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6.悪の芝居
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コールスとアナスタシアがモンスター相手に奮闘しているころ。
ウォレスたちは、自分たちのギルドがある冒険者の街に戻ってきていた。
ギルドが経営している酒場の戸をくぐると、たむろしている冒険者たちが口々に声を掛けてきた。
「“暁の鷹”だ!」
「ずいぶん早かったな!」
「ミリアちゃん、元気?」
パーティ5人はそれに応えることなく、男たちの間を通り抜けると、カウンターの前で立ち止まった。
「よぉ、おかえり……」
と、酒場のマスターは怪訝な表情で、カウンターの向こうから出迎えた。
それもそのはず、いつもなら意気揚々としているウォレスたちが、今は一様に暗い顔をしていたからだ。
「どうかしたのか?」
黙っている“暁の鷹”にマスターがたずねると、
「うぅ……あぁああああぁん!!」
突然、ミリアが泣き崩れた。
いつもぼ~っとしていて、泣き顔など見せたことのない魔術師の号泣に一同はざわついた。
ウォレスは重々しく口を開いた。
「……コールスを、失った」
冒険者たちはどよめいた。
「え、コールスって、あの獣人の探索師か!?」
「そういや、ここにいないな」
「失った、ってどういうことだ?」
とマスターが問いかけると、リュートが答えた。
「第20階層で、アーマーミノタウロス5体と遭遇。退却する際、空堀にかかったつり橋に来た時に、敵の重みで縄が切れて橋が落ちた。それにコールスくんが巻き込まれたんだ」
「くそっ、俺がもう少し早く手を伸ばしていたら……!」
ギリアムが悔しそうな表情で叫ぶ。
「いや、あの状況では無理だ。下手をすれば、君の命も危なかったんだ」
と、リュートが慰める。
「それがなんだってんだ!!仲間一人助けねぇで何が冒険者だ!」
ギリアムは声を張り上げる。
「君だって仲間だっ、もちろん彼も!だがどちらかしか選べなかった!」
言い争う男たちの後ろで、ミリアは顔を覆って泣き続け、マーサがそれを慰めている。
ざわつく空気の中で、ドン!と地響きがした。
片膝をついたウォレスが拳で床を叩いていた。
「……俺はリーダー失格、いや、冒険者失格だ!」
そう言って懐を探り、一枚のカードを取り出した。
「おい、ウォレス……」
「仲間の放棄は、重大な規約違反だ。ここでギルド会員証を返上する!」
「リーダー!」
「ウォレス、そんなっ!!」
会員証を返そうとするリーダーに仲間たちが駆け寄って口々に叫ぶ中、
「だが、罪は俺だけが被る、だからほかの仲間は見逃してくれ!」
ウォレスは必死の形相だ。
マスターは慌てて「落ち着け!」と手を振った。
「仲間の放棄といっても、やむを得ない場合だってある!お前たちの話を聞く限りは、避けようがない事態だったんだろう?そんなのまで罰せるわけがない」
「マスター……」
「いいから、カードはしまえ!……事情は分かった。とりあえず、ギルド長には俺から話しておく。とにかく、お前たちは休め」
「っ、ありがとう……すまねぇ!」
ウォレスはじめ、ギリアムたちも頭を下げて感謝した。
「そうだ、よくやったよ、お前たち!」
「お前らが仲間思いなのはよく知ってるぜ!」
「しっかし、ミノタウロス5体なんて、おっかねぇぜ!」
「しばらくは、ダンジョンに近づけねぇな」
冒険者たちがささやき合う中、ウォレスたちは下を向いたまま、ニヤリと笑ったのだが、それに気づいた者はいなかった……
* * *
それから少し後。
冒険者ギルドの事務所に出向いたマスターは、暁の鷹に降りかかった“災難”について、ギルド長に報告していた。
「そうか、あいつらにそんなことが……」
ギルド長・ビビーリは酒場店主からの報告を聞き終わると腕を組んだ。
「若、どうされますか?」
と店主はビビーリにたずねた。
ビビーリは先代ギルド長の息子で、5年前に亡くなった父の後を継いでギルド長になっているので、周囲から「若」と呼ばれているのである。
「う、うん、まぁ特に処分は必要ないんじゃないか?話を聞く限り、ウォレスたちには特に落ち度もなさそうだし」
と、ビビーリは答えた。
「やはり、そうですよね。俺もそう思います」
と店主が頷いたとき、
「お待ちください、若」
と、事務所の一角から、声を上げる者がいた。
「レイチェル……!」
驚いているビビーリに、レイチェルと呼ばれた女性はこう言った。
「今の話、少し引っ掛かるところがあります」
ウォレスたちは、自分たちのギルドがある冒険者の街に戻ってきていた。
ギルドが経営している酒場の戸をくぐると、たむろしている冒険者たちが口々に声を掛けてきた。
「“暁の鷹”だ!」
「ずいぶん早かったな!」
「ミリアちゃん、元気?」
パーティ5人はそれに応えることなく、男たちの間を通り抜けると、カウンターの前で立ち止まった。
「よぉ、おかえり……」
と、酒場のマスターは怪訝な表情で、カウンターの向こうから出迎えた。
それもそのはず、いつもなら意気揚々としているウォレスたちが、今は一様に暗い顔をしていたからだ。
「どうかしたのか?」
黙っている“暁の鷹”にマスターがたずねると、
「うぅ……あぁああああぁん!!」
突然、ミリアが泣き崩れた。
いつもぼ~っとしていて、泣き顔など見せたことのない魔術師の号泣に一同はざわついた。
ウォレスは重々しく口を開いた。
「……コールスを、失った」
冒険者たちはどよめいた。
「え、コールスって、あの獣人の探索師か!?」
「そういや、ここにいないな」
「失った、ってどういうことだ?」
とマスターが問いかけると、リュートが答えた。
「第20階層で、アーマーミノタウロス5体と遭遇。退却する際、空堀にかかったつり橋に来た時に、敵の重みで縄が切れて橋が落ちた。それにコールスくんが巻き込まれたんだ」
「くそっ、俺がもう少し早く手を伸ばしていたら……!」
ギリアムが悔しそうな表情で叫ぶ。
「いや、あの状況では無理だ。下手をすれば、君の命も危なかったんだ」
と、リュートが慰める。
「それがなんだってんだ!!仲間一人助けねぇで何が冒険者だ!」
ギリアムは声を張り上げる。
「君だって仲間だっ、もちろん彼も!だがどちらかしか選べなかった!」
言い争う男たちの後ろで、ミリアは顔を覆って泣き続け、マーサがそれを慰めている。
ざわつく空気の中で、ドン!と地響きがした。
片膝をついたウォレスが拳で床を叩いていた。
「……俺はリーダー失格、いや、冒険者失格だ!」
そう言って懐を探り、一枚のカードを取り出した。
「おい、ウォレス……」
「仲間の放棄は、重大な規約違反だ。ここでギルド会員証を返上する!」
「リーダー!」
「ウォレス、そんなっ!!」
会員証を返そうとするリーダーに仲間たちが駆け寄って口々に叫ぶ中、
「だが、罪は俺だけが被る、だからほかの仲間は見逃してくれ!」
ウォレスは必死の形相だ。
マスターは慌てて「落ち着け!」と手を振った。
「仲間の放棄といっても、やむを得ない場合だってある!お前たちの話を聞く限りは、避けようがない事態だったんだろう?そんなのまで罰せるわけがない」
「マスター……」
「いいから、カードはしまえ!……事情は分かった。とりあえず、ギルド長には俺から話しておく。とにかく、お前たちは休め」
「っ、ありがとう……すまねぇ!」
ウォレスはじめ、ギリアムたちも頭を下げて感謝した。
「そうだ、よくやったよ、お前たち!」
「お前らが仲間思いなのはよく知ってるぜ!」
「しっかし、ミノタウロス5体なんて、おっかねぇぜ!」
「しばらくは、ダンジョンに近づけねぇな」
冒険者たちがささやき合う中、ウォレスたちは下を向いたまま、ニヤリと笑ったのだが、それに気づいた者はいなかった……
* * *
それから少し後。
冒険者ギルドの事務所に出向いたマスターは、暁の鷹に降りかかった“災難”について、ギルド長に報告していた。
「そうか、あいつらにそんなことが……」
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「若、どうされますか?」
と店主はビビーリにたずねた。
ビビーリは先代ギルド長の息子で、5年前に亡くなった父の後を継いでギルド長になっているので、周囲から「若」と呼ばれているのである。
「う、うん、まぁ特に処分は必要ないんじゃないか?話を聞く限り、ウォレスたちには特に落ち度もなさそうだし」
と、ビビーリは答えた。
「やはり、そうですよね。俺もそう思います」
と店主が頷いたとき、
「お待ちください、若」
と、事務所の一角から、声を上げる者がいた。
「レイチェル……!」
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「今の話、少し引っ掛かるところがあります」
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