「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

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第二章

7.

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 翌日。春休み最後の日。
 空手の特別練習は、昨日で終わったので一日暇。

 久しぶりに神社の掃除をちゃんと手伝った。
 春休みさぼりまくったせいで、じいちゃんにあれこれ言われて、あちこち、めちゃくちゃ綺麗に掃除した。


 巫女さんの一人、由紀ゆきさんに、伊織ー!と呼ばれて振り返ると、可笑しそうに笑いながら近づいてくる。

「おはようございます」
「伊織、春休みだったのに、全然掃除しなかったから、大悟だいごさん、怒ってたよ?」

 大悟さん、というのは、じいちゃんの名前。
 由紀さんがクスクス笑いながらオレにそう言ってると、もう一人、春香はるかさんもやってきた。

「伊織、おはよ」
「由紀さん、おはようございます」

 由紀さんも春香さんも60代位。二人とも、もう子供は成人してて、旦那さんと二人暮らし。

 今日はお休みしてるけど、ゆいさん、若菜わかなさんて巫女さんも居て、その人達は、三十代位。

 たまにやめたり、引退したりで入れ替わりながら、でも常に、数人の巫女さんが居る。あと正月とか祭りとか、忙しい時、アルバイトの若い巫女も雇ったりする。

 春香さんと由紀さんはもう二十年位ここに居るのだけれど、オレは、とにかくこの二人には、ものすごくお世話になった。

 男二人、父さんとじいちゃんじゃ気付かない、学校の手続きや持ち物、たまに参観なども、この二人が来てくれたり。ばあちゃんみたいな、母さんみたいな、不思議な存在。


「ね、春香さん、大悟さん、めっちゃくちゃ怒ってたよね」
「うん、ぶつぶつずっと言ってたよー」

 まあ、容易に想像がつくので、はあ、と苦笑い。

「で、清士郎さんがさくさく掃除始めるから、余計、伊織にやらせろーって」

「清士郎さんが、伊織が暇な時にやってもらうから、とかまた優しい事言うから、大悟さんがますますねー」

 二人、思い出し笑いで、すげー楽しそうにしながら、オレを見る。


「空手頑張ってたんでしょ?」
「うん」

「大会だって言ってたもんね。見に行くから」
「あーでも、場所遠いよ?」

「伊織が勝つなら見に行くけど」
「……勝つよ」


 気合込めつつそう答えると、「行く行く」と、楽しそう。


「こらー! さぼらせるなー!」

 遠くからじいちゃんの声。


「さぼらせるなって事は、これ、私達に言ってるよね」 

 明るすぎる由紀さんは、あははーと笑う。


「やばいって、大悟さん、来るよ」

 苦笑いの春香さんは、「ささ、掃除しよ」と離れて行った。



 で、引き続き、掃除タイム。

 お宮、神殿、境内、手水舎、それから駐車場など、広いから、掃除しようと思えば、一日掃除していられる位なのだけれど。


 始めて2時間。もうとっくに由紀さんや春香さんは掃除を切り上げて、他の仕事をしている。



「よし、伊織、ご苦労だったな」


 やっとじいちゃんの気が済んだみたいで解放される雰囲気になった。


「ん」


 疲れたけど。まあでも――――……。
 やっぱり、神社を綺麗にするのは、気分が良い。



「オレ、ちょっと出てくる」

 じいちゃんに言って、歩き出した所で。「伊織」と呼びかけられて振り返った、


「ん?」

 じっとオレを見て、一呼吸おいてから。


「お前、桜の樹の下の霊と、仲良くしてるだろ」

「――――……あー。仲良く……つーか。まあ。話してる。何で?」

「桜の樹の下に居るお前の目撃情報が多すぎる」

「何だそれ……」

 どうせ近所の人達だろ……。はー。すぐじーちゃんの耳に届くし。

 ……まあ。オレが、一人で桜の樹の下に居る姿は目立つだろうなとは、思ってはいたけど。


 ……つか、オレ絶対、悪い事できねーな。


「……何かあったら、言ってこいよ」

「……ん。分かった」



 
 昨日も。父さんから、気をつけろと言われたっけ。

 何かって、なんだろう。
 ――――……分かんねえけど。敢えて、聞かずに歩き出した。



 ぼんやり考えながら、公園に向かって、ゆっくり歩いた。



「あ、伊織」


 悠斗がオレに気付いた。
 まだ離れているので、声は出さず、少し頷いて、近づいた。


 桜の樹の下が目立つ気がするので、少し離れる事にした。少し桜から離れて、公園の外周にめぐらされている柵に寄りかかった。人が多く通る道からは、樹に隠れて見えにくくなる。この位の距離なら、悠斗も動けるらしく、隣についてきた。


「何でここ?」

 聞かれて、「オレが桜の下に居るの、噂になってるらしい」と言うと、悠斗が、クスクス笑った。


「なんかごめんね」

 なんて言われて。

「謝る事じゃねえし」

 と言うと、悠斗が、ふ、と笑んだ。


「ね、伊織、今日って、何日?」
「4月5日」
「……じゃあ、明日か」
「何が?」

「……明日、本当は、高校の入学式だったんだ」
「あー……」

 ため息しか出てこない。
 オレの入学式も明日だな、と思ったけど、言わなかった。

 オレは出られるから。出られない悠斗に、言う気がしなくて。

 そのまま、たわいもない話を続けていたら。


「――――……なんかさ……思うんだけどさ」

 悠斗が、声の調子を変えて、話し出した。


「……オレってさ、何でここに居るんだろう」

 ……それは、オレには分からない。


「……悠斗が何か、望んでるんじゃねえの?」

「――――……分からないよ。やばい、死ぬって思った瞬間に途切れて。気づいたらここに居たんだし。別に望んで居る訳じゃない」

「そっか……」


「どうなったら、オレはここから離れるんだろ」
「――――……」


「伊織はそういうの、分かんないの?」
「悪い。……オレは、ほんと、見えるだけで」


「そっか……まあ、自分でも分かんないこと、だ、し――――……」


 そこまで言った悠斗が。
 不意に、言葉を切った。


「悠斗?」

 不思議に思って、悠斗を見ると。


 まっすぐ、反対側の公園の入り口を見て、動かない。


 そちらに視線を向けると――――……制服を着た、女子が。
 やたら、俯いたまま、歩いてくる所だった。



「――――…… こ はる――――……」



 悠斗の声が、震えて。
 オレの、目の前で。


 悠斗の、瞳から。涙が、まっすぐに、零れ落ちるのを、見てしまった。



「――――……っ」



 霊の、涙。
 ――――……何度か見た事がある。



 ……でも、悠斗のそれは。


 なんだか、ものすごく綺麗に見えて。
 胸が、痛すぎて。



 何だか、息をするのも、躊躇う。




 こはる。……心春。

 ……あいつか。ずっと、悠斗と一緒に居た片割れ。


 






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