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第三章 神の悪戯

第百九十三話 最終区域:大蛇の園《中編》

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「くそっ!」

 思わず悪態を付きながらナギは空歩を使用して上空を縦横無地に跳ねて逃げていた。その下にはどこまで続くのか分からない程に長いうねるからだが、ナギの進行方向に邪魔するように波立つ。
 しかも後方からは体の持ち主である正体不明の大蛇の顔で食らいつこうと凄い勢いでむかって来ていた。その牙には最初は気が付かなかったがあからさまに毒だと分かる何かが滴り落ちていて、掠っただけでもヤバイ!と本能が訴えかけてきていた。

「しつこいんだよ‼」

 そう言ってナギは残りMPが少なくなってきているのを確認してどこか下りれる安全地帯を必死に探していた。
 だが見える範囲は全てが大蛇の体に埋め尽くされていて、脇道に入ろうにも長大な体を波立たせることで妨害されてまともに逃げることが出来ない状況に追い込まれていたのだ。
 とは言ってもナギも無策に逃げている訳ではなく、跳び回りながら大蛇の動くときの小さな本当に小さな動きの前兆を記憶していた。しかしいくらナギでも空中を動き回りながら巨大すぎるその体の小さな変化を確認するのは一苦労だった。

「ちっ」

 背後から迫る噛みつきに気が付いてナギはめんどくさそうに舌打ちをすると空をが切れて自由落下して、そのまま下にある大蛇の体に抱き着くようにして着地した。数舜後には頭上を大蛇が大口を開けて通り過ぎたが、その目はちゃんとしたで自身の体に抱き着くナギへと向いていた。
 その視線人はナギも気が付いたが今出来る回避方法としてはこれしかなかった。ただずっとそうしているのは悪手以外の何物でもなく、通り過ぎたと同時に大きく跳んで大蛇の下顎に抱き着いた。

『シャ⁉』

「お、ようやく声出しやがったな」

 いきなり顔に抱き着かれた大蛇は驚きの声を上げて、初めて聞けたその声にナギは場違いなほどのんきな声音でそう言った。だが声や体勢とは裏腹にナギの浮かべる表情は真剣そのものだった。
 ナギがこんなふざけたような格好になったのは単純に蛇の構造的に下顎への攻撃方法は限られているため、現状では優位つと言っていい程に危険が少ない場所だったからだ。だからと言って顔だけでもトラック並の大きさの蛇の顔に生身で躊躇なく抱き着くなんてことは難しい。

 そしてこの大蛇はロキのペットでつまりはなのだ。少しは驚きはしても無防備にいつまでも抱き着かせるような事はしない。
 落ち着きを取り戻すと大蛇は下から体をうねらせて自分の顔めがけて振るった。
 もっとも下に張り付いているナギには一連の動きがまるわかりで叩かれる寸前に話して後ろへと大きく跳んで、隙だらけの首から後ろの部分に全力で蹴りを放つ。

 ガキィーン‼
「っ⁉やっぱり硬いな…」

 しかし渾身の蹴りは甲高い金属音と共に防がれてしまってナギは予想していたとはいえ、完全に無効になっていると見せつけられると悔しそうに吐き捨てる。なにせ脚甲を装備した状態で空歩まで使用して、踏ん張りも効かせた全力の蹴りだっただけによりショックを受けていた。
 それでも攻撃が通じないと言う事がしっかりと理解できたのでナギは十分な成果だと考えて逃走を再開する。

 攻撃が効かない相手にいつまでも接近戦を挑む理由は存在しないし、何よりも今至近距離で見ることが出来てほぼ完璧と言えるほどには動きの予兆を理解できた。
 なにより幸いなことに大蛇は自分の攻撃までは無効にできなかったようで顎に放った体当たりで軽い脳震盪にでもなったのか、少しフラフラしていて今なら闘争できると考えたのだ。

 そうと分かってからのナギは全力で距離を取りながら壁に火球を放って土煙でせめて姿だけでも見えないようにして、爆音によって足音も誤魔化しながら逃げることに成功した。
 入った脇道は大蛇の体が出てきていない所をもちろん選択して見えなくなっても一切安心することなく奥へ奥へ!と必死に走り続けた。更に今まで大人しくしていたソルテに通路をカラチだけでも封鎖してもらう細工も施していた。

「これでしばらくは大丈夫だと思いたいが、何一つ安心できない。出来るだけ遭遇しないように気を付けながら出口を探すぞ」

『もちろんですよ!と言うか何を近距離まで接近、と言うか接触しているんですか⁉死にたいんですか⁉』

「ははは!別に死にたくはないけど、あの時はあれが一番の安全策だったんだから仕方ないだろ?」

『本当ですか…?ただ間近で見て見たかったとかじゃないですよね?』

「……さぁ~早く出口探すぞ‼」

『図星だったんですか⁉』

 そんな少し気の抜けるようなやりとりをするナギとソルテは油断はしていない、全速力で移動しながら周囲をちゃんと確認していた。ナギは目視による他の場所との差異がないのかを、ソルテは鎚の妖精として何かが埋め込まれたりして隠されてないのかを完全に分担する事で集中して確認していた。
 ただナギは走りながら更に背後や脇道から蛇がいつ出てきてもいいように警戒もしているので、どんなにちゃんと確認しようとしても余裕など微塵もなかった。

 途中にはいままでにも何度もあった採掘ポイントも会ったのだが、今回にかんしては本当に止まったら命取りになるので本当に惜しそうにしながら走り抜けた。
 その間にもずっと走って移動しながら探している訳なのだがこれと言って何か気になるものなどは見つけられず、少し危険ではあったがナギは走る速度を少し緩めて考える。

「ここどれだけ広いと思う?」

『え、いきなりですね。そうですね~あの蛇が自由に動けるくらいには広いと思いますよ?』

「だよな…と言う事は、想像以上に広い可能性が高いな。しかも尋常じゃないレベルで…」

 そう深刻そうな表情でナギは言った。もっともナギとしては考えたくもない可能性だったがこの最終区域はロキのペットである大蛇の巣であって、しかも見ただけではあるが大蛇の尻尾を確認できていないのだ。
 更にはそれでていてここまで走り回っていてあんなに長大な大蛇の体の一部さえ横目にも見かけていない事を踏まえると一つの可能性が出てくるのだ。それこそが『大蛇が自由に動き回る事ができるほどに複雑に広い迷路になっている』という事だった。

「これはちょっと…思っていた以上に大変そうだな…」

 この先の事を考えたナギはめんどくさそうにうなだれながら先へと進む。一応ではあるがここに来るまでの道のりはソルテに頼んで塞ぐように土壁を出してもらっていた。
 なので背後からの追撃はある程度は気にせずに進めているだけ少し気分的には楽ではあるのだが、その代償として正面から来た場合の逃げ道を自分で塞いでしまっているのである種の懸けだった。それでも背後への懸念を失くすことで精神的に余裕を持つためにナギは優先した。

 おかげで正面や左右の通路だけに集中する事ができていたのだが、もしナギの想像が正しかった場合はこの手法は問題になる可能性があった。

「はぁ…今更考えるだけ無駄だな。とりあえずソルテはしばらく魔術は使用しないでMPの回復を優先してくれ、MP用のポーション持ってないんだ」

『ちょっ⁉それで今まで馬鹿みたいにスキル使ってたんですか‼途中でMP切れたらどうするつもりだったんですか⁉』

「いや~MP回復用のポーションがあるの最近知ったんだよな…いままでは1でも残ればいいかと…」

『……』

 信じられないものを見るように完全に引いた目をソルテは向けていた。その視線に耐えられなくなったのかナギは誤魔化すように視線を逸らしたその時…ガリガリガリガリッ‼と何かを削るような音が通路に響きだした。

「っ何か近寄って来てる!急いで逃げるぞ‼」

『でも何処から向かって来ているかわかりませんよ⁉』

「わかってる!ただこちらに近づいて来ている以上止まっている方が確実に危険だ。今はリスク承知で別の通路に移動する」

『わかりました』

 ナギの力強い言葉にソルテは了承してすぐに走り出した。
 そして走り出したナギが横道に飛び込むように曲がった瞬間、視界の端に崩落する天井とそこから姿を現す大蛇の姿を見た。同時にナギは『想定外だ』『自分で穴を掘れるのか?』などの余計な思考すべてを放棄して逃げる事一つに集中して全力で駆け出した。
 そのおかげかは分からないがしばらく走り続けて大蛇から逃げることに成功したのだった。
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