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第三章 神の悪戯

第百九十二話 最終区域:大蛇の園《前編》

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 そしてなんとか第二区域を突破したナギとソルテは次のセーフエリアに入ると気が抜けて座り込んでしまっていたが、少しすれば精神的な疲労はある程度回復したのか改めて近くの椅子に腰かけ直した。
 時間の関係もあって一度昼食のためにログアウトしたが、それを終わらせればすぐにログインしてきたナギはまら見たくなさそうに机の上を見る。

「これ、何時から出て来たんだ?」

『気が付いたら、置いてありました…』

「そうか…」

 そう言ってナギが見下ろすと机の上にはまたしてもメッセージが置かれていた。
 正直ナギはもう見たくない気持ちでいっぱいで、その机の上の紙をまるで汚物でも見るような目で見ていた。
 だがメッセージにこの先のヒントか何かが書かれている可能性もゼロではないので、本当に嫌そうにしながらもゆっくりとメッセージを確認する。

『第二区域踏破おめでと~♪いや~今回は思ってたよりも早く踏破されちゃって驚いたよ‼まさか卵を割って怒らせるなんて…最高だったよ~♬』

「チッ…」

 もう出だしから煽っているような内容のメッセージにナギは思わず舌打ちをしてしまう。その様子にソルテは何か口を挟むのは危険だと判断して大人しくメッセージへと目を走らせる。

『今回も楽しませてもらったし報酬用意して置いたから有効活用してね?』

 そのメッセージを読んだと同時に背後でゴトッ!と何か重い物が落ちたような音がしてナギが慌てて振り向くと、そこには見覚えのある宝箱が突然現れた。この段階でナギは宝箱にも意識を向けたがそれ以上に目の前のメッセージを睨みつけていた。
 なにせタイミングよく宝箱が現れたのを見てナギは確信したのだ。このメッセージはリアルタイムで何処からか見ているロキが通信していると言う事だ。

『探しても見えるところにはもちろんいないからね~?それよりも次で最終区域だけど説明聞かなくていいのかなぁ~~~??』

「っ!」

 現状が見えているのをナギが理解したと知るとロキは隠したり誤魔化したりはせず、逆に全力で煽って来たのだ。しかも言っていることがもの凄く困る事なので、ナギは悔しそうにしながらも説明されないのは困るので大人しくメッセージへと目を向ける。

『それじゃさっそく最終区域について説明しよう‼ここには私のペット、の劣等種を放ってあるからひたすらそれから逃げる!そう言う場所になっているよ!ち・な・み・にそのペットのヒントは上げないから自分の目で確認してね~♬それではまた楽しませてくれることを願ってるよ~』

「くそったれ‼」

 メッセージが終わったのを確認したナギは今までの鬱憤を晴らすようにその紙を地面に叩きつけた。
 その声にソルテは驚いてビクッ!と体を跳ねさせたが、正直ナギの気持ちもわかってしまうだけに何とも言えない表情を浮かべていた。
 そして軽く深呼吸して落ち着きを取り戻したナギは改めて背後にある宝箱へと目を向けた。

「…さて、正直もう開けたくはないけど中身の確認だけでもしておくか?」

『そうですね。さすがに何か危険な物を入れているなんてこと…ないはず…ですよね?』

「俺が知りたい…」

 さすがに危険物は入れていないとはナギとソルテも思ってはいたが、なにせ用意したのがふざけたイベントを発生させた元凶のロキだけに警戒せざる得なかった。それでも宝箱を空けない事には部屋から出すつもりが無いのは変わっていないようで、ナギの視線の先にある巨大な何かの目のような装飾のされた門は固く閉ざされていた。

「はぁ…開けない訳にはいかないみたいだな。どうせ鍵は掛かっていないだろうし、さっさと開けよう」

『そうですね…考えるだけ疲れそうですし…』

 ソルテすらもロキの所業にはいろいろと疲れてきているのか投げやり気味で、その反応にナギは苦笑いしながら同意するように小さく頷いて宝箱へと近づいて素早く開けて念のために距離をとる。この段階でロキは本当に何処までも信用を無くしてしまっていた。
 そして何も起こらない事を確認すると小さく安堵の息を吐いてゆっくりと中を確認する。

「……箱か?」

『箱ですね』

 2人が覗き込んだそこには手のひらサイズの白い小さな箱が置かれていた。念のため慎重に手に取ってナギが確認してみるが、何度見ようともただの箱にしか見えなかった。
 まさか何の変哲もない箱をわたされたのか?と一瞬考えたナギだったが、さすがにどんなにふざけた態度の目立つロキでも報酬はちゃんとした物を用意すると思い鑑定スキルを使用した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【????】 品質:伝説 ランク:7

備考:????????????
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はい、これも分からない。と言うか表示が変わっていないような……もしかして…」

 鑑定結果を確認したナギも最初はまたしてもろくに見ることが出来ずに残念がっていたが、表示された内容を再度見て何かに気が付いたのかブツブツと独り言ちながら考え込んでしまった。
 そんな様子のナギにソルテは首を傾げながら話しかける。

『…?どうかしたんですか?』

「いや、ちょっと気になったけど今は気にしてる時間はないし、先を急ごう」

 声をかけられて考えを打ち切ったナギはそう答えると先を急ぐように、いつの間にか開いていた門の先へと足を進める。そこは今までの第一・第二区域と同じように大きな洞窟のような通路が続いているのは変わりなかったが、その幅が広かった第二区域の倍近く広がっていた。

「これは…ペットってやつはかなり大きいようだな…全力で嫌な予感しかしない」

『同意です。見てくださいこの壁、何かがこすれたような跡があります』

「つまりここに居るのは、こんな広い場所でも壁に体を擦らせるほど大きいと言う事か」

『はい』

「……今まで以上に慎重に、そして急いで出口を探すぞ」

 周囲を見ただけで警戒を最大レベルで引き揚げたナギとソルテの2人は周囲に気を配り、息を殺しながら少し駆け足気味に通路を探索して行く。
 ただ探索を続けても敵の姿が見当たらず2人は安心すると同時に少し気が緩み始めていた。

 そしてそんな時を狙っていたかのようにしては姿を現した。
 ズル…ズル…と何かを引きずるような音と共に進行方向の横から現れたのは濃い紫の怪しい光沢の鱗を持ち、何処までも伸びているかのような長大な体を持ち、エメラルドのような翡翠の瞳を持つ1体の蛇だった。
 しかも出て来た蛇は迷いなくナギとソルテの方へと振り向いた。

「っ⁉…下手に動くな。ゆっくりと距離を取ってから逃げる、ソルテはコートの中へと入っててくれ」

『わ、わかりました』

 言われるがままソルテはゆっくりとコートの中へと入り、それを確認したナギは強いプレッシャーから呼吸が乱れそうなのを必死に落ち着けながらゆっくりと一歩ずつ後ろへと下がっていく。
 しかし目の前の蛇はそんな甘い相手ではなかった。少し体をうねらせたと思うと次の瞬間、その巨体からは信じられない勢いでナギ目掛けて跳んできた。

「ッ‼」

 さすがナギと言うべきか跳んできたのを確認すると瞬時に空歩を使用して大きく上空へと跳んで逃げた。とは言え完全に避け切る事はできなかったようで、足が掠ったようで上空で転んだように体勢を崩してしまう。
 それでも維持している空歩を使用して無理やり前へと進み途中で体勢を立て直し、まだ完全に姿を見せていないうちに蛇の体の上を通り抜けて通路の先へと走り抜ける。

 もちろんそれだけで簡単に逃げ切れるとは欠片も思っていないナギは少しでも足止めになれと思って残りMPを気にしながらも、圧縮した火球を3発放って土煙を起こす。

「土壁で通路を塞げ!」

『わかりました‼』

 そしてすかさず指示を出しソルテもすぐに反応して何度もロックウォールを使用して通路を塞いでしまう。
 正直、あの蛇に対しては数秒も足止めできるとはナギも思ってはいなかったが一瞬でもいいから自分達の姿を見失わせ、その間に別の通路へと逃げて走り抜けるつもりだった。
 だが次の瞬間には背後で何かが砕かれるような大きな音が響いて来て、もはや何が起こっているかなど考えるまでもなくナギはとにかく少しでも遠くへ逃げるために振り返らずに走り抜けるのだった。
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