3 / 31
義妹のヴィオラ様
しおりを挟む
「本日よりセルマ様付の侍従となりました、ララと申します。どうか宜しくお願いいたします」
黒髪に浅黒い肌の女性が深々と頭を下げた。
この人はララと言うらしい。専属の侍従がつくなんて、さすが。公爵家は違うわ……。
「ララというのね。私はセルマ・コールドウェルです。どうぞ宜しくお願いします」
こちらも挨拶をすると、ララは目をきょとんとさせて私を見つめた。……な、何かおかしなことをしてしまったかしら。
「あの……?」
「はっ! あ、いえ……、……セルマ様は、ウィルフレッド様の運命の番、なのですよね……?」
「え、ええ。そう、らしいのだけれど……」
「……まだ現実味がありませんか?」
ララが尋ねる。
私はそれに目を伏せながら答えた。
「そうね……。それも、あるけれど、それより……」
「……もしかして、ヴィオラ様のことですか……?」
「! え、ええ!そう! よく分かったわね……!」
私がつい興奮したように話せば、ララはとても複雑そうな顔で話をしてくれる。
「その、……ウィルフレッド様とヴィオラ様は、昔からとても仲がよくて。でも、竜人族にとって運命の番は絶対。だから、これからはヴィオラ様がいた位置にセルマ様が居るようになると思われるのですが……」
「うーん……、本当に、そうなるのかしら……?」
あのウィルフレッド様の嫌そうな目つき。あれが好意的なものに変わるとは、俄には信じがたい。
「……だ、大丈夫ですよ、きっと! だって、セルマ様は運命の番、なのですから!!」
ララが力強く、両の拳を握りしめながら言う。
……運命の番って、そんなに重要なものなのかしら?
人間である私にはよく分からないわ。
そして。
「ウィルフレッド様の態度が変わるとは到底思えない」と考えた私の勘は、当たっていることを、これから嫌というほど思い知らされることになる。
*
翌日。
公爵家の敷地内はどこも広くて、感嘆の息が漏れるほどだった。
ララに案内をしてもらいながら、貧乏なうちとはまるで違う、お城のような風景にすごいすごいと感想を述べながら、二人で楽しく歩いていたところ。
その光景は、私の目に突然入ってきた。
「……あら?」
きれいな中庭が見える。
そこでテーブルを広げながらお茶をしていたのは。
「ウィルフレッド様……と、どなたかしら……?」
「セルマ様、あの方は……」
「とてもきれいな人ね」
日に照らされて、輝かんばかりの金糸の髪。空色の瞳。
眩い美貌がそこにはあった。
その人とお茶をしているウィルフレッド様は心の底から楽しそうで、まるでここが天国だ、とでも言えるようなくらいに笑顔だった。あの方、あんな表情をすることが出来たのね、と驚いてしまったわ。
すると、その眩い美しさを持つその人が私達の方を見た。
「……あら、そこに居るのはだあれ?」
甘くて高い声が聞こえてくる。びくりと肩を跳ねさせた。
もしかして……私たちのこと?
「あ、あの……」
今更隠れることも出来ないだろう。
そう思い、おそるおそる彼女の前に姿を現すと、ウィルフレッド様はひどく驚いた顔をしていた。
「お前、なんでここに!」
なんでって、同じ敷地内に暮らしているんだから顔を合わせる機会なんかいくらでもあるでしょうに。それともこの人は、私に部屋から出るなと言うのかしら。
「もしかして……あなた、ウィルフレッドの番の、セルマさん?」
「は、はい。そうです……」
「まぁ! 是非ご挨拶をしたいと思っていたのよ!」
目の前の美少女は嬉しそうに両手をパン! と合わせる。
「初めまして。私、ウィルフレッドの義妹のヴィオラと申します」
(────!)
どくんと心臓が跳ねた。
そうか。この人が……ヴィオラ様なのね。
今一度彼女の姿をじっと見つめてみる。不思議そうな表情をした彼女と目が合う。
(……確かにこれは……)
この輝かんばかりの美しさを持つヴィオラさんじゃなくて、顔も色彩もパッとしない私が番になった。
昔から妹として彼女を見慣れているウィルフレッド様にとっては、確かに、納得のいかないことかもしれない。彼が私に対してあまりよくない態度をとるのも、仕方ないことなのかも……。
「おい、ヴィオラをじっと見て、何を考えているんだお前は」
……それにしたってこの状態はどうなのかとも思うけど。
「もう。何なのその態度は! セルマさんに失礼だとは思わないの、ウィルフレッド!」
そして意外にも、それを咎めてくれるヴィオラさん。外見と同じように、やはり性格も天使のようなそれなのかもしれない。
案の定ウィルフレッド様は慌てて「ち、違うんだよヴィオラ」なんて言い訳しているし。
「ごめんなさいね、セルマさん。彼、少し素直じゃないところがあるの。でもきっと大丈夫だと思う、だってあなたたちは番なのだもの!」
ヴィオラさんが菩薩のような笑顔でそう言った。
ずくん、と胸が重くなる。
……また番。
またそれか。
(本人の意思もまるきり無視できるほど、運命の番っていうものは強いものなの……?)
そんなにも、番とは重要なものなのだろうか。
少なくとも、私には彼がとても嫌がっているようにしか見えない。それを「番だから」って、彼のそんな気持ちすらも捻じ曲げて、私を愛するようにでもなるというの?
それって、結局のところ、どうなんだろう。
「……すみません。他にも案内してもらうところが色々とあるので……、今日はこれで失礼いたしますね」
にっこりと、人の好い笑顔で言う。昔からこれは得意だ。忙しい両親と、言うことの聞かない弟妹の間に挟まれて、私は何もかもを覆い隠す善良な淑女の笑みを手に入れた。
これがあれば、誰も彼も私を人の好いしっかりとした淑女だと思う。
「あら、そうなの? それじゃあ、またお茶をしましょうね。セルマさん」
ヴィオラさんがきらきらとした笑顔で手を振る。私も、同じように返した。
ウィルフレッド様は、相変わらず私のことを睨みつけていたけれど。
「……驚いた。あの方がヴィオラ様なのね」
二人から大分離れたところで、私ははぁ、と息をついた。
ララが心配そうに話しかけてくる。
「大丈夫ですか、セルマ様。お顔の色が優れないようですが……」
「え? ああ、大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけだから……」
そうだ。本当にびっくりした。
ヴィオラ様とウィルフレッド様が並ぶと、まるで絵画のような風景になるんですもの。
これはお似合いと言われて然るべきものだわ。
「ウィルフレッド様は彼女のことがとても大事なのね……」
「……そんな……」
「でも、分かる気が、するわ。ッはぁ、だって、あんなに……、天使みたいな方で……げほっ」
「……セルマ様?」
気が付けばどんどん息が苦しくなってきて、胸に手を当てた。
心臓が異様なほど早く鼓動してる。なんだろう、これ。
「はぁっ、はぁ……!」
「セルマ様! 大丈夫ですか、セルマ様!!」
荒い息は止まることを知らず、私を襲い続けた。
ララの呼ぶ声がだんだんと遠くなる。
気が付けば、私の意識は暗闇の中へと落ちていった。
黒髪に浅黒い肌の女性が深々と頭を下げた。
この人はララと言うらしい。専属の侍従がつくなんて、さすが。公爵家は違うわ……。
「ララというのね。私はセルマ・コールドウェルです。どうぞ宜しくお願いします」
こちらも挨拶をすると、ララは目をきょとんとさせて私を見つめた。……な、何かおかしなことをしてしまったかしら。
「あの……?」
「はっ! あ、いえ……、……セルマ様は、ウィルフレッド様の運命の番、なのですよね……?」
「え、ええ。そう、らしいのだけれど……」
「……まだ現実味がありませんか?」
ララが尋ねる。
私はそれに目を伏せながら答えた。
「そうね……。それも、あるけれど、それより……」
「……もしかして、ヴィオラ様のことですか……?」
「! え、ええ!そう! よく分かったわね……!」
私がつい興奮したように話せば、ララはとても複雑そうな顔で話をしてくれる。
「その、……ウィルフレッド様とヴィオラ様は、昔からとても仲がよくて。でも、竜人族にとって運命の番は絶対。だから、これからはヴィオラ様がいた位置にセルマ様が居るようになると思われるのですが……」
「うーん……、本当に、そうなるのかしら……?」
あのウィルフレッド様の嫌そうな目つき。あれが好意的なものに変わるとは、俄には信じがたい。
「……だ、大丈夫ですよ、きっと! だって、セルマ様は運命の番、なのですから!!」
ララが力強く、両の拳を握りしめながら言う。
……運命の番って、そんなに重要なものなのかしら?
人間である私にはよく分からないわ。
そして。
「ウィルフレッド様の態度が変わるとは到底思えない」と考えた私の勘は、当たっていることを、これから嫌というほど思い知らされることになる。
*
翌日。
公爵家の敷地内はどこも広くて、感嘆の息が漏れるほどだった。
ララに案内をしてもらいながら、貧乏なうちとはまるで違う、お城のような風景にすごいすごいと感想を述べながら、二人で楽しく歩いていたところ。
その光景は、私の目に突然入ってきた。
「……あら?」
きれいな中庭が見える。
そこでテーブルを広げながらお茶をしていたのは。
「ウィルフレッド様……と、どなたかしら……?」
「セルマ様、あの方は……」
「とてもきれいな人ね」
日に照らされて、輝かんばかりの金糸の髪。空色の瞳。
眩い美貌がそこにはあった。
その人とお茶をしているウィルフレッド様は心の底から楽しそうで、まるでここが天国だ、とでも言えるようなくらいに笑顔だった。あの方、あんな表情をすることが出来たのね、と驚いてしまったわ。
すると、その眩い美しさを持つその人が私達の方を見た。
「……あら、そこに居るのはだあれ?」
甘くて高い声が聞こえてくる。びくりと肩を跳ねさせた。
もしかして……私たちのこと?
「あ、あの……」
今更隠れることも出来ないだろう。
そう思い、おそるおそる彼女の前に姿を現すと、ウィルフレッド様はひどく驚いた顔をしていた。
「お前、なんでここに!」
なんでって、同じ敷地内に暮らしているんだから顔を合わせる機会なんかいくらでもあるでしょうに。それともこの人は、私に部屋から出るなと言うのかしら。
「もしかして……あなた、ウィルフレッドの番の、セルマさん?」
「は、はい。そうです……」
「まぁ! 是非ご挨拶をしたいと思っていたのよ!」
目の前の美少女は嬉しそうに両手をパン! と合わせる。
「初めまして。私、ウィルフレッドの義妹のヴィオラと申します」
(────!)
どくんと心臓が跳ねた。
そうか。この人が……ヴィオラ様なのね。
今一度彼女の姿をじっと見つめてみる。不思議そうな表情をした彼女と目が合う。
(……確かにこれは……)
この輝かんばかりの美しさを持つヴィオラさんじゃなくて、顔も色彩もパッとしない私が番になった。
昔から妹として彼女を見慣れているウィルフレッド様にとっては、確かに、納得のいかないことかもしれない。彼が私に対してあまりよくない態度をとるのも、仕方ないことなのかも……。
「おい、ヴィオラをじっと見て、何を考えているんだお前は」
……それにしたってこの状態はどうなのかとも思うけど。
「もう。何なのその態度は! セルマさんに失礼だとは思わないの、ウィルフレッド!」
そして意外にも、それを咎めてくれるヴィオラさん。外見と同じように、やはり性格も天使のようなそれなのかもしれない。
案の定ウィルフレッド様は慌てて「ち、違うんだよヴィオラ」なんて言い訳しているし。
「ごめんなさいね、セルマさん。彼、少し素直じゃないところがあるの。でもきっと大丈夫だと思う、だってあなたたちは番なのだもの!」
ヴィオラさんが菩薩のような笑顔でそう言った。
ずくん、と胸が重くなる。
……また番。
またそれか。
(本人の意思もまるきり無視できるほど、運命の番っていうものは強いものなの……?)
そんなにも、番とは重要なものなのだろうか。
少なくとも、私には彼がとても嫌がっているようにしか見えない。それを「番だから」って、彼のそんな気持ちすらも捻じ曲げて、私を愛するようにでもなるというの?
それって、結局のところ、どうなんだろう。
「……すみません。他にも案内してもらうところが色々とあるので……、今日はこれで失礼いたしますね」
にっこりと、人の好い笑顔で言う。昔からこれは得意だ。忙しい両親と、言うことの聞かない弟妹の間に挟まれて、私は何もかもを覆い隠す善良な淑女の笑みを手に入れた。
これがあれば、誰も彼も私を人の好いしっかりとした淑女だと思う。
「あら、そうなの? それじゃあ、またお茶をしましょうね。セルマさん」
ヴィオラさんがきらきらとした笑顔で手を振る。私も、同じように返した。
ウィルフレッド様は、相変わらず私のことを睨みつけていたけれど。
「……驚いた。あの方がヴィオラ様なのね」
二人から大分離れたところで、私ははぁ、と息をついた。
ララが心配そうに話しかけてくる。
「大丈夫ですか、セルマ様。お顔の色が優れないようですが……」
「え? ああ、大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけだから……」
そうだ。本当にびっくりした。
ヴィオラ様とウィルフレッド様が並ぶと、まるで絵画のような風景になるんですもの。
これはお似合いと言われて然るべきものだわ。
「ウィルフレッド様は彼女のことがとても大事なのね……」
「……そんな……」
「でも、分かる気が、するわ。ッはぁ、だって、あんなに……、天使みたいな方で……げほっ」
「……セルマ様?」
気が付けばどんどん息が苦しくなってきて、胸に手を当てた。
心臓が異様なほど早く鼓動してる。なんだろう、これ。
「はぁっ、はぁ……!」
「セルマ様! 大丈夫ですか、セルマ様!!」
荒い息は止まることを知らず、私を襲い続けた。
ララの呼ぶ声がだんだんと遠くなる。
気が付けば、私の意識は暗闇の中へと落ちていった。
1,606
あなたにおすすめの小説
番(つがい)はいりません
にいるず
恋愛
私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。
本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。
※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます
神崎 ルナ
恋愛
「運命の番に出会ったからローズ、君との婚約は解消する」
ローズ・ファラント公爵令嬢は婚約者のエドモンド・ザックランド公爵令息にそう言われて婚約を解消されてしまう。
ローズの居るマトアニア王国は獣人国シュガルトと隣接しているため、数は少ないがそういった可能性はあった。
だが、今回の婚約は幼い頃から決められた政略結婚である。
当然契約違反をしたエドモンド側が違約金を支払うと思われたが――。
「違約金? 何のことだい? お互いのうちどちらかがもし『運命の番』に出会ったら円満に解消すること、って書いてあるじゃないか」
確かにエドモンドの言葉通りその文面はあったが、タイミングが良すぎた。
ここ数年、ザックランド公爵家の領地では不作が続き、ファラント公爵家が援助をしていたのである。
その領地が持ち直したところでこの『運命の番』騒動である。
だが、一応理には適っているため、ローズは婚約解消に応じることとなる。
そして――。
とあることを切っ掛けに、ローズはファラント公爵領の中でもまだ発展途上の領地の領地代理として忙しく日々を送っていた。
そして半年が過ぎようとしていた頃。
拙いところはあるが、少しずつ治める側としての知識や社交術を身に付けつつあったローズの前に一人の獣人が現れた。
その獣人はいきなりローズのことを『お前が運命の番だ』と言ってきて。
※『運命の番』に関する独自解釈がありますm(__)m
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる