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第一章
第14話
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「名前。今度は教えてくれる?」
「……久藤 翠。久しいに藤の花に、みどりとも読む翠って字。分かる?」
「分かるよ。翡翠だろ。綺麗で透明なイメージ、ぴったりだな」
「――そう?」
そんな風に言われると、すごく嬉しい。
「翠は深いエメラルドの緑でさ。 碧は濃い青緑って感じ。なんかぴったりじゃね、オレらの名前」
くすくす嬉しそうな顔で笑う清宮に、なんだか答えられずに黙っていると。
「先に謝っとくよ」
笑いを引っ込めて、そう言った。髪がさらりと揺れて、宝石みたいにキラキラしてる黒い瞳が、じっとこっちを見ている。
ただそれだけのことなのに、息がうまくできなくなって、心臓が、変なタイミングでドキドキと弾む。
「ごめんな、一目惚れとかいきなり言って」
清宮が、カップの縁をなぞりながら、ふと視線を落とした。
今までは軽く笑いながら話してたのに、今は本当に真剣な口調だった。
――心臓が、また跳ねた。
やめてほしい。そんな顔して、そんな声で、ずるい。
そうだよ、一目惚れ、なんて。嫌いな言葉だ。大嫌いな、トラウマ、ひきずりだされる言葉な筈だ。
「驚かせたよな。正直、自分でもびっくりしてるんだ。あんなの、何も考えずに口にしたの、初めてだったから」
その言葉を聞いて、テーブルの上でコップを押さえてる指先にきゅっと力が入った。
「……オレ、一目惚れって信じてないから」
気づけば、口が勝手に動いていた。
清宮の顔はまっすぐで、嘘ひとつなさそうで――だからこそ、なんだか余計に怖くて、つい言葉が出た。
オレは俯いて、ストローの先を指でいじる。
ほんとは、もっと強く言いたかったのに、声は思ったよりも小さくて、揺れていた。
やっとの思いで伝えたそれに、清宮は、穏やかな声で返した。
「もしかして、一目惚れって、地雷だった?」
――え。何で、分かるの。
心臓が掴まれたみたいに、跳ねる。
「オレもさ、たまにそれで告られるから、分かる」
清宮は、ただ当たり前みたいな顔で言った。
その言葉が、静かに胸の奥に入り込んでくる。
分かるって、言ってくれて嬉しいかも。
今まで、ほとんど誰にも言えてないし。理解されないと思ってたから。
「だからこそ、オレ、自分が一目惚れなんて、言うとは思わなかった。自分で、自分に驚いてさ。逃げられても、追いかけられなかった」
苦笑して、清宮が言う。
からかうような軽い口調じゃなくて、戸惑いの混ざった声。
清宮は、本当に、オレに言った言葉と向き合ってくれてるみたいで。
……ずるいな、ってまた思った。
「だからさ、さっきの一目惚れってやつ」
清宮は、真面目な顔になって、オレの目をまっすぐ見た。
「一旦、撤回させて」
「……え?」
「言葉が軽すぎたから。咄嗟に出ちゃったのは謝る」
言葉を選ぶように、ゆっくりと。
「ただ、お前と、仲良くなりたいって思ってる。ちゃんと、お前のこと、知りたい」
……ずるすぎる。
撤回って言いながら、それって結局、全然撤回してないじゃん。
一目で気に入ったから、そうなってるってことだよね。
そう思っていると、清宮は、ほんの少しだけ声を落とした。
「それに――オレ、お前の顔だけが気に入ったわけじゃない」
「……え?」
「その、でっかくてまっすぐな瞳。芯が強そうなとことか。ちょっと気が強そうなとことか……そういうのが気に入ってて、もっと知りたいって思ってるから」
言葉が、さっきから、いちいちじわじわと、胸の奥の方に、落ちてきてるような感覚。
「だから、まずは――友達からはじめたいんだけど、どう?」
清宮は、まっすぐな瞳のまま、ゆっくりと言った。
「いきなり、好きなんて言われても、信じられないし、びっくりするよな」
「……そうだけど」
「だから、ちゃんと知りたい。話したり遊んだり、一緒に過ごして、お前のこと、もっと知りたい」
それはなんかもう。
一目惚れとか好きとかより、なんだかずっと重たくて。
まだ会ったばかりなのに、そんな重たい気持ちをぶつけられても、と思うのだけれど。
なんでか否定する言葉が出てこない。
「友達……?」
「ん。それなら、嫌じゃないだろ?」
嫌、じゃない。
その言葉が喉まで出かかったのに、声にならなかった。
だって、最初、一目惚れって言ったし。それがやっぱり気になってて、胸の奥が、静かにざわめいてる。
友達。
――こんな、重たい好き、みたいなこと、言われてるのに、友達?
友達って、なんだっけ?
「お前が、オレとは友達も嫌なら、近づかない。無理はさせたくないし」
え。近づかない?
……えっと。それは。
「――友達、なら」
声が掠れた。
オレってば、今、何言おうとしてんの。
でも。近づかないって言われたら。それは、嫌だって、思ってしまった。
「友達なら……いいよ」
「マジで?」
パッと明るい笑顔になった清宮に、どきっとまた胸が震えた。
「……久藤 翠。久しいに藤の花に、みどりとも読む翠って字。分かる?」
「分かるよ。翡翠だろ。綺麗で透明なイメージ、ぴったりだな」
「――そう?」
そんな風に言われると、すごく嬉しい。
「翠は深いエメラルドの緑でさ。 碧は濃い青緑って感じ。なんかぴったりじゃね、オレらの名前」
くすくす嬉しそうな顔で笑う清宮に、なんだか答えられずに黙っていると。
「先に謝っとくよ」
笑いを引っ込めて、そう言った。髪がさらりと揺れて、宝石みたいにキラキラしてる黒い瞳が、じっとこっちを見ている。
ただそれだけのことなのに、息がうまくできなくなって、心臓が、変なタイミングでドキドキと弾む。
「ごめんな、一目惚れとかいきなり言って」
清宮が、カップの縁をなぞりながら、ふと視線を落とした。
今までは軽く笑いながら話してたのに、今は本当に真剣な口調だった。
――心臓が、また跳ねた。
やめてほしい。そんな顔して、そんな声で、ずるい。
そうだよ、一目惚れ、なんて。嫌いな言葉だ。大嫌いな、トラウマ、ひきずりだされる言葉な筈だ。
「驚かせたよな。正直、自分でもびっくりしてるんだ。あんなの、何も考えずに口にしたの、初めてだったから」
その言葉を聞いて、テーブルの上でコップを押さえてる指先にきゅっと力が入った。
「……オレ、一目惚れって信じてないから」
気づけば、口が勝手に動いていた。
清宮の顔はまっすぐで、嘘ひとつなさそうで――だからこそ、なんだか余計に怖くて、つい言葉が出た。
オレは俯いて、ストローの先を指でいじる。
ほんとは、もっと強く言いたかったのに、声は思ったよりも小さくて、揺れていた。
やっとの思いで伝えたそれに、清宮は、穏やかな声で返した。
「もしかして、一目惚れって、地雷だった?」
――え。何で、分かるの。
心臓が掴まれたみたいに、跳ねる。
「オレもさ、たまにそれで告られるから、分かる」
清宮は、ただ当たり前みたいな顔で言った。
その言葉が、静かに胸の奥に入り込んでくる。
分かるって、言ってくれて嬉しいかも。
今まで、ほとんど誰にも言えてないし。理解されないと思ってたから。
「だからこそ、オレ、自分が一目惚れなんて、言うとは思わなかった。自分で、自分に驚いてさ。逃げられても、追いかけられなかった」
苦笑して、清宮が言う。
からかうような軽い口調じゃなくて、戸惑いの混ざった声。
清宮は、本当に、オレに言った言葉と向き合ってくれてるみたいで。
……ずるいな、ってまた思った。
「だからさ、さっきの一目惚れってやつ」
清宮は、真面目な顔になって、オレの目をまっすぐ見た。
「一旦、撤回させて」
「……え?」
「言葉が軽すぎたから。咄嗟に出ちゃったのは謝る」
言葉を選ぶように、ゆっくりと。
「ただ、お前と、仲良くなりたいって思ってる。ちゃんと、お前のこと、知りたい」
……ずるすぎる。
撤回って言いながら、それって結局、全然撤回してないじゃん。
一目で気に入ったから、そうなってるってことだよね。
そう思っていると、清宮は、ほんの少しだけ声を落とした。
「それに――オレ、お前の顔だけが気に入ったわけじゃない」
「……え?」
「その、でっかくてまっすぐな瞳。芯が強そうなとことか。ちょっと気が強そうなとことか……そういうのが気に入ってて、もっと知りたいって思ってるから」
言葉が、さっきから、いちいちじわじわと、胸の奥の方に、落ちてきてるような感覚。
「だから、まずは――友達からはじめたいんだけど、どう?」
清宮は、まっすぐな瞳のまま、ゆっくりと言った。
「いきなり、好きなんて言われても、信じられないし、びっくりするよな」
「……そうだけど」
「だから、ちゃんと知りたい。話したり遊んだり、一緒に過ごして、お前のこと、もっと知りたい」
それはなんかもう。
一目惚れとか好きとかより、なんだかずっと重たくて。
まだ会ったばかりなのに、そんな重たい気持ちをぶつけられても、と思うのだけれど。
なんでか否定する言葉が出てこない。
「友達……?」
「ん。それなら、嫌じゃないだろ?」
嫌、じゃない。
その言葉が喉まで出かかったのに、声にならなかった。
だって、最初、一目惚れって言ったし。それがやっぱり気になってて、胸の奥が、静かにざわめいてる。
友達。
――こんな、重たい好き、みたいなこと、言われてるのに、友達?
友達って、なんだっけ?
「お前が、オレとは友達も嫌なら、近づかない。無理はさせたくないし」
え。近づかない?
……えっと。それは。
「――友達、なら」
声が掠れた。
オレってば、今、何言おうとしてんの。
でも。近づかないって言われたら。それは、嫌だって、思ってしまった。
「友達なら……いいよ」
「マジで?」
パッと明るい笑顔になった清宮に、どきっとまた胸が震えた。
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