12 / 16
第一章
第11話
しおりを挟む体育館は、ざわつき始めた。多分、相当柄が悪く見えるからかも。周りを見ると、ちょっと眉を寄せてる人も見える。多分「あれがトップ?」と、否定的な感じが、見てとれた。
その一方で、カッコいいーって声も、聞こえる。先輩たちの方からも聞こえてきて、くすくす笑う人の声で、ますますざわついていた。
あんなかっこじゃないほうがいいのに。いくらここが自由だからって、挨拶の時くらい、ちゃんとした格好してくればいいのに。
なんだかおかしいけど、オレは、心配になって、脚の上の手をぎゅっと握り締める。
あんまりよろしくない雰囲気が、体育館を占めた中。
マイクをセットしてもらうと、あいつは、まっすぐ前を見て、一度お辞儀をした。
そして、まっすぐに瞳を上げる。
――体育館が、シン、と静まり返った。
見た目と、お辞儀の綺麗さに、ギャップがありすぎる。
――合気道の時に、いつもしっかり礼をするんだけど。そういう、武道の礼みたい。
綺麗で、びっくりした。
皆がそれを思ったのかは、分からないけれど。
あいつが、前をまっすぐに見据えて、何を言うのか。
多分、皆、聞きたくなったんじゃないだろうか。と、思った。
静かにはなったけど、それでもなぜか、オレが緊張して、ぎゅっと拳を握り締めてしまう。
「新入生を代表し、一言ご挨拶申し上げます。清宮 碧斗きよみや あおとと申します」
きよみやあおと。清宮。なぜかその名前を、噛みしめていると。
背筋を伸ばし、まっすぐ前を見据えたまま、あいつは、話し始めた。
「春の眩しい日差しの中、私たち新入生は本日、伝統ある神陵高校の門を叩くことができました。温かくお迎えくださり、心より感謝申し上げます」
その声は、迷いもなく、よく通って、言葉の一つ一つが、体育館の中に響いてくる。
普通、何か紙を読むと思うのだけれど、清宮は、何も持たず、前を見据えていた。
体育館は、静かだった。もう、眉を顰めている人は、いなかった。
そこまで、綺麗な言葉で伝えた後、一拍息をついた。
「ここからは、自分の言葉で話させてください。先生方にも、ご了承いただいているので、どうぞ、肩の力を抜いて、聞いてください」
ふ、と笑った。
あんなところで。こんなに大勢の人の前で。あんな風に笑えるのって――すごい。
「実は今日、わざとこの格好で来ました。もしかしたら注意されるかと思いましたが、まあいいか、行ってこいと送り出してくださった先生方に、まず感謝したいと思います」
体育館の中に、くすくすと、笑いが起こる。
「私が神陵高校を選んだのは、学力を重視したうえで、自分らしさを大切にできる校風に惹かれたからです。校則が緩く、でも、部活や行事は全力投球という特色が、絶対に面白いと信じています。勉強はもちろんすべての活動も、そして、人との関わりも」
清宮はそう言って、視線を動かす。
「――友達や仲間、そして、恋も。全部、本気で楽しみましょう。ちなみに明日からはもう少しアクセサリーは外します。私は、空手部に入る予定です」
そんな挨拶にところどころ笑いが起こっていたけれど、意外だったのか「空手部」のところで「おぉ」とざわついた。その中で、清宮は、少し悪戯っぽく笑った。
「さっき、とても興味を惹かれる人と出会いました。名前を聞いたら教えないと言われて、逃げられました」
そんな言葉に、笑いが起こる中、力強く、はっきりと言葉を並べていく。
「高校の友達や人間関係は、人生で宝になる。中学の先生の言葉です。本日より始まる高校生活が、私たちそれぞれの未来を形作る大切な時間となるよう、全力で楽しんで前へと進んでいくことを誓い、挨拶といたします。新入生代表 清宮碧斗」
大きな拍手。保護者や先生たちまで、楽しそうに拍手してる。
――とりあえず、どんな学校かはよく分かった。こんな感じが歓迎される学校。
そして、さっき、出会ったあいつが、どんな奴かも。すごく、分かった気がした。
ていうか、あいつ。
興味を惹かれるって――オレのこと?
名前聞いて教えないって逃げる奴、オレ以外に居るだろうか。
なんだか、胸が、ものすごくドキドキする。絶対あいつ、心臓に良くない。
197
あなたにおすすめの小説
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
夜が明けなければいいのに(洋風)
万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。
しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。
そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。
長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。
「名誉ある生贄」。
それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。
部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。
黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。
本当は、別れが怖くてたまらない。
けれど、その弱さを見せることができない。
「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」
心にもない言葉を吐き捨てる。
カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。
だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。
「……おめでとうございます、殿下」
恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。
その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。
――おめでとうなんて、言わないでほしかった。
――本当は、行きたくなんてないのに。
和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。
お楽しみいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる