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第五章 決闘イベント

第二百五十四話 準決勝!前の小休止

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「う~ん!満足した‼」

『十分に実戦で確認できてよかったですね!』

 試合が終わって控室に戻ったナギが楽しそうに戻ってくるとソルテも今回は楽しそうに笑顔を浮かべていた。
 いつもだったらナギの不適切な言動に意味がないとは思っていても注意するソルテなのだが、今回は自分も制作に協力した武器の性能が確認できたことでテンションが上がっていた。

「まだ他の確認もしたいけれど、やっぱり戦闘中に武器を切り替えるの難しいな」

『それはそうですよ。むしろ、そこまで完璧にこなされたら引きますよ?』

「ははは!そう言われると逆に完璧になりたいなっ!」

『別に挑発してたわけではないんでけど…』

 まだまだ未完成だと言われて挑戦心の激ったナギは楽しそうに笑っていた。それを見て疲れたようにソルテは項垂れるのだった。
 それでも試して判明した専用武器たちの話は止まらなかった。

『とにかく使用した感じはどうでした?付与とか問題なかったですか?』

「問題はなかったな。重さも全体的に問題はなかったけど、槍の重心はもう少し調整したほうが良さそうだ。取り回しのときに感覚のズレがあった」

『なるほど、でしたらこの大会終わったら詳しく決めましょう!』

「そうだな。今は他にもやることあるし、付与効果についても問題はなかったから修正箇所はそこだけだしな」

 それで納得した様子の2人だったが細かな効果や実戦での使い方などより深いところまで話していた。
 もはやオタクと言えるほど深く専門的な意見を出し合って思いのほか盛り上がって休憩時間を過ごすのだった。

 その間にも第2試合のツバキと魔法少女の服を着た少女の戦いが始まっていた。
 しかもナギの予想とは反対にツバキの猛攻を少女は奇抜な杖を使って防ぎながら魔法を放っていた。しかも狙いは正確で顔や胸などの急所を狙ったものばかりで、攻撃しながらもツバキは体を捻って躱す必要があって攻め手が減っていた。
 だが純粋な戦闘技術ではツバキが何歩も先を行っていて、徐々に少女の攻撃の回数が目に見えて減ってきて最後はツバキが一瞬で複数の斬撃を放つ刀のアーツを使用して倒していた。

 それでも頭上のHPは半分近く減っていて想像以上の接戦だったことを現していた。
 本来なら第3試合もあるはずだったのだが人数調整をミスしたらしく人数足りず一か所シードのように伸ばすことに対応していたので行われることはなかった。
 ただ会場のいたる所で『あの3人目いらなくね?』などの言葉が漏れていた。

 もっとも今更ルールを変えるわけにもいかない運営側は、何事もなかったように決闘イベントを続行する決定を出していた。

 そんなわけで次はナギ対ツバキの準決勝となるのだが、ここまで小休憩は挟んでいたが一気に進んだこともあって一度ちゃんとした休憩時間を挟むというアナウンスがあった。
 なので観客達を含めてそれぞれ思い思いに過ごすことにしたのだった。


 その中にはナギに負けたグレンもいて、全員の敗退が決まってしまったドラゴ達と会場脇の酒場で項垂れていた。

「…お前らの幼馴染は化け物なのか?」

 しばらく黙っていたグレンは落ち着くと小さく思わずと言ったように疑問を口にしていた。
 だが何よりも問題だったのはドラゴ達の誰一人として否定の言葉を口にすることができなかったことだった。なにせ現実やAOでも少し人間離れしたことをやってのけるのがナギという人間だとドラゴ達はよく知っているのだ。
 ようやく本当の意味でナギの異常さを理解してもらえたことにドラゴ達は嬉しそうにしていた。

「まぁ否定はできないな。ナギは苦手なことも多いけど、できることの習得速度や応用力なんかはけた外れに高いからな」

「そうなんだよな~人付き合いは大の苦手だしな」

「苦手な理由はめんどくさいからって理由だけどねぇ~」

「あれは昔から近づいてくる人たちの対応が悪かっただけですよ。ですから先輩は人と接することに疲れたんだと思いますよ。まぁその原因も先輩の人並外れた実力でしたけど…」

 懐かしむように話すドラゴ達なのだが話を聞いているエレンとグレンの2人は話の内容を真剣に聞いていた。
 おかげで止める者がいないのでドラゴ達は昔にナギがやらかした事を話し出した。

「確か小学生の時に初めて自転車に乗ったときなんか、次の日には片手走行でウィリーしてたからな」

「あぁ~そんなこともありましたね。わざわざ学校で発表したせいで、ほかの影響を受けた生徒が真似をして怪我をしてしまって問題になったんでしたね」

「そうそう!あの時は相手の親が家まで責任をとれ!って怒鳴り込んで大騒ぎになってたんだよ」

「結局兄さんが小学生なのに話したら帰って行ったんですけどね~」

 のんきに話すドラゴ達だったが聞いていたグレンはようやく頭が正常に動きようになったのか、ゆっくりと顔を上げて質問した。

「…いったい何を言ったんだよ?」

「「「「さぁ?聞く勇気はなかった」」」」

 ただ質問に対してドラゴ達は口をそろえて答えた。なにせ昔から武虎に武術を学んでいたナギは小学生の段階で相当に強くて、更には話に合った通りに大人顔負けに頭もよく口も回った。
 それを近しい場所にいただけに経験して知っていたドラゴ達には下手に怒られるようなことをするという選択肢はなかったのだ。

 ちなみに話に出てきた家に突撃した相手の親は小学生が言ってくるとは思っていなかった言葉の数々に恐怖を感じ、関わらないほうがいいと思って逃げるように帰ったという事だった。
 この反応だけで今の会話は続けても無駄だと分かったグレンは話を少し変えることにした。

「前にも強いって話は聞いてたけど、あの多彩な武器を扱えるのもリアルでの武術経験が原因ってことか」

「そういう事だな。今はAOのシステムも使いこなしているだろうから全力で戦えばもっと行くと思うぞ?」

「あれ以上かよ…」

 実際に戦ったからこそナギの本当の実力をよく理解しているからこそグレンは唖然としていた。もちろんごブリンキングとの戦いを外から見ていた時に魔法を使っているのも確認していた。
 だから武器だけが実力ではないのはわかっていたが、武器だけでも全力ではないと言われるともはや笑いすらこぼれそうだった。もう1人のエレンに至っては直接戦ってすらいないのにもはや達観した表情を浮かべてのんびりと出された飲み物を飲んでほっこりしていた。

 その後はゲーム内でのリアルの話はマナー違反だのという事は誰も気にすることなくナギがいかに異常だったかで話は盛り上がり、最後にはこの後の準決勝の話へと移っていた。

「それでドラゴ達から見て次の準決勝では勝てると思うか?」

「さすがにわからないな。今回はナギも真面目に戦っているみたいだけど、いつふざけ始めるかわからないし」

「何より次の人はかなり強いみたいですから。いろんな技を試したくなって長引かせようとする可能性も…」

「なんか本当に大変な奴と知り合いになっちまったんだな。ようやく実感できて来たわ」

 さんざん話しを聞いたことでナギという人物について理解を深められてしまったグレンはしみじみと言った。
 そんな反応にもドラゴ達はどこか同情するような表情を浮かべていた。

「とにかく、次の試合では本当の意味でのナギの本気の戦いが見れると思うから楽しみにしておけばいいさ」

「あぁそうさせてもらうよ」

「それじゃ、休憩時間も終わりそうだし戻って観戦するとしようぜ!」

「おう!」

 こうしていろいろ悩んでいたグレンも元気になってドラゴ達は座っていた席を立って、途中で予想では次の準決勝は長くなると予想して適当につまめる物を買って客席へと向かうのだった。


 


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