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第1章

◇夏って*拓哉 4

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 午前中は2人で家で映画を見た。昼を食べに駅まで出てきて、食べ終えて外に出た時。織田があるポスターに目を留めた。


「なー、高瀬」
「ん?」

「これ、行こー?」
「祭り?」

「うん。この近くの神社のお祭りだって」
「ふうん。いいよ。行こう」

「15時から夜までだって。まだ1時間位あるけど……この神社知ってる?」
「ん、分かる。歩いて、15分位かな」

「あ。高瀬、ちょっとこっち、来て?」
「ん?」

 くいくい、と腕を引かれて。
 ついていくと、織田は、エレベーターの前の、館内の案内を見てる。

「どした?」
「高瀬、オレ、ちょっとだけ見たいとこがある」

 楽しそうに笑う織田に、いいよ、と答える。
 そんな顔で笑ってるなら、ちょっととかじゃなくて、どこでもなんでも一緒に行くけど。と心の中で思いながら。


「――――……」

 それにしても、予想外の所に連れてこられた。

 ――――……着物屋??
 この駅ビルに、入ってたんだと思う位、縁のない店だった。


 と思ったら、織田は、中にとことこ入っていって、着物を来た店員さんに、こんにちわー、と話しかけた。

 ほんと、すぐ話しかける。
 織田らしくて、つい、くすっと笑ってしまう。

 オレはむしろ、どの店に行っても1人で見たいし、話しかけないで欲しいんだけど。織田は、すぐ話し始める。ほんと感心する。

「浴衣って売ってますか?」
「ええ、ございますよ」

「いくらぐらいですか?」
「セットだと、今ですとセールになってるものなら5000円位からですね」

「あ、意外と安い。どんなのか見せてもらってもいいですか?」

 浴衣、着たいのか。
 ――――……祭りだから?

 店員について歩きながら、織田が振り返って、高瀬も来て、と嬉しそうに笑う。あんまり嬉しそうなので、笑ってしまう。


「こちらは今とってもお買い得ですよ」

 何点か、並べて見せてくれる。
 浴衣の値段なんて分からないけれど――――……元値1万~3万位が安くなってるから、良い物なのかな。


「たぶん今日しか着ないかなと思うので、普通に着れたらいいんですけど」
「お安くなってますけど、物はいいものなので、今日だけと言わず、ずっと着ていただけますよ? 帯も、留めるだけのものも多いですし」

 クスクス笑って、店員が織田に色々見せている。

「これって、今日、着せてもらって帰れますか?」
「ええ、大丈夫ですよ」

「ちょっと話すので、また声かけてもいいですか?」
「はい」

 にこ、と笑って織田が言うと、店員が少し離れていく。すぐに織田がオレを振り返って、じっと見つめてくる。

「高瀬、一緒に着よ?」
「ん? オレも?」

 織田が着たいんだと思ってた。

「1人で着てもつまんないし。いっつもお世話になってるから、オレ、買うから! 着て?」
「――――……浴衣着んの初かも。似合わねーかも」

「絶対高瀬似合うから。一緒に浴衣でお祭り行こ? 超夏っぽいじゃん?」
「んー……着てみて、似合うなら。 変だったら織田だけ着て?」
「高瀬が着て変な訳ないじゃん」

 なんて妙な自信ありの言葉と共に嬉しそうに笑って、織田がまた店員を呼んでる。

「買うなら自分で買うから」

 クスクス笑いながらオレがそう言うと。

「え、いいよ。いっつもご飯とかごちそうになってるし。払う払う」
「んー……」
「あと、高瀬と着たいって、オレの我儘だから、払わせて」
「――――……値段次第で。揃えた時、高かったら払うから」
「んー」

 そこまで話してる間に店員がまた嬉しそうに近づいてきた。

 もう買うんだろうなと、バレてるに違いない。
 だって、織田、めちゃくちゃ嬉しそうだし。




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