えるとくるっ!と背を向けた。

「よし!あと何回か戦いながら周囲の採掘ポイント探すか‼」

『見なかったふりですか?』

「…しらん。俺は何も見ていない、と言う事でこの話はお終いだ‼」

 全力で現実逃避するナギは追及するように話しかけて来るソルテを適当に流すと足早にその場を後にする。
 それからしばらく周囲を歩いたナギとソルテは数十個以上の採掘ポイントが密集する廃坑のような場所を見つけ、普段なら以前に多様な場所であったこともあって警戒しただろうが現実逃避中に見つけたナギは普通に食いついた。

「おぉ~‼これはまさに宝の山だな‼」

『はい!これだけあれば2~3個は結界石も手に入るかもですよ‼』

「本当か⁉これは俄然やる気が出て来た~!」

 しかも今回はストッパー役でもあるソルテが土の妖精の本能からか同調して採掘に参加してしまい。
 結果的に2人は手分けして目に見える範囲の採掘ポイントを取りつくす勢いで採掘を続けた。

 そして見える範囲の採掘ポイントが無くなったところでようやく手を止めたナギとソルテは少し開けた場所に出ていた。

「いや~大量だったな!これだけあればいろいろできそうだ」

『そうですね。しかも結界石も運がいい事に4個も手に入りましたしね!』

「本当にそれはラッキーだったよ。それで…此処は何処だ?」

『さぁ?私も採掘にだけ集中していたので…見た感じだと、甲府達が休むための場所のようですが…ッ⁉伏せてっ』

「⁉」

 この場所に着いて考えていると急に様子の変わったソルテが普段見せないような大声で叫び、それに反射的に動いて言う通りにナギは地面へと伏せた。
 その後すぐに洞窟全体がゴゴゴゴゴッ!と大きく揺れ出して余計にナギは必死に地面へとしがみついたが、すると入って来た方向から何かが崩れるような大きな音が聞こえて来た。

「まさか崩落か⁉入り口がふさがったか…」

『だ、大丈夫ですよ。私の土魔術を使えばなんとか』

『残念でした~♪それはできませ~ん♬』

「『っ⁉』」

 揺れが収まって2人が話していると何処からともなく第三者の声が響いた。
 それに驚いたナギとソルテの2人は警戒したように周囲を見渡し、そんな2人の姿が見えているのか声だけの第三者は楽しそうな笑い声が響く。

『ははは!そんなに必死に探しても見つからないよ?別にそこに居る訳ではないからね‼』

「…おまえは誰だ。一体何が目的だ?」

『へぇ~やっぱり君は面白いねぇ~♪いいよ、答えてあ・げ・る!僕は狡猾神:ロキ!これから?』

 楽しそうに何処までも楽しそうに響くその声にナギとソルテの2人は不思議と親しみではなく不気味な何かを感じた。
 そしてこれが後々にも続くナギとロキの奇縁の始まりだった。
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