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第四章 鍛冶師の国
第二百十四話 試作【短剣】《前編》
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「それでまずは前段階としてウルフのどの素材を使うかだけど、爪で良いんだよな?」
窯の前で改めてナギは自身まだよく分かっていない魔物の素材を混ぜて作ると言う事に、自身が持てないようで知識が自分よりは確実にあるソルテに確認した。
『そうです。武器に混ぜるのは基本的には牙や骨に角などですから。今回のウルフなら牙か爪になりますけど、武器に使うなら爪の方がいい効果が付く可能性高いですから』
「あぁ~素材に事にも適正みたいなものがあるのか。詳しく聞きたいけど今度にして奥として、今日は爪を使用するか」
使用する素材を決めたナギはアントの足の時と同じようにウルフの爪を大量に取り出すとすり鉢で粉末状にしていった。ウルフの爪は1つの大きさが人間の親指のほどあって内側は鋭くは物のようになっていた。
ただ武器として使うには大きさが圧倒的に足りないので良くて投擲の意思が割にしかならず、だからこそ粉末にして鍛冶の素材として使用するのだ。
ゴリゴリ!とすり鉢から削れていく音が響くが、爪の大きさ自体がそこまで大きくも無いので追加で3個入れてゆっくりと粉末になるまで磨り潰す。とは言ってもウルフが獲物を狩るために使う牙や爪は革鎧くらいなら簡単に切り裂くので、下手な金属よりは丈夫な硬度を持っていて簡単には磨り潰せなかった。
もっともステータスでSTRも上げていたので少しは楽に粉末状に出来た。
「ふぅ…っと危な!」
終わって一息つくとせっかく削ったウルフの爪を吹き飛ばしそうになってナギは慌てて持ち上げて避けた。
一先ず粉末の安全を確保したナギは今度こそ安堵の息を吐いた。
「…よし、まずは粉末に出来たからいいとするか。次はこれをどの程度加えるかと素材に合わせた窯の温度の確認だな」
『そうですね。もう経験でカバーするしかないですけど、粉末で使うなら効果をちゃんと出すなら結構な量が必要ですからね』
「確かに前に銅で作った時も思っていた以上の量を使ったからな」
前回に魔物の素材を使用しての銅の短剣製作の経験を思い出してナギとソルテは今回の工程を細かく話し合う。
そうして最初の30分ほどを話し合いに使って万全の状態で挑むのだった。
「さて、すでに苦労を想像しただけで恐怖しかないけど…頑張るとしますか‼」
『はい!』
話し合いを終えたナギは少し不安そうにしながらも気合を入れてそう言うとソルテも元気よく返事を返した。
その後はいつものように窯へと火を入れて今日の状況に合わせて温度調整を細かくする。今回はまだ経験数の少ない試みでもあるので、いつも以上にナギは慎重に準備をしたのだ。
「これでいいか…」
まだ自信なさげではあったが今考える内では最適だと判断して本格的な作業に入ることにした。
すでにソルテに選んでもらっておいた鉄のインゴットを受け取って窯の真ん中に入れた。そこからはしばらく待って熱が入ったのを確認してから取り出し、素早く鎚を振るった。
激しく火花を散らしながら鎚を打ち付けて何度となく鍛造を重ねる。打って冷めたら窯に戻し、熱が入ると取り出して打つという単純な工程の繰り返しだ。
しかも回数を重ねるごとにナギの手の動きには迷いがなくなり動きがスムーズになっていき、ちょうど火花が少なくなって来たところでナギはウルフの爪の粉末を加え始めた。
少なくても多すぎても問題になってしまうため絶妙な量の加減をしながら加えて混ざり合うように注意しながら作業を続けた。
そして程なくして粉末の三分の二を使ったところで満足したナギは成型に入った。
ゆっくり丁寧に鉄の塊を剣の形へと鎚で整えていく訳だが、取り回しのしやすい形などいろいろ気を付けながら凹凸が残らないようにするのはかなりの腕を要求される。何度となく短剣を作ったナギでも確実に成功するとは言えない程の難易度だった。
それでも戦闘時と同等に集中しているナギは瞬きすら忘れて目の前の素材だけを見ていた。少しでも違和感を感じればそこを叩いて均して形が整うまでそれを続ける。
しばらくして成型も終わって短剣の形になったが仕上げに研いで刃を作り完成だ。
この研ぎの工程も難易度は高くなるのだが成型や鍛造に比べれば難易度は低く、すでに何度もやっているナギは慣れた手つきで研いでいった。
何度となく違和感のある場所を注意して研いでいくことで数分後には綺麗な刃の短剣が一本完成した。
「ふぅ~どれだけ時間かかった?」
『え…あぁ~そうですね。たぶんですけど2時間くらいですかね…』
すべての作業が終わるとナギはひとまず作業の効率がどうか知るために経過時間を確認した。
聞かれたソルテも疲労からか少し鈍い返事をしながら考えて確証はないが答えた。
「思ったよりは経ってないか?スキルレベル上がった成果だと考えるべきかな」
『確かに経験がほとんどない試作だった事を考えると、早く出来ている方かもしれませんね』
「ならよかった。このやり方で間違っていないと言う事だな」
本当に安心したようにナギはそう言った。
今回の事でナギが一番気にしていたのはレベルが上がったが作業の効率に影響が出ているのか?と言う事だった。なにせスキルの影響が本当に実感できない程の物だった時、準備段階でレベル上げもかねて時間を掛けてやったことが無駄に終わってしまう。
その事が不安になっていたのだ。
もっとも今のソルテとの会話で完全に不安はなくなったようでナギは少し休憩するのだった。
「この後は鑑定して、その結果から作業の細かな変更をしていくか」
『はい、その方が失敗は少ないでしょうし良いと思います!』
ソルテの同意も得られたナギは気がねなく休むために壁に寄りかかって冷たさを感じながら少し目を閉じた。
さすがに怖さはないとは言っても熱は感じるのでAO内では汗は出ないが、かなりの暑さにナギもちょっとだけ参っていた。
そうして休憩している間はソルテもやることがないので定位置になっているナギの頭上で寝っ転がって休むのだった。
しばらく動かずに気絶したように休んだナギは30分程経つとゆっくり立ち上がった。
「さて、いいかげん鑑定して作業再開しないとな」
『そうですね!私もどうなっているか楽しみです‼』
「よし、なら早速やるか」『鑑定』
動き出したナギはすぐに鑑定スキルを使用して作ったばかりの短剣を確認した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鉄の短剣 品質 普 ランク 5
耐久値 40/40 攻撃力 42
効果:切れ味上昇:小
備考 上質な鉄のインゴットとウルフの爪を使用して作られた短剣。ウルフの爪の効果で切れ味が通常の物より上がっている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そこに表示された鑑定結果は名前には変化は無かったが普通の短剣に比べてランク1つ上がり、更に追加で切れ味上昇の効果まで得ていた。
「おぉ~ウルフの爪を使うとこうなるのか。確かにこれは武器向きの素材だな」
『そうでしょう。他にも牙も似たような感じの効果がありますよ』
「なるほどな。でも爪を使うのを今回は変えるつもりはないから、詳しい話は後日にな」
自分が爪は武器に向いていると教えたからか自慢げなソルテを見たナギは、困ったように苦笑いを浮かべながら長くなりそうな話を後に回した。
そして目の前の短剣を観察して次は何を試すべきかを考えていた。
「次は粉末にしないで最初から爪を定期的に加える感じでやってみるか」
どうやるのが効果が一番高いのか?今のナギに取っての一番の疑問はそれで、素材の加工や加える時の方法すべて試せるうちに試しておきたかった。何せ残りは一週間もないので施策に使える時間を無駄にしないように必死なのだ。
それを理解しているからこそソルテも無駄に口を挟むような事はしないでナギが結論を出汁まで大人しく待つのだった。
窯の前で改めてナギは自身まだよく分かっていない魔物の素材を混ぜて作ると言う事に、自身が持てないようで知識が自分よりは確実にあるソルテに確認した。
『そうです。武器に混ぜるのは基本的には牙や骨に角などですから。今回のウルフなら牙か爪になりますけど、武器に使うなら爪の方がいい効果が付く可能性高いですから』
「あぁ~素材に事にも適正みたいなものがあるのか。詳しく聞きたいけど今度にして奥として、今日は爪を使用するか」
使用する素材を決めたナギはアントの足の時と同じようにウルフの爪を大量に取り出すとすり鉢で粉末状にしていった。ウルフの爪は1つの大きさが人間の親指のほどあって内側は鋭くは物のようになっていた。
ただ武器として使うには大きさが圧倒的に足りないので良くて投擲の意思が割にしかならず、だからこそ粉末にして鍛冶の素材として使用するのだ。
ゴリゴリ!とすり鉢から削れていく音が響くが、爪の大きさ自体がそこまで大きくも無いので追加で3個入れてゆっくりと粉末になるまで磨り潰す。とは言ってもウルフが獲物を狩るために使う牙や爪は革鎧くらいなら簡単に切り裂くので、下手な金属よりは丈夫な硬度を持っていて簡単には磨り潰せなかった。
もっともステータスでSTRも上げていたので少しは楽に粉末状に出来た。
「ふぅ…っと危な!」
終わって一息つくとせっかく削ったウルフの爪を吹き飛ばしそうになってナギは慌てて持ち上げて避けた。
一先ず粉末の安全を確保したナギは今度こそ安堵の息を吐いた。
「…よし、まずは粉末に出来たからいいとするか。次はこれをどの程度加えるかと素材に合わせた窯の温度の確認だな」
『そうですね。もう経験でカバーするしかないですけど、粉末で使うなら効果をちゃんと出すなら結構な量が必要ですからね』
「確かに前に銅で作った時も思っていた以上の量を使ったからな」
前回に魔物の素材を使用しての銅の短剣製作の経験を思い出してナギとソルテは今回の工程を細かく話し合う。
そうして最初の30分ほどを話し合いに使って万全の状態で挑むのだった。
「さて、すでに苦労を想像しただけで恐怖しかないけど…頑張るとしますか‼」
『はい!』
話し合いを終えたナギは少し不安そうにしながらも気合を入れてそう言うとソルテも元気よく返事を返した。
その後はいつものように窯へと火を入れて今日の状況に合わせて温度調整を細かくする。今回はまだ経験数の少ない試みでもあるので、いつも以上にナギは慎重に準備をしたのだ。
「これでいいか…」
まだ自信なさげではあったが今考える内では最適だと判断して本格的な作業に入ることにした。
すでにソルテに選んでもらっておいた鉄のインゴットを受け取って窯の真ん中に入れた。そこからはしばらく待って熱が入ったのを確認してから取り出し、素早く鎚を振るった。
激しく火花を散らしながら鎚を打ち付けて何度となく鍛造を重ねる。打って冷めたら窯に戻し、熱が入ると取り出して打つという単純な工程の繰り返しだ。
しかも回数を重ねるごとにナギの手の動きには迷いがなくなり動きがスムーズになっていき、ちょうど火花が少なくなって来たところでナギはウルフの爪の粉末を加え始めた。
少なくても多すぎても問題になってしまうため絶妙な量の加減をしながら加えて混ざり合うように注意しながら作業を続けた。
そして程なくして粉末の三分の二を使ったところで満足したナギは成型に入った。
ゆっくり丁寧に鉄の塊を剣の形へと鎚で整えていく訳だが、取り回しのしやすい形などいろいろ気を付けながら凹凸が残らないようにするのはかなりの腕を要求される。何度となく短剣を作ったナギでも確実に成功するとは言えない程の難易度だった。
それでも戦闘時と同等に集中しているナギは瞬きすら忘れて目の前の素材だけを見ていた。少しでも違和感を感じればそこを叩いて均して形が整うまでそれを続ける。
しばらくして成型も終わって短剣の形になったが仕上げに研いで刃を作り完成だ。
この研ぎの工程も難易度は高くなるのだが成型や鍛造に比べれば難易度は低く、すでに何度もやっているナギは慣れた手つきで研いでいった。
何度となく違和感のある場所を注意して研いでいくことで数分後には綺麗な刃の短剣が一本完成した。
「ふぅ~どれだけ時間かかった?」
『え…あぁ~そうですね。たぶんですけど2時間くらいですかね…』
すべての作業が終わるとナギはひとまず作業の効率がどうか知るために経過時間を確認した。
聞かれたソルテも疲労からか少し鈍い返事をしながら考えて確証はないが答えた。
「思ったよりは経ってないか?スキルレベル上がった成果だと考えるべきかな」
『確かに経験がほとんどない試作だった事を考えると、早く出来ている方かもしれませんね』
「ならよかった。このやり方で間違っていないと言う事だな」
本当に安心したようにナギはそう言った。
今回の事でナギが一番気にしていたのはレベルが上がったが作業の効率に影響が出ているのか?と言う事だった。なにせスキルの影響が本当に実感できない程の物だった時、準備段階でレベル上げもかねて時間を掛けてやったことが無駄に終わってしまう。
その事が不安になっていたのだ。
もっとも今のソルテとの会話で完全に不安はなくなったようでナギは少し休憩するのだった。
「この後は鑑定して、その結果から作業の細かな変更をしていくか」
『はい、その方が失敗は少ないでしょうし良いと思います!』
ソルテの同意も得られたナギは気がねなく休むために壁に寄りかかって冷たさを感じながら少し目を閉じた。
さすがに怖さはないとは言っても熱は感じるのでAO内では汗は出ないが、かなりの暑さにナギもちょっとだけ参っていた。
そうして休憩している間はソルテもやることがないので定位置になっているナギの頭上で寝っ転がって休むのだった。
しばらく動かずに気絶したように休んだナギは30分程経つとゆっくり立ち上がった。
「さて、いいかげん鑑定して作業再開しないとな」
『そうですね!私もどうなっているか楽しみです‼』
「よし、なら早速やるか」『鑑定』
動き出したナギはすぐに鑑定スキルを使用して作ったばかりの短剣を確認した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鉄の短剣 品質 普 ランク 5
耐久値 40/40 攻撃力 42
効果:切れ味上昇:小
備考 上質な鉄のインゴットとウルフの爪を使用して作られた短剣。ウルフの爪の効果で切れ味が通常の物より上がっている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そこに表示された鑑定結果は名前には変化は無かったが普通の短剣に比べてランク1つ上がり、更に追加で切れ味上昇の効果まで得ていた。
「おぉ~ウルフの爪を使うとこうなるのか。確かにこれは武器向きの素材だな」
『そうでしょう。他にも牙も似たような感じの効果がありますよ』
「なるほどな。でも爪を使うのを今回は変えるつもりはないから、詳しい話は後日にな」
自分が爪は武器に向いていると教えたからか自慢げなソルテを見たナギは、困ったように苦笑いを浮かべながら長くなりそうな話を後に回した。
そして目の前の短剣を観察して次は何を試すべきかを考えていた。
「次は粉末にしないで最初から爪を定期的に加える感じでやってみるか」
どうやるのが効果が一番高いのか?今のナギに取っての一番の疑問はそれで、素材の加工や加える時の方法すべて試せるうちに試しておきたかった。何せ残りは一週間もないので施策に使える時間を無駄にしないように必死なのだ。
それを理解しているからこそソルテも無駄に口を挟むような事はしないでナギが結論を出汁まで大人しく待つのだった。
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