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第三章 神の悪戯

第百八十五話 廃坑の迷宮:第一区域《1》

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 少し報酬に不安を感じながらもナギが気を取り直して目の前の迷宮攻略に集中しようとすると、それを遮るようにピコン!とシステムメッセージが送られて来た。

「いったい今日は何だってんだよ…もうそろそろ、俺はログアウトして眠っているはずだったのに…」

 現実ではすでに夜中になっているのでそろそろ眠りたいナギだがこの状態で手掛かり一つない中AO時間3日、つまり現実の時間で1日以内に攻略しないといけないのだ。そのために少しでも何かしらの手掛かりを手に入れてから眠りたかった。
 なのですぐにも探索したかったが、このタイミングで来たメッセージが関係ないとも思えずにゆっくりと開く。

――――――――――――――――――――――――――――――

《エクストラクエスト/廃坑迷宮から脱出せよ!》制限時間:2日23時間58分25秒

 達成条件:制限時間以内に迷宮からの脱出
 失敗条件:制限時間内に迷宮から脱出できない

 内容:神によって迷宮へと改変された廃坑に閉じ込められた。時間内に脱出しなければ周囲を巻き込むほどの何かが起きるかも?

 報酬:???・???・???
 ペナルティー:???????襲来
――――――――――――――――――――――――――――――

「……」

 表示されたエクストラクエストと言う見慣れない内容にも驚いたナギだったが、それ以上にそこに表記されたクエストとして出されている事の内容に言葉を失くした。制限時間は別に事前に聞いていたので驚きは少なかったが、それ以上に報酬やペナルティーの見慣れない二つのはてなが問題だった。
 さすがにここまですべて隠された表記はナギも経験したことがなかったのだ。

「ふぅ…落ち着こう。とりあえずこれは正式なクエストと言う事だ。ならロキとか言うふざけた相手が用意したものでも、ぜったいにクリア可能と言う事でいい情報だ」

 何とか落ち着きを取り戻したナギは自分に言い聞かせるようにそう言って頷いていた。正直ナギとしてもいくら髪を名乗る相手が用意したと言っても相手が道楽的なロキだったので、少しだが達成不可能な設定にされているのではないか?と不安に思っていたのだ。
 一先ずは公式に届いたクエスト通知でそれはほぼありえなくなったと結論を出すことが出来た。

 それでも今居る現在地もよく分からないのが現状で、しかも現実の都合であと少しでログアウトしなくてはいけないナギは急いで今後の予定を決める。

「よし、一先ずは当初の予定通りに周囲を探索しよう。できれば何か書く物でも有ればいいけど…無い物は仕方ないか。機会があれば買って常備して置こう」

『それはいいですけど、探索って…?』

 ようやく怖い気配も無くなってナギも落ち着いたタイミングを見計らって、懐から飛び出したソルテは目の前をウロチョロしながらそう聞いた。
 ナギ達が今いる休憩スペースには塞がれた入口への通路を除いても3つの通路が存在したのだ。
 しかも通路にはこれといった特徴がないので下手に動くと見分けが付かず迷子になる可能性があった。

 なので最初のルート選びは慎重にしなくてはならないのだがナギは既に向かうルートを決めていた。

「いく通路は真ん中のだな」

『一応、聞きますけど…選んだ理由は?』

「もちろん直感‼」

『はぁ…』

「おい、その溜息はどういう意味だ…」

 そんな慎重に選ばないといけない最初の選択をナギは直感で選び、あまつさえ自信満々に胸を張って答えるのでソルテは思わず溜息をこぼした。
 そのソルテの反応に不服そうなナギは文句を言うがソルテは凄いのか、凄くないのか分からない自分の契約者に不安そうにしていた。

「まったく、別に本当に直感だけで選んだわけじゃねぇよ」

『では直感の割合はどのくらいなんです?』

「……七割?」

『ほとんど直感じゃないですか…』

「いいんだよ!こういう前情報のない時は、直感に従った方が上手くいきやすいんだよ俺は‼」

 もういい訳にもなっていないナギの言いざまにソルテは残念な人を見る目を向けた。しかしナギの言っている事は自身の経験に基づくもので結果のともなうものだった。
 とは言ってもナギはそんな事を一々説明するようなタイプではないので、少し思わしくない反応に首を傾げながらも進むための支度を準備する。

「さてっと、まずは道に迷わないように目印が付けられないかの確認するぞ」

 そう言ったナギはピッケルを取り出して壁面へと傷を付けると、しばらく観察して修復したりしないかを確認した。結果としては傷は大きくは付かない程の硬度があったが、自動修復のような機能は存在しない事が分かった。

「少し傷を付けるのに苦労しそうだけど、まぁ修復しないなら目印としては十分だな」

『以外にちゃんと考えてたんですね…』

「おまえは俺を何だと思ってるだ?」

 ちゃんと考えて動くナギをを見てソルテが思わず考えている事を口から漏らしてしまい、聞こえたナギが呆れたように問いただすと気まずそうに顔を逸らして次の瞬間にはコートの中へと逃げてしまった。
 それを見ながらナギは諦めたように溜息を吐き出して、気を引き締め直して真ん中の通路へとゆっくりと足を向けた。

「さて、暗いから本当ならランプ何かが必要だけど…俺にはなくても問題なし」

 ナギは暗視スキルを持っているので薄暗い通路の中を普通の昼間の外に近い感覚で見て進むことが出来た。
 通路は大人が三人が横に広がって歩けるほどには広く、高さも2m近くあってかなり広いスペースがあった。ただこれだけ広いと言う事はそれだけ巨大な魔物が出てくる可能性が高く、更にナギは警戒心を高めながら廃坑内を進む。
 その間にも数m間隔で壁に傷を付けて進んでいた。
  
 そうしてしばらく進むと前方から何かを引きずるようなズル…ズル…と言う音が聞こえて来た。
 音を聞いたナギは瞬時に警戒して短刀を取り出して前方へと切っ先を向けながら姿が見えるまで待ち構える。

「うぇ…」

 見えて来た敵の姿を見たナギは思わず吐き気を抑えるように口元を覆った。
 そこに居たのは腐っている体を持つホラーゲームの定番、動く死体の『ゾンビ』がゆらゆらと体を揺らしながら現れた。
 しかも見えるだけでも十体近くがひしめいていた。

「気持ちわるぅ…何でよりによってこれなんだよ…」

 しかも今一番問題になるのはナギはホラー系が大の苦手だったのだ。
 なのでいつもなら敵を見つければ猪突猛進!と言った感じで直進するナギだが、今回は少し腰が引けていていつもの勢いがなかった。
 それでもゾンビ達がわざわざ待ってくれるはずもなく種族的に速度は無いがじわじわ…と近寄って来る。

「く…仕方ない…やるか、遠くから…」『ファイヤーボール』

 なんとか戦う決心をしたナギだったが、さすがに近寄る勇気はなかったのか距離を取ってから火魔術で攻撃を仕掛けるのだった。すると作り出された火球は圧縮はされていないので威力は小さいが、通常程度の威力は問題なく出ていた。
 そんな火球がゾンビ達の先頭に当たると小さく破裂して戦闘の2~3体が火だるまになった。ただそれだけで他のゾンビ達は気にした素振りも無く真っ直ぐに進んで来る。

 その生物特有の恐怖の感情を感じさせない動きにナギの恐怖心は…逆に冷めていた。
 理由は単純で、ナギがホラーを苦手としている理由の一つが『人の怨念』というものが否定しきるだけの材料を持っておらず、現代の化学力でも否定しきれない不審な事件と言うのは数多く存在するからだった。と言う事は十分に人の恐怖心をあおるのだ。

 しかし今目の前にいるゾンビ達は攻撃が問題なく効き、ただ目の前の敵に無感情に襲い掛かるだけの人形と大差ない動きなのだ。
 その動きを見て何かが完全に切り替わったナギの顔からは完全に恐怖心は無くなり、戦闘の物へと精神は変化していた。

「これなら、やれるな…」

 そう言った後のナギはいつもの動きを取り戻した。近寄る事には抵抗感を少し覚えていたが、一度吹っ切れればほとんど気にならないのか短刀に火の付加を使用して集団の中へと入って近い個体から的確に急所を切り裂く。
 しかも効果によって一定の確率で炎上して追加のダメージを確実に与えて、戦闘開始から20分も掛からずにゾンビを全滅させてナギはちょっとした疲労感を感じながら、今のゾンビの事は忘れて通路の奥を目指して進むのだった。
 
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