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第四章 鍛冶師の国
第二百十五話 試作【短剣】《後編》
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しばらく次の工程の方法をナギは考えていたのだが、時間を使いすぎて一度ログアウトする必要が出て嫌そうにしながらログアウトした。
その後は怒涛の勢いで食事の支度やらを一気に済ませたナギは現実で2時間程で再ログインした。
ログインすると噴水広場に出るのをめんどくさそうにしながら時間がもったいなかったナギは全速力でゴド爺さんの店へと駆け込み、窯の前ですぐに準備を整えた。
「無駄に疲れた…」
そして座ったナギは一気にやる事を片付けた反動で無駄に疲れていた。
と言ってもAOに来てしまえば肉体的な疲労など関係ないので気分の問題なので、少し項垂れていただけですぐに顔を上げたナギは軽く体を解して頭を切り替える。
「あぁ~~!…ふぅ…さて、頑張りますか。ソルテも協力頼むぞ」
『はい!むしろいつ始めるのか待っていたくらいですよ~‼』
「ははは!それは言うな…」
チクリと刺さるような事を言うソルテに思わずナギは笑って、次の瞬間には気まずそうに視線を逸らしていた。
一応だが必要のない休憩を取っていた事を理解していたからこそナギは反応に困っていた。
もっともソルテも必要以上に言うつもりもないので一安心したナギは本題に入る。
「それで今回は粉末化していないウルフの爪を使うって事で問題ないな?」
『問題ないですよ!』
「よし…頑張るか」
話が纏まるとナギは静かにそう言って意識を切り替える。
完全にスイッチの入ったナギは真剣な表情で窯へと向き直って温度の調性を始めた。
もはや覚えるのも嫌になるほどに繰り返してきた工程にナギは慣れたのか、調整を始めて一分も掛からずに完了することが出来た。
その後も慣れたものでインゴットを窯の真ん中に入れて熱が入るのをひたすら待ち、赤くなり始めると取り出して鎚で打っていくのだ。
ただ本当に嫌になるほどの回数をやったためか、すでにこの工程ではナギの動きが洗礼されてきていた。
飛び散る火花も倍近くに増えていて、音もカン!と澄んだ音が鳴り響いていた。更に加工の速度自体も上がっていて最初のころに比べて倍近い速度で進んでいた。
それはナギだけの力ではなくソルテもまたサポートのコツのようなものを掴んだからでもあった。
そんな2人の努力の結果向上した作業スピードであっという間にインゴットの加工自体は終わった。
ただこれは下準備のようなもので本番はこれからなのだ。
「それじゃウルフの爪を加えるか」
少し大変になる作業に躊躇しながらもナギは覚悟を決めて用意していたウルフの爪を取り出し、そのまま手を加えずにインゴットで包むように鎚で打った。
初めのうちはナギも慣れない僅かな違和感を感じた様子だったが、結局違和感を感じたのは最初だけでしだいに他の経験から何となく感覚を掴めたようで迷いなく鎚を振るっていた。
その後もウルフの爪を数回加えて窯に戻して打ってを繰り返し、一時間近く繰り替え時ながらゆっくりと成型して一本の短剣の形を作れた。最後に仕上げとして刃作りが必要になる訳だが、今回はこれが大変になるのだった。
「?」
最初の内はいつものように砥石を使用して研いでいたナギだったが、その時の感触がいつもと違うような気がして手を止め短剣を確認した。するとすでに20回は研いでいたにも関わらず、いつもならそれなりに出来ているはずの刃がほとんどできていなかった。
その差は本当にわずかだったがナギは気を引き締める必要があるように感じ、真剣さをました表情を浮かべると先ほどまで以上に手の角度や力を気にして研ぎ始めた。
間違えて余分な場所を擦って傷をつけないように気を付けながら。それでいて綺麗に刃となる場所だけを的確に削っていく、普通にやっても神経を使うところいつも以上に集中しているのでナギの眉間には深いしわが寄っていた。
それでも手が止まる事はなく水で流しながら刃を確認し、丁寧に違和感が無くなるまでひたすらに続けた。
「……ひとまずは、これでいいかな?」
しばらくして少し元気のない様子でナギは短剣を確認しながら呟いた。
その手にある短剣は最初のころに比べて綺麗に光を反射して輝き、軽く角度を変えながら確認しているナギの顔を照らしていた。
ひとしきり確認したナギはようやく手を止めて作業台の上に丁寧に置くと一息ついた。
「ふぅ…今回は別の事で疲れた…」
『そうですか?私は思ったよりも楽でした!』
「あぁ…よかったな」
いつも以上に元気のいいソルテに対してナギはろくに答える元気もない様子でそう言った。
なにせソルテの行うのはサポートが中心で一番忙しいのは火入れと鍛錬の時で、最後の研ぎの作業でもサポートの魔法は使用するがやはり数段階は楽になってしまう。
反対にナギはいつも異常の集中力を使用しての作業で体力ではなく精神的に普段とは違う疲労が溜まっていた。
「とりあえず、少し予想外の苦労はあったけど完成させられたな」
何とか気分を変えようとナギはそう言って作業台の上に置いたばかりの短剣を見た。
釣られるようにソルテも短剣を見ると興味深そうに作業台の上へと跳んで移動した。
『確かにきれいにできてますね~』
「言うまでもないと思うけど、危ないから近寄りすぎるなよ?」
『わかってますよ~』
さすがに刃物に不用心に触るほどソルテも迂闊ではないとは思いつつもナギは注意したのだが、元から注意していた事を言われただけなのでソルテも気にした様子もなく短剣を観察し続けた。
『ちゃんと素材も馴染んでいますね』
「あぁ~やっぱり馴染まない事もあるのか?」
確認しながら満足そうに頷いて話すソルテの言葉を聞いてナギは興味が出たようで質問した。
それに対してソルテは小さく一度頷いて答えた。
『はい、失敗すると上手く馴染まず。鉄と素材が別々に混ざり合った不気味な物体が出来上がりますね』
「それは…少し見て見たい気はするけど、さすがに自分で作りだしたいとは思えないな」
説明を聞いたナギはその不気味な物体と言う物を一度見て見たい気分になったが、自分で制作した物がそれに成るのは嫌だったようだ。
その時のナギの表情が面白かったようでソルテは楽しそうに笑顔を浮かべていた。
もっとも笑っている事に気が付いたナギに睨まれると慌てて飛び上がってナギの頭上に戻った。
「はぁ…とりあえず、これで完成と言う事でいいかな。あとはより完成度を高める方法の試作か…」
『鑑定して確認しなくていいんですか?』
「今確認しても仕方ないって気が付いたからな…もっと前に気が付けばよかったけど」
『どういうことですか?』
今回も鑑定スキルを使用して確認すると思っていたソルテは本当に不思議そうに首を傾げた。
その疑問にナギはゆっくりと説明した。
「簡単な話な。最初のやつを鑑定するのは今後の指標として必要だけど、その後の奴は少しやり方買えたくらいで大きく変化しない事に気が付いた。だから最初と最後確認すればいいかな?と思い直した訳だ。そうすれば一々鑑定する手間と時間が節約できるからな!」
『なるほど、でも今回のは初めてやる処方だし鑑定した方がいいんじゃないですか?』
「う~ん…めんどいからパス」
『えぇ~~』
あまりにも身も蓋もないナギの拒絶の言葉にソルテは本当にドン引きした様子だった。
当のナギはと言うと実のところ精神的な疲労が完全にはまだ回復しておらず、ちゃんとした判断が出来ていなくて普段なら言わないような事を口走っていた。
それでも一応本心ではあるので本人は何処かスッキリした表情を浮かべていた。
「とりあえず、そう言う事だから続けて粉末にする方としない方を二つとも徹底的に練習して、最終的にやりやすい方で本番作るぞ!」
『あぁ~もう決定事項なんですね…』
もはや何を言ってもナギは止まらなそうだと気が付いたソルテは諦めたように項垂れ、流れに身を任せることにしたのだった。
そんなソルテの様子にナギは気が付かないままに作業を再開したのだった。
その後は怒涛の勢いで食事の支度やらを一気に済ませたナギは現実で2時間程で再ログインした。
ログインすると噴水広場に出るのをめんどくさそうにしながら時間がもったいなかったナギは全速力でゴド爺さんの店へと駆け込み、窯の前ですぐに準備を整えた。
「無駄に疲れた…」
そして座ったナギは一気にやる事を片付けた反動で無駄に疲れていた。
と言ってもAOに来てしまえば肉体的な疲労など関係ないので気分の問題なので、少し項垂れていただけですぐに顔を上げたナギは軽く体を解して頭を切り替える。
「あぁ~~!…ふぅ…さて、頑張りますか。ソルテも協力頼むぞ」
『はい!むしろいつ始めるのか待っていたくらいですよ~‼』
「ははは!それは言うな…」
チクリと刺さるような事を言うソルテに思わずナギは笑って、次の瞬間には気まずそうに視線を逸らしていた。
一応だが必要のない休憩を取っていた事を理解していたからこそナギは反応に困っていた。
もっともソルテも必要以上に言うつもりもないので一安心したナギは本題に入る。
「それで今回は粉末化していないウルフの爪を使うって事で問題ないな?」
『問題ないですよ!』
「よし…頑張るか」
話が纏まるとナギは静かにそう言って意識を切り替える。
完全にスイッチの入ったナギは真剣な表情で窯へと向き直って温度の調性を始めた。
もはや覚えるのも嫌になるほどに繰り返してきた工程にナギは慣れたのか、調整を始めて一分も掛からずに完了することが出来た。
その後も慣れたものでインゴットを窯の真ん中に入れて熱が入るのをひたすら待ち、赤くなり始めると取り出して鎚で打っていくのだ。
ただ本当に嫌になるほどの回数をやったためか、すでにこの工程ではナギの動きが洗礼されてきていた。
飛び散る火花も倍近くに増えていて、音もカン!と澄んだ音が鳴り響いていた。更に加工の速度自体も上がっていて最初のころに比べて倍近い速度で進んでいた。
それはナギだけの力ではなくソルテもまたサポートのコツのようなものを掴んだからでもあった。
そんな2人の努力の結果向上した作業スピードであっという間にインゴットの加工自体は終わった。
ただこれは下準備のようなもので本番はこれからなのだ。
「それじゃウルフの爪を加えるか」
少し大変になる作業に躊躇しながらもナギは覚悟を決めて用意していたウルフの爪を取り出し、そのまま手を加えずにインゴットで包むように鎚で打った。
初めのうちはナギも慣れない僅かな違和感を感じた様子だったが、結局違和感を感じたのは最初だけでしだいに他の経験から何となく感覚を掴めたようで迷いなく鎚を振るっていた。
その後もウルフの爪を数回加えて窯に戻して打ってを繰り返し、一時間近く繰り替え時ながらゆっくりと成型して一本の短剣の形を作れた。最後に仕上げとして刃作りが必要になる訳だが、今回はこれが大変になるのだった。
「?」
最初の内はいつものように砥石を使用して研いでいたナギだったが、その時の感触がいつもと違うような気がして手を止め短剣を確認した。するとすでに20回は研いでいたにも関わらず、いつもならそれなりに出来ているはずの刃がほとんどできていなかった。
その差は本当にわずかだったがナギは気を引き締める必要があるように感じ、真剣さをました表情を浮かべると先ほどまで以上に手の角度や力を気にして研ぎ始めた。
間違えて余分な場所を擦って傷をつけないように気を付けながら。それでいて綺麗に刃となる場所だけを的確に削っていく、普通にやっても神経を使うところいつも以上に集中しているのでナギの眉間には深いしわが寄っていた。
それでも手が止まる事はなく水で流しながら刃を確認し、丁寧に違和感が無くなるまでひたすらに続けた。
「……ひとまずは、これでいいかな?」
しばらくして少し元気のない様子でナギは短剣を確認しながら呟いた。
その手にある短剣は最初のころに比べて綺麗に光を反射して輝き、軽く角度を変えながら確認しているナギの顔を照らしていた。
ひとしきり確認したナギはようやく手を止めて作業台の上に丁寧に置くと一息ついた。
「ふぅ…今回は別の事で疲れた…」
『そうですか?私は思ったよりも楽でした!』
「あぁ…よかったな」
いつも以上に元気のいいソルテに対してナギはろくに答える元気もない様子でそう言った。
なにせソルテの行うのはサポートが中心で一番忙しいのは火入れと鍛錬の時で、最後の研ぎの作業でもサポートの魔法は使用するがやはり数段階は楽になってしまう。
反対にナギはいつも異常の集中力を使用しての作業で体力ではなく精神的に普段とは違う疲労が溜まっていた。
「とりあえず、少し予想外の苦労はあったけど完成させられたな」
何とか気分を変えようとナギはそう言って作業台の上に置いたばかりの短剣を見た。
釣られるようにソルテも短剣を見ると興味深そうに作業台の上へと跳んで移動した。
『確かにきれいにできてますね~』
「言うまでもないと思うけど、危ないから近寄りすぎるなよ?」
『わかってますよ~』
さすがに刃物に不用心に触るほどソルテも迂闊ではないとは思いつつもナギは注意したのだが、元から注意していた事を言われただけなのでソルテも気にした様子もなく短剣を観察し続けた。
『ちゃんと素材も馴染んでいますね』
「あぁ~やっぱり馴染まない事もあるのか?」
確認しながら満足そうに頷いて話すソルテの言葉を聞いてナギは興味が出たようで質問した。
それに対してソルテは小さく一度頷いて答えた。
『はい、失敗すると上手く馴染まず。鉄と素材が別々に混ざり合った不気味な物体が出来上がりますね』
「それは…少し見て見たい気はするけど、さすがに自分で作りだしたいとは思えないな」
説明を聞いたナギはその不気味な物体と言う物を一度見て見たい気分になったが、自分で制作した物がそれに成るのは嫌だったようだ。
その時のナギの表情が面白かったようでソルテは楽しそうに笑顔を浮かべていた。
もっとも笑っている事に気が付いたナギに睨まれると慌てて飛び上がってナギの頭上に戻った。
「はぁ…とりあえず、これで完成と言う事でいいかな。あとはより完成度を高める方法の試作か…」
『鑑定して確認しなくていいんですか?』
「今確認しても仕方ないって気が付いたからな…もっと前に気が付けばよかったけど」
『どういうことですか?』
今回も鑑定スキルを使用して確認すると思っていたソルテは本当に不思議そうに首を傾げた。
その疑問にナギはゆっくりと説明した。
「簡単な話な。最初のやつを鑑定するのは今後の指標として必要だけど、その後の奴は少しやり方買えたくらいで大きく変化しない事に気が付いた。だから最初と最後確認すればいいかな?と思い直した訳だ。そうすれば一々鑑定する手間と時間が節約できるからな!」
『なるほど、でも今回のは初めてやる処方だし鑑定した方がいいんじゃないですか?』
「う~ん…めんどいからパス」
『えぇ~~』
あまりにも身も蓋もないナギの拒絶の言葉にソルテは本当にドン引きした様子だった。
当のナギはと言うと実のところ精神的な疲労が完全にはまだ回復しておらず、ちゃんとした判断が出来ていなくて普段なら言わないような事を口走っていた。
それでも一応本心ではあるので本人は何処かスッキリした表情を浮かべていた。
「とりあえず、そう言う事だから続けて粉末にする方としない方を二つとも徹底的に練習して、最終的にやりやすい方で本番作るぞ!」
『あぁ~もう決定事項なんですね…』
もはや何を言ってもナギは止まらなそうだと気が付いたソルテは諦めたように項垂れ、流れに身を任せることにしたのだった。
そんなソルテの様子にナギは気が付かないままに作業を再開したのだった。
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