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第二章

気を使いすぎ……?

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 下校時、帰り支度をしていると秋永君がやってきた。

「帰ろうか」
「うん。雅乃、帰るよ」
「ああ、いいよ、いいよ。遠慮する。お邪魔だし」
「はあ? 何言ってんのよ、邪魔じゃないし」
「そうだよ! あー、三人が微妙ってんなら当麻も呼ぶか。おい、当麻! 帰ろうぜ!」

 そう秋永君に呼ばれた椎名君が、呆れた顔で振り返った。

「何言ってんだよ、永束さんの言うとおりだろ? いいから二人で帰れよ」
「ああ? 何言ってんだよ。お前こそ、永束さんを独りで帰らす気かよ? ほら、来いよ」

 秋永君はそう言いながら椎名君の元へと歩いていき、鞄を取り上げ首根っこを掴むくらいの勢いで椎名君を立ちあがらせた。

「おい、おい。乱暴だな。わーかった。分かったから!」

 これにはさすがの雅乃も苦笑いを零していたけれど、きっと秋永君の思いは伝わったはずだ。彼はいつも私と一緒に帰っていた雅乃に、寂しい思いをさせたくないと思ってくれているんだ。そういうとこ、本当に優しい人だと思う。
 椎名君に対して、ちょっと乱暴だったけど。

 ということで、今、私と秋永君が並んで歩き、その前を雅乃と椎名君が並んで歩いている。

「ヒロ、ホントさー、糸魚川さんにべたぼれだろ」
「当然」
「あ、秋永君……」
「本当だよ? 未花ちゃんが大切に思っている人たちは俺も大事にしたいし、いい加減に接したくないしな」
「いいお婿さんもらったねー、未花は」
「ちょっ……、お婿さんって何よ!」

 もう、みんなして変なこと言うから顔が熱くなっちゃったじゃない!

「でもさー、秋永君。明日からは私のこと、本当に気にしなくていいからね。一人で帰るくらいそれほど大したことは無いんだよ?」

「雅乃……」
「でもさ、」

 私の戸惑いと秋永君の言葉を遮って、今度は椎名君が口を開いた。

「ヒロさー、気にしないでいいって言ってることに、無理やり気遣いを見せるのは本当の気配りじゃないと思うなー」

「……え?」

「いいじゃん。付き合ってる者同士、二人っきりで帰るくらい。永束さんだって、もし帰りに糸魚川さんとカラオケに行きたいとか何か食べに行きたいとか思えば、普通に誘うだろ?」

「え? ああ、そうね。一応は聞いてみるかな?」
「ええー? 一応って何よ。ちゃんと聞いてよ」

 確かに私は秋永君の彼女になって、一緒にいられるのは嬉しいと思うのだけれど、でも、だからと言って雅乃と疎遠になるのは嫌だ。これって、わがまま? 違うよね?

「あはは。ごめん、ごめん。うん、大丈夫。ちゃんと遠慮しないで聞くから」
「絶対だよ」
「うん、約束」

 雅乃がにっこり笑って頷いてくれたので、やっとホッと出来た。

 それからいろいろ他愛無い話をしているうちに駅に着き、雅乃と椎名君とはそこで別れた。
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