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第三章 神の悪戯

第百八十四話 神の悪戯《廃坑からの脱出》

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 採掘に夢中になって廃坑の奥へと入り込んでしまったナギとソルテだったが、開けた休憩所のような場所に出ると急に大規模な地震が発生して坑道の中へと閉じ込められてしまった。
 しかもそこに突如として響く楽しそうな女の声は自身を『狡猾神:ロキ』だと名乗り、目的をナギが自分の遊び相手にふさわしいかを試すと言うのだ。

「…おまえが神だと証明できるのか?」

 突然姿も見せない正体不明の声に『自分は神だ!』と言われた所で信じることなどできるはずもなく、警戒心を表に出しながらナギは何か証明しろと言い放った。
 それに声だけ聞こえる女はしばらく考えたのちに何か思い浮かんだのか明るい声で答える。

『それなら簡単で面白い!いい方法があるよ~ちょっと待ってねぇ…はい!できたっ‼』

「は、何も起こってない…『ピコン!』ぞ?」

 女の声が聞こえてもすぐに何か起こる事はなく不審そうにしていたナギだが言葉を遮るように響いた通知音にに動きを止めた。何か嫌な予感を感じてナギは確認しないのはまずいことになりそうだと思い確認した。
 そこで変化があったのは加護の欄で【狡猾神の関心】が意味深に点滅を繰り返していた。正直ナギは見たくはなかったがゆっくりと手を動かして覚悟を決めて内容を確認する。

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【狡猾神の関心】

 備考:狡猾神に関心を持たれてしまった証明で、幸運とも不幸とも言える。どうなるかはあなたの選択しだいである。(~イタズラ準備中~)《ほらこれで信じてくれたかなぁ~?やっほ~♬》

 効果:LUCに補正:強・強敵との遭遇率が上昇:?・ハプニング遭遇率上昇:?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 開いた加護の内容欄には書かれていたメッセージの内容がまったく違うものへと変化していた。
 その事を確認したナギは2度3度と認めたくないとでも言うように何度も確認すると、最終的には黙ってしばらく目を閉じていたが諦めたように溜息を吐いて目を開いた。

「はぁ…どうやら本当みたいだな」

『ふふふ!理解してくれたみたいで何よりだよ~』

 渋々と言った様子でナギが正体を認めると響いていた声の女『狡猾神:ロキ』名乗る相手は満足そうに笑っていた。その声を聞きながらナギは苦虫を嚙み潰したような表情をしながら、何が起きても対応できるようにと動けないソルテを懐の奥へと更に入れながら警戒していた。

 ただナギの様子が見えているのかロキは楽しそうに分っていた。

『別にそんな警戒しなくても直接は何もしないよ?そう?』

「なに?」

 意味深に告げるロキの言葉にナギが不審に思って何か言おうとした時、またしても廃坑全体に先ほどよりも強い振動が駆け抜ける。立つ事すらままならない揺れにナギは地面にしがみつくようにして振動に耐えた。
 もっともナギが警戒していたのは最初の揺れの時に崩れた入り口と同じように他の場所も崩落する事だった。
 しかしナギの心配は杞憂に終わる。

 揺れが完全に収まった時に気が付いたのだが周囲の壁の何処も一欠けらたりとも崩れていなかった。
 その事に気が付いたナギは何が起きたのか分かって姿を現さず、今も楽しそうに洗っているであろうロキを睨みつける。

「お前…この廃坑全体に何かしかけやがったな?」

『だいせ~か~い‼今この廃坑は私の力でダンジョン化して破壊不可にしてあるんだよ~?凄いでしょう!』

 まるで子供が自分の作った物を親に見せるようなテンションで自慢げに語るロキにナギは困惑していた。
 最初の印象だけならただの愉快犯的なやばい奴で済むが、今のような反応を見ると単純に幼いのではないかとナギは思ってしまったのだ。
 しかし判断を下すには早すぎると言う事をナギは身をもって知る。

『ふふふ!これで準備は整ったわね』

「っ⁉準備…?」

 急に雰囲気の変わったロキの声にナギは驚いたように顔を跳ね上げ、顔を引きつらせて湧き出る嫌な予感を押さえながら何とか声に出した。
 そんなナギの様子にもどこまでも楽しそうにロキは晴れやかな声で答えた。

『そう準備だよ?何度も言うけどこれは君と言う人間を試す試験のような側面もあるけど、それ以上に?手抜かりなんて許されるわけがない‼』

 そこに込められた理解不能なほどに熱意のあるロキの言葉にナギは何と反応していいのか困っていた。正直ナギとしては迷惑なので手を抜いて欲しい所だったが、同時に自分のやる事には手抜きをできない気持ちに関しては理解できてしまったがゆえに下手に何かを言う事ができなかった。

 その間にもテンションを維持したままのロキは自慢げに今回考えたいたずらに関して語り始める。

『それでは今回の悪戯の内容を発表しま~す‼その名も『廃坑道の迷宮!』ルールは簡単さ?君はここから脱出すればいいんだよ~』

「…他の条件はなんだ」

 簡潔に楽しそうに発表するロキに対して警戒心を緩めないナギは感じていた『嘘は言っていないが、すべてを話していない』だからこそ怒りを買う可能性すら考慮した上で聞き返した。
 するとロキは怒るどころか真逆に嬉しそうに声を明るくして答える。

『はははっ‼正解だよ。ただ脱出するだけなんてつまらないだろ?だから制限時間を設けるよ‼』

「制限時間…」

『そうだよ。異邦人の君に分かりやすく言うと今から、こちらの世界で3日の間に脱出してもらうよ~』

「失敗した場合はどうなる?」

『簡単な罰ゲームを用意しているよ?内容はクリアした時かな~♬』

「……」

 相手の反応からこれ以上何を聞いても答えるつもりはないだろうと判断したナギは沈黙で答えた。下手に何かを話してもロキを楽しませるだけだと自覚して口を固く閉じた。
 それでもロキはお構いなしにナギを挑発するように話す。

『それじゃ迷宮の説明でもうしてあげよう!と言っても大半は普通の迷宮と変わらず、魔物あり!宝箱あり‼罠あり!のスタンダード設定さ~♪と言っても私なりにオリジナリティと言う名のアレンジはふんだんに盛り込んであるから楽しんでくれると嬉しいな~♬』

「っ⁉」

 最初はスタンダードな設定、つまりはリアルでも少しは見聞きする程度の内容だと少し安心していたところでのロキ、つまりは狡猾神のアレンジ付きだと聞いてナギは戦慄する。
 なにせこんな状況を悪戯だと言い張って作り出すような存在が施したと言うだけでいかに凶悪な物なのか、ナギにも想像する事ができなかった。

『一応クリア報酬もいい物を用意しているからさ?楽しみにしてねっ!』

「…ふぅ…わかった。どうせ拒否権もなさそうだしな。ただ一つ確認したいことがあるんだがいいか?」

『一つと言わずいくらでも質問してくれてかまわないよ~?君がどんなことを疑問に思ったのか興味があるからね』

 そう答えた時のロキの言葉には先ほどまでとは別種類のワクワクした子供のような声だった。
 だがどんなに相手が純粋な声を出そうがその本質がこの状況を作り出した相手と言う事に変わりはなく、ゆえにナギは最大限の警戒を保ちながら質問する事にした。

「なら遠慮なく。まずは今居る場所はセーフエリアだと考えていいんだな?」

『そう思ってくれて問題ないよ。ここの他にも二か所にセーフエリアを設置して有るし、ぜひ見つけて有効活用してくれたまえ~♬』

「そして二つ目の質問はこの場で鍛冶をすることに何か問題や、条件などはあるか?」

 どちらかと言えばナギが一番聞きたかった質問はこれだった。今まではセーフエリアの存在を知らないからこそやっては来なかったがプレイヤーの中で一番のナギが持つ強みは、生産職の鍛冶師であるが故のフィールド上でも装備の生産と修復が出来る点にこそあった。
 安全な場所と素材さえあれば簡易きっととは言え鍛冶道具は揃っているからこそだが、だからこそ強みを潰す意味でもなにか条件が付けられている可能性を危惧していた。

『そんな事なのかい?それなら別に気にせずにバンバン!作ってくれてかまわないよ‼この迷宮には採掘場所も損じあする事だしね‼』

「え、いいのか?」

『もちろんだとも!むしろ、せっかくの君の面白い所を何故、私自身が潰すって言うんだい?』

「あ…」

 そう言われた事でナギも冷静さを取り戻して今更ながらにロキの目的を思い出した。
 この狡猾神はナギ自身を『自分の遊び相手にふさわしいのかを見極めたい』と言っていたので、そんな彼女がわざわざ最も強いナギの特性を潰す理由が無いのだ。

「そう言う事だったら納得だよ」

『理解してもらえてよかったよ!それじゃ質問ももうなさそうだし~存分に迷宮を楽しんで、なによりも私を楽しませてちょうだいね?ではスタート~~~~~~』

 そんな楽しそうなロキの声を持って神の悪戯はゴド爺さんやナギの予想をはるかに超える速さで始まった。
 声が聞こえなくなった場所に残されたナギは一人天井を見上げながらぼそり…と言葉を漏らした。

「報酬って…他の神から盗んだ物…じゃないよな?」

 現実でのロキの伝承なんかを少しだけ頭に入っていたナギは不安そうにそう言って、浮かんでくるめんどくさい報酬に関しての事を頭を振って忘れることにするのだった。


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