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◇幸せ過ぎ

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 門を出ると、智さんが待っていた。
 車の後部座席に、蒼紫と一緒に乗り込む。

「今日は事務所のスタジオで写真撮って、別室で取材ね」
「はい」

「3社分まとめるからちょっと長いかも」
「でも今日取材だけなんでしょ? 早めに終わる?」

 オレが聞くと、智さんは運転しながら頷いた。

「ん、多分早めに終わると思うよ」
「早めに寮に帰れる?」

 蒼紫がそんな風に聞いてる。

「うん、昨日よりはずっと早いと思うけど。珍しいね寮に早く帰りたいとか。遊びに行けるかとかならよく聞かれたけど」

 智さんがクスクス笑う。

 す。するどい。
 ――――……なんかすぐ、ちょっと変わった事に気付く。

 マネージャーさんとしては、すごく気が付いて、優秀な人なんだと思う。
 すごく居心地よくて、頼りにできる。

 ……けど、なんか。
 いつか、バレそうで。

 1人でちょっとドキドキしていると。
 蒼紫の手が、す、とオレの手に、触れた。学校の鞄を、オレ達の間に置いて、その後ろで。きゅ、と手を握られる。


「――――……っ」

 手を繋いでるだけなのに。
 なんかもう、幸せだし、恥ずかしいし、なんか嘘みたいで、頭ほわほわするし。触れてる手が、大好きすぎて、困るし。

 心の中、いっぱいいっぱいで。
 きゅ、と握り返すと。

 隣の蒼紫が、ふ、と笑う気配。
 でももう、蒼紫の方なんて、向けない。


 これで、優しく微笑まれたりななんかしちゃった日には。
 ……溶けて無くなる気がしてしまう。


 鞄が置いてあるし、智さんに後ろを見られたって、絶対バレない感じでつないでいる手に、心臓がやばい位ドキドキしたままで。

 事務所の駐車場に着く前に、すり、と指を撫でられて、そのまま離れて。
 ――――……なんか。


 もう。ポワポワ幸せ過ぎて、胸が苦しすぎる。


 車を降りて、事務所に入る。


「今日1社は色んな制服着る事になってるから」
「制服?」
「ほんとにある高校のじゃなくて、カッコいい制服特集、みたいな感じ」

 へえー。
 蒼紫の制服姿、色んなの見たい。

 オレのはどーでもいいけど。
 蒼紫のは何着、見てもいいなあ。
 なんでも似合うし。楽しみー!


 ウキウキしながら事務所の中を、智さんに案内されるままに進んでいると。

「蒼紫、涼」

 あ、この声は。

「社長」

 振り返って挨拶する。
 長いストレートの髪。いつ会ってもきちんとスーツで、綺麗な女性。
 親父さんから引き継いだとは言え、40代で立派にこなしてる敏腕社長。
 

 その人が蒼紫を見て、ちょっと眉を顰めた。

「蒼紫、今日、雑誌出てるからね」
「はい。 すみません。二度と無いように、しますから」

 蒼紫がそう言うと。
 社長は、クス、と笑った。

「二度ととか言っちゃっていいの? 聞いたわよ?」
「二度と。興味ない人と出かけたりしないんで」

「へえ?……ていうか、興味ないって。今日の雑誌の相手は?」
「ただちょっとご飯食べただけです」
「――――……」

「そういうのも今後行かないんで、大丈夫です」

 蒼紫がめちゃくちゃはっきり、宣言してる。

 ――――……その言葉の意味は。
 多分、オレにしか、分かってない。


 智さんと社長が、顔を見合わせて、苦笑い。


「ほんとにそうならいいけど」
「まあ、見ててもらえれば。ほんとに大丈夫です」



「そんなに言い切られると、逆に何なのか心配になるけど」
「涼と約束したんで、守りますよ」

 蒼紫があくまではっきりと言い切ると。
 社長と智さんがオレを見つめて。


「涼と約束したなら、守るのかも。 涼、ごめんね、よろしくね」
「……はい」

 そんな風に社長に言われて、オレは頷きながらも、苦笑い。

「社長、そろそろ2人着替えないと」

 智さんの言葉で、社長と別れて。
 オレと蒼紫は、智さんにある部屋に入れられた。


「とりあえず、着替える制服に番号がついてるから、その順番に着る感じ。とりあえず今は1番の制服を着てくれる? オレ、隣の部屋で、カメラマンとかと挨拶すまてせておくから。着終えたら、隣に入ってきて? メイクは軽くそっちでやるって」
「はあい」

 必要事項を言って、智さんが出て行ってすぐ。

「涼」
「わ」

 ぐい、と引き寄せられて、ドアが開いてもすぐに見えない位置に隠されて。
 ちゅ、と優しくキスされる。 


「制服色んなの着るとか」
「ん?」

「すげえ萌えるかも……着替えるのはめんどくさいけど、お前の色んな制服着てるの見れるのは、嬉しい」

 ちゅ、と頬にキスされて。
 じと見つめてしまう。


 わー。
 …………オレと同じ事思ってた。 


「……何? キモイ?」

 蒼紫が苦笑い。


「……オレも、蒼紫のは見たいって、思ってたから。おんなじ」


 見つめ合って、ぷ、と2人で笑い合う。


 なんか。どうしよう。
 めちゃくちゃ幸せ、なんだけど。



 
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