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近くて遠い

「先生の手伝い」*奏斗

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 四ノ宮と仲直りできたし。
 順調に、火曜水曜と学校に行って、木曜の朝。椿先生に構内でばったり会った。あんまりゼミ以外で会わないので、立ち止まって、話していたら。

「ユキくん、ちょっと資料集め、手伝ってくれないかな?」

 突然、そう言われた。


「資料集めですか?」
「そう。論文を書いてるんだけど。紙の資料が多すぎて、見つけるのが大変でさ。できたら、今日の放課後、2、3人で手伝ってくれるとありがたいんだけど」

「良いですよ、ゼミのグループに聞いてみますね。すぐ返事くると良いんですけど……ちょっと今連絡入れてみていいですか?」
「うん」


 スマホを開いて、グループにメッセージを打ち込んでいた時だった。

「ああ、四ノ宮くん」

 ん? 

 椿先生の声に、先生の視線の方を見ると。四ノ宮が歩いてきていた。

「ゼミ以外で先生に会うの初めてですね」

 四ノ宮がクスクス笑いながらそう言ってる。
 まあほんと。イイ笑顔だな。お前。

 うさんくさいとか負の感情が無くなった状態で、普段の四ノ宮を見ると、まあなんか……見事だなあと思うようになってきた。

 よくもそこまで王子を演じられるものだ。
 ……普段あんなに仏頂面するくせに。

 とも思うけど。ぷ、と笑いそうになってると。


 四ノ宮がオレを見て、何ですか、とにっこり笑う。
 ……目が笑ってないぞ、お前。

 何考えてたかバレる筈はないけど。 なんかいつも見透かされそうな気もするし。


「あ。四ノ宮くんさ、今日放課後空いてるかい?」
「今日ですか?」

「うん。ちょっと論文の資料探しを、手伝ってくれる人を探してて。ユキくんは手伝ってくれるっていうから、あと1人2人、今から連絡してもらおうとしてたんだけど……」

 先生がそう言ったら。
 四ノ宮は、「オレやりましょうか?」と、あっさり言った。


「ああ、本当に?」
「良いですよ。先輩と2人で足りますか?」
「ユキくんと四ノ宮くんなら、大丈夫そうだね。ユキくん、もう連絡入れちゃった?」
「まだですけど」
「じゃあ良いよ。皆がたくさん来たいって言っても困るし」

 冗談ぽく笑って先生が言うので、そうですね、と笑って答える。

「何限まで?」
「オレ今日4限です」

 そう答えたら、四ノ宮も「オレも4です」と言う。

「じゃあ4限が終わったら、部屋に来てくれる?」
「分かりました」

 オレが頷くと、四ノ宮は、あ、と思い出したように。

「オレ、4限の教授が少し長くなること多いので――――……少し遅れるかもしれないです」
「ああ、良いよ。終わったら来てくれれば。じゃあ後で。よろしくね」

 椿先生がにっこり微笑んで、立ち去る。


 ――――……うーん、ほんとイケメンな先生だ。
 絵になるんだよなー。

 なんて考えていたら。
 隣の四ノ宮の視線に気づいた。

 そういえば四ノ宮と会うのは、月曜に会って以来。


「元気だった?」
「月曜会いましたよね」

「2日経ってるからさ。にしても、オレ達って、ほんと、マンション付近では会わないよな?」
「まあ一度も会ってないんですから、完全に時間がずれてるんじゃないですか?」
「んー、オレ時間ギリギリにくるからかな?」
「あー。オレは早めに出ます」

「……帰りも、喋ってて時間通りには帰んないし」
「まあそれはオレもありますし、用事もあるし。帰りはもう、バラバラすぎて会わないんですかね……」

「ある意味、すごいよな、会わないの」
「そうですね」

 四ノ宮に苦笑いされて、ふ、と息を付いて。

「とりあえず4限終わったら先行ってる」
「分かりました。……あ。先輩」

 離れようとしたのを止められて。

「ん?」

 見上げたら。



「先輩って、椿先生って、好みですか?」
「――――……はあああああ??」


 しばし沈黙の後。


「あの、さあ……」
「……はい」


「――――……超イケメンで、若いのに準教授で、頭良くて、声も良くて、背も高いし、完璧な人だなーと、思うけど」
「――――……」


「……身近なところで、好みとか、そういう意味では、見ないっつーの。そろそろ殴るよ?」

 最後、ちょっと睨みながら言ったら、四ノ宮は、ふーん、と笑う。


「なんかじっと見送ってるから。好きなのかと思って」
「……そりゃ尊敬してるし、好きだけどさ。違うから」

「オレが行ったら邪魔なのかなって思ったんですけど、じゃあ大丈夫ですね?」
「……お前さぁ……ほんと、蹴るよ?」


 四ノ宮は、オレのそのセリフに、ぷっと笑って。


「じゃあまた後で、先輩」
「――――……うん。じゃーな」



 ふ、と笑んだ四ノ宮に手を振って、歩き去って行く後ろ姿を見送る。

 もうあいつ、なんか、オレをからかってばっかりなような。
 もう。なんなんだ。


 むーーーと、息を付きながらも。
 なんかおかしくて。


 また少し、顔が綻んだ。






(2021/12/27)
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