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第四話
俺。
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久しぶりに戻った人間界は、酷く騒然としていた。
王城の前にある巨大な円形の広場に集まる国民達。
表情は怒りに震え、中心に向かってガヤを飛ばしていた。
「殺せ、皆殺しだ!」
「魔族は一匹たりとも残すな!」
「俺達の恨みはこんなもんじゃ晴れねーぞ!」
大の大人が、感情を露見させ騒ぐ姿は滑稽の一言に尽きる。
あまりに耳障りで、あやうく殺してしまいそうになった。
けど、我慢だ。この罵声を、全て俺に向けるようにしなくては。
「聞け、国民よ!!」
聴きなれた声が耳に入り、肩がピクッと跳ねた。この国の王であり、元勇者のルイ・スタートによる有難いお言葉だ。
「長き大戦の末、遂に魔族を滅ぼした我々はようやくと平和を手にすることができた。だが、邪悪の種は蘇ろうとしている」
嘘ばかり。俺が和平交渉していると、知っていたくせに。
「あの苦しみを繰り返してはならない。決して、平和を崩してはならない……私は、硬い決意の元、この世界に異変がないか勇者として調査を続けていた。そして、見つけたのだ……魔族の化身、戦火の種……見よ、国民。これが、叛逆を企てる魔王の子、ツィオーネ・デモンズだ!」
ルイの隣にはギロチンに拘束されたツィオーネの姿があった。
散々痛めつけられたのか、苦しそうな表情で額から血を流している。
彼女の痛ましい様を見て湧き上がるギャラリー達。
罵詈雑言を浴びせ、怒りを打つけていた。
なぁにが魔族の化身だ。なぁにが戦火の種だ。
お前ら人間の方が、よっぽど魔族じゃねーか。
ツィオーネがその気になれば、周囲1キロを消滅させることだって容易いんだぞ。
それを……お前らが。お前らと仲良くしてーから、我慢してるんだ。
人間と魔族の架け橋になる為、必死に歯を食いしばってんじゃねーか。
殺す。ツィオーネをこんな目に合わせた奴らは皆殺しだ。
「今日は、真の平和を築く為の第一歩として、この魔族を処刑する。もしかすると、まだ生き残りが存在し、我々に襲い掛かるかもしれない……けど、安心して欲しい。この国には、私が、勇者がいる! 民の命、一人たりとも失わせはしないと約束しよう!」
「うぉぉ! 勇者様、バンザーイ!」
馬鹿どもが、偽りの平和の第一歩だと、何故気が付かない。
勇者は戦いを望み、更に火を広げる為にツィオーネを殺そうとしているというのに。
どいつもこいつも沸きやがって……が、そろそろ頃合いだな。行くか。
「よぉールイ。面白そーな事やってんじゃねーか」
「……ん?」
大衆の中、俺は深く被っていたフードを取り皆に顔を見せた。
周囲の人間達は俺の顔を見るや騒ぎ出す。
「あれは……勇者様の兄、リベール・スタートでは?」
「勇者パーティーを追放されたろくでなしの?」
「今更何をしに戻ってきたんだ」
「まさか、勇者様の手柄を横取りに」
「クズが」
「最後まで勇者様の足を引っ張るつもりか」
たく、散々な言われようだな。
けど、それでいい。
俺の価値が、地位が、下がれば下がるほど、勇者様との差は大きくなる。
そして、その差こそ俺の力になるのだから。
「はいはーぃ、どいてどいて。俺はルイに話があるんだ。道を開けな」
「お前如きが勇者様の前に立つなど、無礼極まりない! さっさと去れ!」
「死ね、面汚し! 勇者様に近付くな!!」
イテッ。大粒の石が頭に当たる。
いいぞ。もっと俺に注目しろ。もっと、もっとだ。
「皆、道を開けよ! 我が兄、リベール・スタートを私の前に」
「──ッ、勇者様!? 正気ですか!?」
「兄のケジメは、私が付けねばならん。通せ」
「は……はい」
ザッと前に道が開ける。へぇ、いいとこあんじゃん。ぶっ殺す。
「よぉ~ルイ、久しぶりぃ」
真っ直ぐと奴に歩み寄り、気楽に手を振るが、最早兄弟の縁などとうの昔にキレている。
鋭い目付きと威圧的な態度のまま、俺の声に応えた。
「何をしにきた、リベール。ここはもう、お前のいていい場所ではない」
「そんな寂しい事言うなよ~。これから戦いが始まるんだろ? 俺も仲間に入れてくれって」
「……ほう」
何かを察したように、少しだけ広角を上げるルイ。流石は兄弟、以心伝心ってわけだ。
魔王を彼女と協力し倒した事も、魔族との和平交渉を続けていたことも、バラすつもりはない。
俺が言ったところで、誰も信じてはくれないだろうからな。
「お前のような足手纏いはお断りだ、と言ったらどうする?」
「ん~そうだな、そこにいる魔王の子? ツィオーネとか言ったか。そいつを逃して、この世を混乱の渦に陥れる……かな?」
「そんなことをして、なんの利益があると言う?」
「戦時中なら法もねぇ。どさくさに紛れてやりたい放題ってわけよ」
敢えて民衆に聞こえるように、大きな声で叫んだ。当然、彼らの矛先は俺に向く。
やれ「裏切り者」だの「人間のクズ」だの「地獄に落ちろ」だの。
いや~メンタル傷つくわぁ。ぶっ殺す。
「それがお前の言い分……というわけか。堕ちたな、リベール」
見下した視線で、冷たい声でルイは言った。堕ちた、か。
「……その言葉、そっくりそのまま返すぜ、ルイ」
「俺は昇っているさ。より高みに、な」
「なら俺が叩き落としてやるよ」
「掛かってくるか? 持たざる者のお前が、この、勇者に」
「あぁ……じゃあな、可愛い弟。今度また、地獄で会おう──ぜッ!!」
「──ッ、ぐッッ!!!」
俺は深く地面を蹴り上げると、弟に向かって飛びかかった。
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