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第二章
4.
しおりを挟む変なちょっかいなんか出さねーよと。思ったのに。
翌日。
「あ、伊織」
悠斗に笑顔を向けられて、内心ものすごくため息を付きながら、桜の樹の下に向かった。
春休み。空手の特訓週間。一日道場は開いていて、好きな時に行って良い事になってる。4月に大会があるから行ける限り行くつもりでいる。
今日は父さんが弁当を作ってくれたから、夕方まで練習して、帰って来た。
……朝は見えなかったから、居なくなったのかと思ったら。夕方通ったら、居た。消えてはなかったか。
「伊織は空手やってるんだね」
普通に話しかけられて、ああ、と頷きながら、桜の樹の後ろの柵に寄りかかるように座った。
「いいなあ。――――……高校入ったら、思い切りサッカーしようと思ってたのに。強いんだよ、サッカー部」
「……そっか」
何と答えていいか、マジで困る。
「――――……オレが死んだ日さ……」
そう言って、少し黙って、悠斗は、ふ、と笑った。
「こんなセリフ、自分が言う日が来るなんて思わなかった」
「――――……」
もう、ほんと、何と答えるべきか分からず、曖昧に頷くと。
「……死んだ日さ。ずっと好きだった子に、告白するつもりだったんだ」
――――……あんなに一緒にいたのに、今迄、告白してなかったのか。
というのが、浮かんだ率直な、感想。
「……居心地が良くてさ、楽しくて。ずっとこのままでいいと思ってたけど……他の男に取られたくないって思うようになってさ……。だからいよいよ、告白しようって思ったんだけど。――――……車が目の前に来た時も……まだ、伝えてないって、それだけ思ってて」
「――――……」
「……そしたら、気づいたら、ここに居て。どういう状況か納得するまでに、結構かかってさ」
「――――……ああ」
まあ。
――――……ここが一番、想いが残ってる場所、て事だろうな。
「心春の様子が――――……あ、その子、心に春って書いて、心春っていう名前なんだけどさ。可愛いでしょ。名前」
悠斗は、クスクス笑いながらオレを見る。
「……名前のまんま――――……ほんとに可愛い子でさ。小一で知り合ってから、ずーっと、可愛かったんだよね……」
「――――……」
「心春の様子が気になるのに……どうやらオレは、この桜の樹のそばからは、動けないみたいで」
ため息をついてる。
「……でも動けたとしても、誰にもオレは見えないみたいだから意味はないんだけど。……伊織だけだし。オレが見えたの」
まあ。じいちゃんも父さんも見えてるから、力がある奴には見えるのだろうけど。素通りしてるんだろうな、きっと。
「――――……オレはちょっと、特殊……」
しかも、気になって、近づいてしまったし。
「心春……大丈夫かなあ」
悠斗が、桜を見上げながら、静かに、呟く。
「――――……大丈夫、じゃねえかな……」
「――――……」
オレの言葉に、悠斗が振り返る。
「……そいつの事知らねえから、一般論だけど。……人って、辛くても、その内、どうにか頑張って生きようとするものだろ」
大丈夫じゃない、と言っても心配だろうし。
大丈夫と、言っても、――――……本当は忘れられたくないだろうから嫌だろうとも思ったし。一般論じゃ気やすめにもならないだろうと思いながらも、とりあえずそう言ってみた。
すると。悠斗はオレを少し見つめて、ふ、と柔らかく、笑んだ。
「……ありがと」
「――――……」
「な、伊織ってさ」
「ん?」
「不良?」
つい、ぶ、と吹き出してしまった。そんな直に聞かれた事はない。
あ。やば。……変に思われる。
オレがひとりで 笑ってたとか。近所で噂になったら困る。じーちゃんらにすぐ伝わるからな。咳払いで少し誤魔化してから。
「……聞くか、そんな風に」
小さな声でそう突っ込むと、悠斗はクスクス笑った。
「オレだって、生きてたら聞かないよ。絡まれたら嫌だし」
「ああ、なるほど……って、どんな会話だよ」
「ははっ」
何だか楽しそうに笑う悠斗。
――――……調子狂う。穏やかな会話。
「茶髪は死んだ母親譲りの色。染めてねーよ。ピアスは好きだから開けた。高校が割と自由って聞いたから。……髪の色とかで目立って絡まれて、ほんの少しやり返して問題になった事あるから、不良ってなってるかもな。まあ……別にオレ、悪い事はしてねえけど」
「……そっか」
ふーん、と、悠斗は黙ってる。
「あれ? 高校が自由って聞いたって。今、何年?」
「4月から高校生」
「一緒なんだ。へー……年上かと思った。そっか」
「年上かと思ったのに呼び捨てたのか?」
「うん。まあ、オレの年とか、ある意味もう関係ないし、いいかなって」
クスクス悠斗は笑う。
「茶髪はいいけど、口調がきついのとかは直せるんじゃないの? その見た目でその口調だと、絡まれそう」
「今更かよ?」
「今更って。15でしょ? これからいくらでも直せるよ。生きてるんだし」
――――……そう言われると、反論できない。
こいつ。
優しい言い方で……言い返せないような事、普通に言う。
――――……でもなんか。心地いい、やりとりな気がするのは何でだ。
「心春」は、ずっとこいつと居て。――――……今頃どうしてるかとか、容易に想像つくけど。……心配するだろうから、それは悠斗には言わないが。
「……伊織って、神社の息子とか言ってたよね?」
「ああ」
「オレの事、成仏させられる?」
「……オレは、見えるだけ。祓うことも、成仏させることも、できねえよ。じいちゃんと父さんが神主で、悪い霊の除霊は請け負ってる」
「そっか……」
「何で。……成仏させてほしいのか?」
そう聞くと、悠斗は、んーと、考えてから、オレを見て、笑った。
「――――……うん。いずれはね。したいかな」
「……お前が未練とか断ち切れば、自然とそうなるはずだけど」
「今のとこ断ち切る事ができなそうだから……一応、聞いてみただけ」
――――……何の未練が、と思ったけれど、聞くまでもないか。
告白、出来なかった、未練とか……。
ここに居るって事が、それを表している気がする。
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初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
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