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大六章 死神戦

第二百六十九話 死神の胎動

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 そこは暗い闇だけが存在する場所だった。
 地面や天井があるのかしらわからないような不思議な場所で不気味なオーラを纏う者達が集まっていた。

『あの厄介者に盗まれた宝が見つかった…』

『ホントウカ⁉』

『ドコにあった?』

 最初に話した一人を除いた面々はどこか不自然な言葉遣いだったが、話している内容がよほどのことの王で場はザワザワと一瞬で騒がしくなった。
 そんな周囲の騒がしさとは裏腹に唯一流暢に話していた者は静かに話し続けた。

『場所はわかっている。厄介者が気に入った異邦人に報酬として渡していた』

『ナンだと?』

『ワレラのモノをなんだとッ』

 自分達の大切な物を盗んだうえで勝手に人に譲渡したという事に集まった面々は怒りを顕わにしていた。
 そんな状況でもどこか冷静な流暢に話していた者は話を続けた。

『その異邦人が少し前に使用しているところを確認した。間違いではないだろう…』

『デハ、トリモドソウ!』

『ソウだ!ヤッカイモノがもっていないのならエンリョハいらない‼』

『そう簡単でもない』

『ドウイウコトダ?』

 今すぐにでも取り戻しに行こう!という流れに水を差されて不快感を表しながら聞き返した。
 その声に少し呆れを滲ませながらも流暢に話していた者はゆっくと説明を始めた。

『所持している者は厄介者の他にも鍛冶神から加護を受けている。下手に干渉して目を付けられては困る』

『…ソウイウコトカ』

『我々の神器の制作や整備はすべて鍛冶神達に頼んでいる。今回の件が原因で断られるのは不味い』

『ダガ、ドウスル?アキラメルノカ?』

『いや、我々の物は取り戻す。しかし慎重に策を弄する必要がある』

 どこか疑うような発言にも臆することなく絶対の決意に満ちた声で返した。
 だからと言ってもどうするのか分からなければ信用もできないものだ。

『カンガエハアルノカ?』

『ある、すでに下準備は進めてある』

『…ソレナラバイイ、マカセヨウ』

『ドウイ』

『カクジツニトリモドセルノナラ、モンダイナイ』

 自信に満ちた答えに他の者達は納得したように次々に答えた。
 そして答えた者から順に消えていき最後には流暢に話していた者だけが残りゆっくりと立ち上がった。

『さて、根回しを済ませれば遠慮は必要なくなる。面倒事は増えたが、これで必ず取り戻せる』

 決意に満ちた言葉を吐いたその背中には骸骨の装飾のされた一見禍々しい棺が背負われていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――

 そして場所は戻ってナギは数日掛けて始まりの街の周囲フィールドで新素材採取を完了していた。
 北では初心者向けとして紹介されるだけあって歯応えのある魔物とは会えなかったが、やはりほかの南東西の3つでは数は少なかったが戦いがいのある相手と巡り会えた。
 南の鉱山では斬撃や刺突の効果が薄い魔物が多く出現して新の用意した打撃系の武器が活躍した。

「よし、今回はいい感じに試せたな!」

『本当に大変でした…死ぬかと思いましたよ~』

 元から戦闘が苦手だったソルテだけは涙目になってヘロヘロになっていた。
 それでもナギとしては今回の成果には十分に満足していて、簡単に言えばソルテが疲れていようと関係なかった。

「そんなこと言うなよ。おかげで初見の素材が山のように手に入ったんだからさ」

『確かにいっぱい手に入りましたけど…多すぎません?フィールドの魔物の大半を狩りつくしませんでした?』

「う~ん、まぁ多くて困ることはないからいいだろ!」

『いえ、そうではなく他の人が困りませんか?』

 確かに溢れそうなほど大量な素材にもソルテは困惑気味だったが、それ以上に見かける魔物を全て買っていたので始まりの街周辺のフィールドは一時的な安全地帯のようになってしまったのだ。帰る途中にもプレイヤーらしい何人かがフィールドに出ていくのが見えただけに罪悪感が強く残っていたのだ。
 それは指摘されたナギも少しは感じていることのようで困ったように苦笑いを浮かべていた。

「ちょっとやりすぎたかとは思うけど…やってしまったものは仕方ない!気にしてもどうしようもないからな」

『それはそうかもですけど…』

「どちらかというと俺はもっと不吉なものが視界の端に映っているんだよな」

『え、急に何ですか』

 あまりにも話の流れが急に変わってソルテは困惑気味だったが、その時にナギの浮かべる表情を見てよほど確認したくないようなものが見えているのだと気が付き視界共有を使用した。
 そこに映っていたのは『見ろ!』と強く主張するように点滅を繰り替えるクエスチョンマークだった。

『これは…確かに不吉な感じですね』

「だよな。しかも直観が言っている、これにはが関わっているってな」

『奇遇ですね~私もヒシヒシと感じます…これ、見ないで終わらせるって駄目ですかね?』

「無理だろうな。というよりも、無視したら何が起こるか分からないのが逆に怖い」

『確かに…』

 2人が思い浮かべる『愉快犯』によってもたらされた悪戯による苦労だった。
 実際に死ぬわけではないが望んでもいない状況で閉じ込められ、相手の出した条件を強制的に達成させられるのは苦痛以外の何物でもなかった。しかも報酬は厄介ごとの種となるものだ。
 そんな相手からの通知であれば無視するのはリスクが高すぎると考えたというわけだ。

「ふぅ…いい加減に覚悟を決めて確認するか」

『…ですね』

「いくぞ」

『はい』

 ナギとソルテは覚悟の決まった真剣な表情でステータス画面を開いて確認した。




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