三度目の正直、噂の悪女と手を組んでみるとする

寧々

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04.待ちわびた社交パーティー

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◇◇◇

──泥酔女……ネフィア=ノートムとのまさかの出会いから三日後のこと。

「アラン、ちゃんと仮面はつけておくんだよ。お前は僕よりも顔がいいから、すぐに令嬢に囲まれて身動きが取れなくなってしまうだろう」

「ルシエル兄さんがなにを言ってるんだか。俺なんかよりよっぽどモテるくせに。そうだ、今のうちに渡しておこうかな。ルシエル兄さん、誕生日おめでとう」

 社交パーティーへと向かう馬車の中、青い包装紙に包まれたプレゼントを差し出した。
 「開けてもいいかい?」と言ったルシエルに、視線を下に落としながら頷く。ゆっくりと丁寧に包装紙を解いていく、じれったいもどかしさが俺の不安をいっそう煽り、ごくりと生唾を飲む。

 安心しろ、これが予定通りいけば失敗はしないはずだ。

「……アランの選ぶ贈り物プレゼントにしては珍しいな。これは、ラマイカ鉱山の所有権かな?」

「そうだよ。本当は兄さんに似合う青い宝石を使ったブローチにしようと、デザインまで考えていたんだが……
どうやらそれが何者かに盗まれてしまってね。
だから急遽ラマイカ鉱山の所有権にしたんだけど……もし兄さんを困らせてしまったなら今すぐ──」

 ルシエルが困るはずなんてない。だって喉から手が出るほど欲しがっていたもんな?
 知ってるよ、父上に何度も懇願してたのを。

「いいや、本当に嬉しいよアラン。なにが一番嬉しいかって、お前がここまで僕のことを思い贈ってくれたものだから、ね」

 ……だがこの鉱山はうまく運営出来たら利益になるが、出来なければただの負債に過ぎないがな。
 
 そんなことなどつゆ知らず、ルシエルは上機嫌で会話を続ける。

「ちなみにブローチはどんなデザインだったんだい? アランのことだ、五年前に送ってくれたものと一緒、なんてことはないだろう。だからどこの令嬢から貰った贈物よりも、アランに貰ったものは僕の中で一番なんだけど」

「恥ずかしいんだが、王家の紋章であるドラゴンと……兄さんは幼い頃、俺と庭でテレジアに教わりながら作った花冠を覚えているだろうか? あの時に一緒に摘んだ花、クローバーが俺の大切な思い出でね。
それを描いたデザインだったんだけど……奪われてしまっては今更なにを言おうとも、時すでに遅しだな」

 そう言って、両膝の上で強く拳を握る。

──『クローバー』
 表向きの花言葉は『幸福』や『約束』。だが俺がこの花を選んだのはそんな意味ではない。
 それはクローバーの裏に隠された恐ろしい花言葉──

「ああ、昨日のことのように鮮明に覚えているよ。僕にとっても大切な思い出さ。
……ひとまず盗んだ者は地の果てでも追いかけて、必ず見つけ出すことを約束しよう。あとは僕の好きにしてもいいかい?」

──『復讐』という意味が込められていることをルシエルが気付く日は来るのだろうか。

「ああ。もう暗い話はこれくらいにしよう、なんせ今日は兄さんが主役なんだ。まぁ多少の気疲れはするだろうけどね」

「そうだね。大いにパーティーを楽しもう、アラン」

 満足そうに微笑むルシエルへ、俺はこれから起こりうる出来事に胸を躍らせて笑って返したのだった。




 半刻ほど馬車を走らせ到着した場所は、王国で社交パーティーによく使われる洋館である。ちなみにこの屋敷の所有者はこの俺、アラン=カルティージョだ。
 
 遡ること三日前、ラマイカ鉱山の件で父上と話した際に、どうしても欲しいと俺がねだったものは、この社交パーティ―の開かれる洋館の所有権だった。父上は当初は少々渋った様子であったが粘った末、一年後の返却を約束に、と最後は承諾してくださった。

 正直、一年もいらないんだけどな。まぁ貰えるもんは貰っておこう、後々役に立つかもしれないし。

 二人して馬車を降りると、出迎えた使用人に連れられるがまま会場とは反対の、一番奥の部屋へと通される。
 この国の王子二人を理由も告げずに呼び出せる人物はこの王国に一人しかいない。通された先に待っていたのはルシエルと同じ金色の髪と髭を蓄えた、紺碧色の双眸で出迎える父レイモンド=カルティージョであった。

「おお、待っておったぞ二人とも。ひとまずルシエル、誕生日おめでとう。儂からの贈り物は──」

「ありがとうございます、父上。ですが僕は充分すぎるほどに貰いました。アランから送られたラマイカ鉱山の所有権も、父上あってのことかと」

「よもや気付いておったか。いやなに、アランが承諾するまで頭を上げぬと申すのでのう、辛抱ならんで負けてしもうたわい。ルシエルよ、ラマイカ鉱山を存分に生かせ」

 跪く俺達にカルティージョ王国の国王、レイモンドが「して……」と呟いた。

「アラン、この洋館を急に欲しがったと思えば……会場の飾りや食事にも全てにお前が携わっていると耳にはしていたが、僅か三日でよくぞここまでやり遂げた」

「すべては兄さんのためを思ってしたまでのこと。父上も今日はどうかごゆるりと過ごされますよう……とは言っても国王なので難しいかもしれませんね」

「いいや、充分に休ませてもらっておる。儂の身も案じてくれるとは、ルシエルよ良き弟をもったものだな」

「ええ。僕には勿体無いくらいの弟ですよ。では父上、僕達はこれで失礼します」

 立ち上がったルシエルに続き部屋を出ると、会場には続々と貴族たちが集まり始めていた。ふと外へと視線を向ければ馬車がせわしなく停まっては去るを繰り返し、その中にひと際目を引く公爵家専用の馬車が目に入る。

「どうかしたかい、アラン。今日はいつになく笑っているな、外になにか面白いものでもあったのかい?」

「いいや、今日はやけに星々が輝いているなと思ってね。まるで晴れ舞台を祝福しているかのようだ」

 ルシエルは知らない。これは兄に向けた言葉ではなく、俺自身へと向けた言葉だ。

 今回ばかりはお前達の思い通りにはいかせない。
 せいぜいパーティーを楽しんでくれよ兄さん、そしてエミリー=ノートム。

「ほらまた笑ってる。頬が緩みっぱなしだね、アラン」

「ははっ、兄さんこそ。さぁ行こう、皆が主役をお待ちかねだ」

 両脇に立つ使用人の手によって大きな扉が開かれる。集まった大勢の貴族達が手を止め頭を下げるなか、俺は会場に一歩足を踏み入れたのだった。

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