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エピローグというより番外編?
お兄さん登場
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「ええっと、未花ちゃん。大丈夫?」
「何が?」
ヒロくんに何を気遣われているのか分からなくて小首を傾げると、ヒロくんの表情が心底ホッとしたものになった。
ああ、そういう事か。
私の男嫌いに関しては、ヒロくんは本当にもう完璧に関係のないものになっている。私が心の底から信頼し、安心出来る大切な人だ。
「不思議だよね」
「……うん。でも、俺が特別なんだよね。すごくうれしい」
いつもは見上げる位置にあるヒロくんの顔が、私の手のすぐ傍にある。
そう思ったらなんだかうずうずしてきて、サラリとこぼれた髪を軽く撫でてみた。見た感じよりもずっと柔らかくて、滑らかで触り心地がいい。何度も梳いて感触を楽しんでいると、最初の内は恥ずかしがってか目を瞬いていたのに、そのうち癒されてくれたのか頬を緩めて目を閉じた。
そんな穏やかで静かな時間をヒロくんと二人でゆったりと過ごしていたら、階段をドタドタとうるさく駆け上がる足音が聞こえて来た。
「来てるんだってな彼女、紹介しろ……!?」
ガシッ!!
「……!!」
「…………」
「…………」
見事に三人とも固まった。突然間近に知らない男性が迫って来たので、久し振りに私の拳がうなったからだ。
だけど運良くその拳は乱入して来た男の人のクロスした腕でしっかりと受け止められ、最悪の事態には至らなかった。
「兄貴……」
呆れたようなホッとしたような何とも言えないヒロくんの声。ヒロくんは私の膝枕から起き上がり、うしろ手をついて溜息を吐いた。
ええっ!? 兄貴?
あわわ……。そうだよね。ここヒロくんのお家なんだもの。お兄さん以外に誰だって話しだ。
「ああ、わりぃわりい。むやみに近付くなって言われてたの忘れてた。悪かったね」
「あ、いえ。私こそ……。いきなり殴ろうとしちゃってすみません」
「アハハ。大丈夫、大丈夫。ちゃんと浩朗から注意されてたんだから、俺が悪いよ」
そう言ってお兄さんは、ニッコリと笑った。その度量の広さは、ヒロくんとそっくりだ。
「……ったく。もうちょっと未花ちゃんから離れろよ」
「ええっ? まだ離れるのか?」
「あ、大丈夫ですよ」
「ほら、大丈夫だってよ。お前、うるさ過ぎるぞ」
「未花ちゃんだめだよ。兄貴を甘やかしちゃ」
「何言ってんだ。自分は彼女に甘えて膝枕させてもらっていたくせに」
「ば……っ、いいだろ別に。未花ちゃんは俺の彼女なんだから!」
赤くなりムキになって、お兄さんに喰ってかかるヒロくんが、なんだか可愛い。微笑ましく思いながら二人を見ていると、パチッとお兄さんと目が合った。目が合って、心底楽しそうに笑われた。
「未花ちゃん」
「だから人の彼女を馴れ馴れしく呼ぶなって」
そう文句を言いながら、ヒロくんがお兄さんの体をぐいぐいと押している。ヒロくんの力も結構強いと思うのだけど、お兄さんの大きな体はびくともしなかった。
「こいつ家でもしょっちゅう未花ちゃん未花ちゃんってウザいくらいだけど、」
「ちょっと兄貴!」
「いいから最後まで話させろ。……浩朗は真面目で正義感強いし良い奴なんだ。だから未花ちゃん、こいつのこと信頼してついて行ってやってくれな」
「兄貴……」
「はい」
どうしよう。ヒロくんがそんな風に褒められて、私の方がジーンとしてしまった。私には兄弟がいないからわからないけど、こんな風にいい所も悪いところも認めあえる関係っていいな。
お母さんや弟君やお兄さん、ヒロくんはこんなに素敵な家族に囲まれているんだね。ヒロくんが、頼もしくて優しい男の人になるわけだよ。
お兄さんは、私がしっかりと頷いて返事をしたのを見て、安心したように笑った。
「じゃあな、邪魔したな。未花ちゃん、ゆっくりして行ってな」
「はい、ありがとうございます」
「だから未花ちゃんって呼ぶなって!」
「心狭いなー」
お兄さんは笑いながらそう言って、手を振りながら部屋から出て行った。
「まったく、兄貴といい克樹といい……」
「でも素敵なお兄さんじゃない。克樹君も人なつっこくて可愛いし」
「えー? 複雑なんですけどー」
「どうして? 褒めてるのに」
「んー、そりゃ家族を褒められるのは嬉しいけど、同じ男としては複雑というか……」
あぐらをかいて口を尖らせ、ボソボソと文句を言うヒロくん。それは彼が時折見せるやきもち焼きで独占欲の強い一面だ。普段見せる爽やかで格好良くて頼もしいヒロくんからはほど遠い。
「もう、ヒロくんったら」
笑っちゃう。笑っちゃうんだけどね。
「でも、いいなあ兄弟って。私一人っ子だから羨ましい」
「そっか。……まあ確かに、兄貴はああ見えて頼りになるし、克樹は可愛いけどさ」
「でしょ?」
「でも一番可愛いのは、やっぱり未花ちゃんだけどね。そこは譲らないよ」
「アハハ。何、それ」
相変わらず過ぎるヒロくんの発言に、もう笑うしかない。ヒロくんの肩をパシパシと叩いて、恥ずかしさをごまかした。
「何が?」
ヒロくんに何を気遣われているのか分からなくて小首を傾げると、ヒロくんの表情が心底ホッとしたものになった。
ああ、そういう事か。
私の男嫌いに関しては、ヒロくんは本当にもう完璧に関係のないものになっている。私が心の底から信頼し、安心出来る大切な人だ。
「不思議だよね」
「……うん。でも、俺が特別なんだよね。すごくうれしい」
いつもは見上げる位置にあるヒロくんの顔が、私の手のすぐ傍にある。
そう思ったらなんだかうずうずしてきて、サラリとこぼれた髪を軽く撫でてみた。見た感じよりもずっと柔らかくて、滑らかで触り心地がいい。何度も梳いて感触を楽しんでいると、最初の内は恥ずかしがってか目を瞬いていたのに、そのうち癒されてくれたのか頬を緩めて目を閉じた。
そんな穏やかで静かな時間をヒロくんと二人でゆったりと過ごしていたら、階段をドタドタとうるさく駆け上がる足音が聞こえて来た。
「来てるんだってな彼女、紹介しろ……!?」
ガシッ!!
「……!!」
「…………」
「…………」
見事に三人とも固まった。突然間近に知らない男性が迫って来たので、久し振りに私の拳がうなったからだ。
だけど運良くその拳は乱入して来た男の人のクロスした腕でしっかりと受け止められ、最悪の事態には至らなかった。
「兄貴……」
呆れたようなホッとしたような何とも言えないヒロくんの声。ヒロくんは私の膝枕から起き上がり、うしろ手をついて溜息を吐いた。
ええっ!? 兄貴?
あわわ……。そうだよね。ここヒロくんのお家なんだもの。お兄さん以外に誰だって話しだ。
「ああ、わりぃわりい。むやみに近付くなって言われてたの忘れてた。悪かったね」
「あ、いえ。私こそ……。いきなり殴ろうとしちゃってすみません」
「アハハ。大丈夫、大丈夫。ちゃんと浩朗から注意されてたんだから、俺が悪いよ」
そう言ってお兄さんは、ニッコリと笑った。その度量の広さは、ヒロくんとそっくりだ。
「……ったく。もうちょっと未花ちゃんから離れろよ」
「ええっ? まだ離れるのか?」
「あ、大丈夫ですよ」
「ほら、大丈夫だってよ。お前、うるさ過ぎるぞ」
「未花ちゃんだめだよ。兄貴を甘やかしちゃ」
「何言ってんだ。自分は彼女に甘えて膝枕させてもらっていたくせに」
「ば……っ、いいだろ別に。未花ちゃんは俺の彼女なんだから!」
赤くなりムキになって、お兄さんに喰ってかかるヒロくんが、なんだか可愛い。微笑ましく思いながら二人を見ていると、パチッとお兄さんと目が合った。目が合って、心底楽しそうに笑われた。
「未花ちゃん」
「だから人の彼女を馴れ馴れしく呼ぶなって」
そう文句を言いながら、ヒロくんがお兄さんの体をぐいぐいと押している。ヒロくんの力も結構強いと思うのだけど、お兄さんの大きな体はびくともしなかった。
「こいつ家でもしょっちゅう未花ちゃん未花ちゃんってウザいくらいだけど、」
「ちょっと兄貴!」
「いいから最後まで話させろ。……浩朗は真面目で正義感強いし良い奴なんだ。だから未花ちゃん、こいつのこと信頼してついて行ってやってくれな」
「兄貴……」
「はい」
どうしよう。ヒロくんがそんな風に褒められて、私の方がジーンとしてしまった。私には兄弟がいないからわからないけど、こんな風にいい所も悪いところも認めあえる関係っていいな。
お母さんや弟君やお兄さん、ヒロくんはこんなに素敵な家族に囲まれているんだね。ヒロくんが、頼もしくて優しい男の人になるわけだよ。
お兄さんは、私がしっかりと頷いて返事をしたのを見て、安心したように笑った。
「じゃあな、邪魔したな。未花ちゃん、ゆっくりして行ってな」
「はい、ありがとうございます」
「だから未花ちゃんって呼ぶなって!」
「心狭いなー」
お兄さんは笑いながらそう言って、手を振りながら部屋から出て行った。
「まったく、兄貴といい克樹といい……」
「でも素敵なお兄さんじゃない。克樹君も人なつっこくて可愛いし」
「えー? 複雑なんですけどー」
「どうして? 褒めてるのに」
「んー、そりゃ家族を褒められるのは嬉しいけど、同じ男としては複雑というか……」
あぐらをかいて口を尖らせ、ボソボソと文句を言うヒロくん。それは彼が時折見せるやきもち焼きで独占欲の強い一面だ。普段見せる爽やかで格好良くて頼もしいヒロくんからはほど遠い。
「もう、ヒロくんったら」
笑っちゃう。笑っちゃうんだけどね。
「でも、いいなあ兄弟って。私一人っ子だから羨ましい」
「そっか。……まあ確かに、兄貴はああ見えて頼りになるし、克樹は可愛いけどさ」
「でしょ?」
「でも一番可愛いのは、やっぱり未花ちゃんだけどね。そこは譲らないよ」
「アハハ。何、それ」
相変わらず過ぎるヒロくんの発言に、もう笑うしかない。ヒロくんの肩をパシパシと叩いて、恥ずかしさをごまかした。
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