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第30話
しおりを挟む着替え終わって智さんの元に戻ると、また別の部屋に連れてこられた。
中に入ると、すでにスタンバイしてたインタビュアーさんが、立ちあがった。随分若い女の子。二十才位とかかな。ちょっと珍しい。
「蒼紫さん、涼さん初めまして。私、元々Crossの大ファンなんです。今回雑誌の企画で、初めて取材させていただきます。モデルの虹丘 美紀です。よろしくお願いします」
モデル雑誌の企画か。なるほど。隣に居て挨拶してる人が本来の取材担当の人なんだろうな。と挨拶しながら、予想を付ける。
蒼紫と一緒にその二人の向かいに腰かける。
しばらく話していると、段々感じてきた。
Crossの大ファンとはいったけれど。
彼女は蒼紫の大ファンなんだな。
それがバレないように、最大限にオレにも気を使ってるみたいだけれど、視線を投げかける回数が、蒼紫に対して多いし。着ている服の色も蒼紫の好きだと公表されている青系。アクセサリーも、前に蒼紫が名前を挙げてたブランドのもの。
大好きなんだろうなあ……。
別に、それについては何も思わない。
蒼紫は昔からものすごくモテたし、芸能界とか話が出始めた時も、絶対、売れるんだろうなーと、友達の欲目抜きにしても、確信していたし。
でも、こうして、蒼紫を大好きな、超綺麗な人を目の前に見ていると。
やっぱりちょっと複雑。
オレを好きだと言ってくれたけど。
……芸能界なんかに居ると、普通のレベルをはるかに超えてる可愛いとか綺麗な子が、いっぱい居る。
……いつ、女の子が良いって言うか、分かんないよな。
……うーん、でも。
さっきの話だと、蒼紫って、幼稚園の入園式から、オレのことが可愛いの??
そう思うと、もしかしたらかなり特殊な趣味で、
さらに、ものすごく、執着な感じでの性質ってことなのかな。
――それなら、他にはいかないでくれたりするかなあ?
うーん。それでも、人の気持ちなんて、分かんないけど。
……あ、でもオレが蒼紫を好きなのは、一生な気がするけど。
「涼さんはどうですか?」
「――」
「涼?」
蒼紫を熱っぽく見つめる虹丘さんをぼんやりと見ていたオレは、呼びかけられた言葉に反応するのが遅れた。蒼紫に、つん、と腕を押される。
「え…… あ、すみません」
「いえいえ、お疲れですよね」
すかさず言ってくれるのは、彼女が気が利く人である証拠。
「いえ、ほんとにすみません。好きなタイプ、ですよね」
「はい」
蒼紫は……なんて答えたんだろ。聞いてなかった。
ちら、と蒼紫を見ると、ん?と少し笑む。
なんでこんな、これだけのことで、こんなにカッコいいんだか。
「優しい子、ですね」
言うと、虹丘さんがにっこり笑った。
「ちなみにお二人、年上の女性とかはいかがですか?」
蒼紫は、ふ、と、笑った。
「年上でも全然。好きになったら全然関係ないです」
「オレも」
好きになったら。
何にも、関係ないのかも、しれない。
それを聞くと、虹丘さんはにっこり笑った。
「わかりました! 今回のこの記事が好評だったら、私、この先、二人の取材担当になれるかもしれないので、頑張って、お話まとめますね! 今日はありがとうございました」
挨拶をすませた所で智さんが間に入ってきて、お開きとなった。向こうの二人が出て行って、智さんがオレ達に向き直る。
「お疲れ、あと二社。写真撮影は一着ずつだからすぐ終わるからね」
「はい」
「とりあえず、N社って札が付いてる服に着替えて、さっきの撮影の部屋に来てくれる?」
「分かりました」
蒼紫と着替える部屋の中に入ると、蒼紫がまた鍵を閉めた。
「蒼紫? カギ閉めると、怪しまれるよ?」
「着替えてるからってことにすりゃ平気」
鍵を閉める音に気付いてそう言ったら、蒼紫はちょっと笑ってそう答えて。そうかなあ? と言ったオレは、またまた抱き締められてしまった。
「蒼紫??」
「何、さっきぼーっと、彼女見つめてたの」
「は?」
くす、と笑って、オレの頬に触れる。
「涼の好みだよな。線の細い、可愛い、優しそうな子」
「え?」
言われた内容がやっと意味が分かっても、そんなことはまるで考えてなかったので、蒼紫を見上げて、眉をひそめてしまう。
オレの顔を見て、蒼紫は、ぷ、と笑った。
「違った?」
「全然違うよ」
「――じゃあなんで見つめてたの?」
「あの子、蒼紫の大ファンなんだろうなーと思ってただけ」
「ああ、服の色とか? アクセサリーとか?」
「気づくんだね、蒼紫」
「あれはあからさまだろ。気づくわ」
「すごくキレイな子だなーと思って。蒼紫のこと大好きなんだろうなあって思ってたら何かぼーっとしてただけ」
「――」
「ていうか、オレ、今まで、確かにそういう子好きって蒼紫に言ってきたけどさ」
蒼紫の腕の中から、蒼紫をまっすぐ見上げる。
「蒼紫にバレないようにそれ言ってきただけで。女の子の中で好きなタイプ聞かれたらそうだけど、もう今そんな必要ないし。――変な気持ちで見つめたりなんか、しないよ?」
頬に手がかかったと思った瞬間、唇が重なってくる。
「かわいー……」
離れた唇の間でそう囁かれて。
も一度、キスされる。
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