一目惚れなんてしてないってば!

星井 悠里

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第一章

第11話

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 体育館は、ざわつき始めた。多分、相当柄が悪く見えるからかも。周りを見ると、ちょっと眉を寄せてる人も見える。多分「あれがトップ?」と、否定的な感じが、見てとれた。
 その一方で、カッコいいーって声も、聞こえる。先輩たちの方からも聞こえてきて、くすくす笑う人の声で、ますますざわついていた。

 あんなかっこじゃないほうがいいのに。いくらここが自由だからって、挨拶の時くらい、ちゃんとした格好してくればいいのに。
 なんだかおかしいけど、オレは、心配になって、脚の上の手をぎゅっと握り締める。

 あんまりよろしくない雰囲気が、体育館を占めた中。
 マイクをセットしてもらうと、あいつは、まっすぐ前を見て、一度お辞儀をした。
 そして、まっすぐに瞳を上げる。

 ――体育館が、シン、と静まり返った。

 見た目と、お辞儀の綺麗さに、ギャップがありすぎる。
 ――合気道の時に、いつもしっかり礼をするんだけど。そういう、武道の礼みたい。
 綺麗で、びっくりした。

 皆がそれを思ったのかは、分からないけれど。

 あいつが、前をまっすぐに見据えて、何を言うのか。
 多分、皆、聞きたくなったんじゃないだろうか。と、思った。

 静かにはなったけど、それでもなぜか、オレが緊張して、ぎゅっと拳を握り締めてしまう。


「新入生を代表し、一言ご挨拶申し上げます。清宮 碧斗きよみや あおとと申します」

 きよみやあおと。清宮。なぜかその名前を、噛みしめていると。
 背筋を伸ばし、まっすぐ前を見据えたまま、あいつは、話し始めた。

「春の眩しい日差しの中、私たち新入生は本日、伝統ある神陵高校の門を叩くことができました。温かくお迎えくださり、心より感謝申し上げます」

 その声は、迷いもなく、よく通って、言葉の一つ一つが、体育館の中に響いてくる。
 普通、何か紙を読むと思うのだけれど、清宮は、何も持たず、前を見据えていた。

 体育館は、静かだった。もう、眉を顰めている人は、いなかった。
 そこまで、綺麗な言葉で伝えた後、一拍息をついた。

「ここからは、自分の言葉で話させてください。先生方にも、ご了承いただいているので、どうぞ、肩の力を抜いて、聞いてください」

 ふ、と笑った。
 あんなところで。こんなに大勢の人の前で。あんな風に笑えるのって――すごい。

「実は今日、わざとこの格好で来ました。もしかしたら注意されるかと思いましたが、まあいいか、行ってこいと送り出してくださった先生方に、まず感謝したいと思います」

 体育館の中に、くすくすと、笑いが起こる。

「私が神陵高校を選んだのは、学力を重視したうえで、自分らしさを大切にできる校風に惹かれたからです。校則が緩く、でも、部活や行事は全力投球という特色が、絶対に面白いと信じています。勉強はもちろんすべての活動も、そして、人との関わりも」

 清宮はそう言って、視線を動かす。

「――友達や仲間、そして、恋も。全部、本気で楽しみましょう。ちなみに明日からはもう少しアクセサリーは外します。私は、空手部に入る予定です」

 そんな挨拶にところどころ笑いが起こっていたけれど、意外だったのか「空手部」のところで「おぉ」とざわついた。その中で、清宮は、少し悪戯っぽく笑った。

「さっき、とても興味を惹かれる人と出会いました。名前を聞いたら教えないと言われて、逃げられました」

 そんな言葉に、笑いが起こる中、力強く、はっきりと言葉を並べていく。

「高校の友達や人間関係は、人生で宝になる。中学の先生の言葉です。本日より始まる高校生活が、私たちそれぞれの未来を形作る大切な時間となるよう、全力で楽しんで前へと進んでいくことを誓い、挨拶といたします。新入生代表 清宮碧斗」

 大きな拍手。保護者や先生たちまで、楽しそうに拍手してる。

 ――とりあえず、どんな学校かはよく分かった。こんな感じが歓迎される学校。
 そして、さっき、出会ったあいつが、どんな奴かも。すごく、分かった気がした。

 ていうか、あいつ。
 興味を惹かれるって――オレのこと?
 名前聞いて教えないって逃げる奴、オレ以外に居るだろうか。

 なんだか、胸が、ものすごくドキドキする。絶対あいつ、心臓に良くない。



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