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第1章

◇涙と告白*拓哉

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「――――……織田……」

 きっとオレがどんなに好きだと言っても、織田は受け入れない。

 オレの事を、どんなに好きでも。
 ――――……受け入れたくないんだと、そう思って。

 そしたら、感じた事がない位。胸が、痛くなった。

 本当に、この気持ちをどうしようかと、思った瞬間。


「……え」

 織田が、びく、と震えて。文字通り、硬直、した。


 涙の潤みまくった大きな目を見開いて。
 ものすごく、驚いた顔をして、オレを見つめてくる。

「――――……た  かせ…… ?」
「――――……?」

 なに、そんなに、驚いてんだ?
 そう思っていると。

 織田が、オレの腕を掴んで、自分の方にまっすぐ向けた。

「たかせ……?」
「――――……?」

「……なんで……――――…… 泣い……?」
「……え?――――……何……」

 織田の言葉を聞いても、何の事か分からなくて。
 ただ、その呆然とした顔を、見つめ返した。


「――――……高瀬、泣いてる……の?」

 はっきり、そう言われても、何言ってるんだと思って。
 けれど、意識すると、なんだか、頬が冷たい。

 触れると、濡れていて。

 ――――……は?

 オレ、泣いてんの?


 ――――……嘘だろ。


 涙を、手の甲でぐい、と拭う。


 織田が泣いた事よりも、自分が泣いた事の方が衝撃的すぎて、しばし、思考停止。
 人前で泣くなんて――――…… ていうか、そもそも、泣くなんて。
 ……物心ついてから、あまり、泣いた記憶が、無い。

 ……嘘、だろ。

 オレ、こんな事で――――…… 泣けるのか。


「高瀬? ……え、どうして?」

 織田は、驚きすぎて、すっかり自分の涙が止まってしまったらしい。

「え、どうしたの? 大丈夫……?……どっか、痛い……?」
「――――……」

 もう自分の事なんてそっちのけで狼狽えてて。
 痛い所でも探そうとしているのか、腕や肩やら、あれこれ触れてくる。

「――――……織田……」
「……っ……?」

 織田のその手を掴んで、止めて。 ぎゅ、と握ったまま。
 オレは、まっすぐ、織田を見つめた。

 ――――……無理だ、オレ。
 何も言わず、このまま、諦めるなんて――――…… 絶対、無理。

 こんな、事で。
 ――――……無意識に、涙が出る位。

 お前の事、好きなのに。

「織田、聞いて」
「――――……」

「……何で、お前が泣いてたのか……お前が言った事の意味も……オレ、多分、大体わかってる」

「――――……分かる訳……ないんだけど……」

 そんな風に言って、織田は俯く。


「オレに関係ないなんて、嘘だろ」

 そう言うと、織田は咄嗟に顔を上げ、オレを見つめる。 

「それ、嘘だよな」
「……っ嘘じゃない……高瀬には、関係ない……」

 俯こうとする織田の手を、少し引いて、顔をあげさせる。

「――――……織田、聞いて」
「……っ」

「オレ、お前が女の子好きなのも知ってるし」
「――――……」

「結婚して子供がほしいっていうのも知ってるし――――……」
「――――……」

「だから……男同士なんて嫌なのも……分かってる」
「……え? ……? 最後の、なに……?」


 最後の言葉に、織田は目をぱちぱちさせて。
 オレをじっと、見つめてくる。

「……全部、分かってるんだけど……」
「――――……?」

 なんて言おう。
 ――――……なんて、言えば、織田に、ちゃんと伝わるんだろう。


 一瞬で、色んな言葉が浮かんだけれど――――……。
 数秒後、出てきたのは。


「――――……オレ、お前の事が……本当に好きだ」


 あまりに普通の言葉だったけれど。
 結局これ以外は、言う事がなくて。


「……お前が男とは無理って……思ってても……」
「――――……」


「――――……お前の事が、どうしても好き、だ……」


 織田は、もうこれ以上ないほど目を大きく見開いていた。







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