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第一章
2.
しおりを挟む翌日。
朝九時四十分。悠斗から電話がかかってきた。
そわそわして、六時頃からずっと起きてたけど。
「心春、おはよ」
「うん、おはよ、悠斗」
「今からちょっと駅の方行ってくるから、待ってて」
「うん。どれ位?」
「三十分位。公園で待ち合せよ?」
「分かった。待ってるね」
「行ってくる」
「あ、悠斗」
「ん?」
呼びかけてから、少し言葉を考えていたら。
「どしたの、心春?」
と、聞かれた。
「私もね、悠斗に、話したいことがあるの」
悠斗の話が、好きとか、全然関係なくても。
自分が逃げないように。そう言ったら。
「そうなの?」
悠斗が少し、楽し気に言った。
「うん」
ドキドキしてしまいながら、頷くと。
「楽しみにしてるよ」
そんな風に言ってくれる。
はっ……。楽しみとか、期待、させて。そんなこと?とか思われたら……。
「へ、んな、話、かも……?」
思わず、言ってしまったら。
「心春の話なら、なんでも聞くよ」
「――――……」
なんだか、涙が浮かびそうになる。
――――……悠斗のことが。大好きすぎて。
「ありがと……」
「うん。じゃあ、あとで。受け取りだけだからすぐだよ。店を出る時連絡するから、ゆっくり公園に向かって?」
「うん、分かった。気を付けてね」
「ん、じゃあね」
そんなやりとりをして電話を切った、
三十分。スマホのやり取りを眺めて過ごした。
四十分を過ぎても、何の連絡もなくて。
「悠斗、そろそろ公園に向かってもいい?」
と入れてみた。
でも既読が、つかない。
一時間を過ぎても、つかない。電話しても、出ない。
何で?
いくらなんでも、遅すぎる。
どうしたんだろ。
携帯が突然壊れちゃったとか? だったらもう、公園で待ってれば、いいかな。
それか、悠斗の家か…… あ、でも迎えに来ちゃったら、困るし。
そんな時。メッセージが入った。
悠斗だと思って見たら、中学のクラスメンバーのトークルーム。悠斗じゃなかったと、がっかりした瞬間。
通知に、「悠斗が事故ったって」という文字が見えて。
意味が分からなかったけど。すぐに、お母さんにお願いして、悠斗のお母さんに連絡を取ってもらった。
しばらくして、近くの救急に、運ばれたってことが分かった。
すぐに行ったけど。
……悠斗は。もう――――……。
◇ ◇ ◇ ◇
意味が分からないまま。現実感がまるで無いままに。
お通夜。お葬式。火葬。――――……骨を、拾った。手が震えた。涙が止まらなかった。
悠斗を轢き逃げした犯人が捕まった。
酔ってたらしい。――――……今更どうでもよかった。
どうやって、直後の数日、生きてたのかもよく分からない。
でも数日経って。
毎日毎日。悠斗が居ない日々を。
声も聞けない日々を。
何日も、繰り返して。
本当に、居ないんだって。
もう、居ないんだって。
実感していって。
その度に、涙があふれて。
私は、悠斗が、居なくなってから、春休みの間ずっと、部屋に閉じこもってた。
食事はお母さんが持ってきて。
食べさせられたような。
栄養ドリンクとか。甘い物とか。
飲んだり食べたりさせられたけど。
でも何も。味がしなくて。
美味しく、なくて。
私が、ただ涙を流してると。
お母さんも静かに泣いて。隣に居てくれた。
悠斗の名前を。一言も口にできなくて。
だから、お母さんとも、何も話せなかった。
ただ、泣くだけ。
お姉ちゃんも、心配して、お菓子やらなにやら、抱えて持ってきては。
また私の隣に座ってた。
お父さんは、どうしていいか、分からないみたいで。
たまに、ご飯食べな、て、声をかけてくれる。
最初は人のことなんて、考えられなかったけど。
日が経つにつれて、少しだけ、気付いてくる。
分かり始める。
皆に、ものすごく、心配かけてることを。
こんなことしてても、悠斗が戻ってこないことも。
だけど。
体にも心にも、力が入らない。
――――……信じられない。もう悠斗が居ないなんて。
もう会えないなんて。
話せない、なんて。
顔も見られないなんて。
私の小学一年生からの、たくさんたくさんの時間を、一緒に過ごしてきて。
これからも。一緒に過ごせると、思っていたのに。
大好きって。
――――……大好きって、まだ、言えてないのに。
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