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1ミリ近づいて

「謝りに」*奏斗

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 ちょっとびくびくしながら、隣の部屋のインターホンを押す。
 怒ってるかな……。

 ピンポーン。


「――――……はい」
「オレだけど」

 すぐに、ガチャ、とドアが開いた。


「四ノ宮、さっきごめん。 救急箱、ありがとう」
「ああ。――――……どーも」

 一生懸命、普通の笑顔で言ってみる。けど。救急箱を受け取った四ノ宮は、無言。
 そのまま、ドアが閉まりそうな雰囲気すらある。

「あ、のさ」
「――――……」

「さっき、ごめん。ちょっと狼狽えすぎたかも……」
「――――……何があったんですか?」


 それは、ちょっと、口にしたくない。
 ――――……忘れたい。

 思って少しだけ黙ってたら。
 四ノ宮は大袈裟にため息をついた。


「……もういいですよ。救急箱、ありがとうございました」


 そう言って、なんだかすごく、冷たい瞳をした四ノ宮に。
 ドアが、締められてしまった。


 ちょっと、びっくり。


 うそだろ。――――……こんな事する人、居るの?


 う、わー……。

 よく分かんないけど……。
 …………怒って……るのかな?


 どうしようかな。

 目の前で閉じたドアを見つめたまま、1秒、2秒、3――――……。
 がちゃ、と。扉が開いた。
 呆れたような顔の四ノ宮が出て来て。

「――――……何で帰らないんですか」
「いや……なんか――――…… びっくりして」

 そう言ったら。
 四ノ宮は、はー、とため息をついた。


「……話す気、ないんでしょ?」
「――――……」

「……なら帰ってください。オレ、ゼミの課題やるんで」
「――――……」


 また閉まった。
 今度は、もはや話さない自分が悪いのかと思って、仕方ないから帰ろうかなーと、思った瞬間。

 また、ドアが開いた。


「…………っ……入りますか?」

 なんかものすごく嫌そうな顔で、誘われても……。


「でも鍵かけてきてないし…… ゼミの課題……するんだろ?」

 それに、顔……。ものすごい嫌そうだし……。

「……イライラして無理。鍵持ってきて、うちに入って」

 ――――……イライラ、して?? んそんなに怒ってんの?? なんで?
 その言葉が謎すぎて、首を傾げたけれど。

 むっとした顔で見下ろしてる四ノ宮に、まあこれ、きっとオレのせいだよなと思って。うん、と頷いた。

「すぐ来る」

 そう伝えて、自分の部屋に帰って鍵を手に取った。
 ドアの外に出て、鍵を閉める。
 


 四ノ宮の部屋のチャイムを鳴らそうとした瞬間。
 ドアが開いた。


「どーぞ」
「ぁ、うん」

 さっきよりは、顔、マシ。


「お邪魔しまーす……」

 今度はオレが四ノ宮ん家入るのか……。
 なんかほんと――――……急激に距離が近くなってて、ちょっと不思議。


 確かに間取りは同じみたい。でも、全然違う。


「家具とかで、ほんと全然雰囲気違うんだなー……同じ間取りと思えない」
「ここ、葛城が人に任せてやったから」

「だからなんかモデルルームみたいなのかー。生活感ないなあ?」

「そうですか?」


 あ、でも、窓から見る景色は、やっぱ隣だからほとんど変わんないなあ。
 なんて思ってたら。


「そこらへん適当に座ってください」
 
 そう声をかけられたので、うん、と返事をして、ソファに浅く腰かけた。



 目の前のローテーブル。ガラスでオシャレ。
 ――――……こういうの、ちゃんと掃除してんだなあ。してないと埃たまるやつだよなー。


 四ノ宮って……マメ? ていうか、潔癖症かなー。綺麗すぎ。
 ……まあ、学校に居る時も、なんか、清潔感、半端ないもんなー。

 こういうとこから滲み出てんのかな。うん。


 そんな妙な納得をしながら、部屋を何となく観察してしまう。





 
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