ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【48】2006年6月8日 時間・場所・天候不明。中年と青年③(レン視点)。

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いったいタサキは何発蹴られたのだろう。正確な回数は不明だが少なくとも数十発以上蹴られたのは間違いなかった。中年はそこで体力の限界がきたのか、両手を膝について汗だくになった顔を拭い(ぬぐい)ようやく蹴るのをやめた。


タサキはもううめき声すらあげられない様子で横たわっている。


「ふぅ、ふぅ・・・。まぁ、あれだ。社長に言っても良いけどよ。今言ったとおり、最終的に判断したのはお前なんだぜ?あ~シンドイ。ふぅ・・・」


中年は椅子に座り込むと新しくタバコを手に取って火をつけた。

「ほぉぉ~~~~~~」

タバコを目一杯吸い込んだところで、床に横たわっているタサキに煙をふきかける中年。中年はいびつな笑顔でタサキの髪をひっぱりあげると耳元に顔を近づけて何やら話しだした。


「それにお前も聞いてるだろ?社長のヤベェ噂をよぉ」


「・・・・・・」


中年の言葉がトドメになったのかタサキは観念したような表情をみせた。

「なぁそこでだ、ちょっと儲け話があるんだがどうだ?乗ってみないか?」


《あぁ、やっぱりな》


タサキは黙り込んではいるが、中年の儲け話というヤツに少なからず興味があるみたいだった。

「犯罪は、したくありませんッ。カハッ・・・」


やっとの思いで口にした言葉だった。



《中年の言うとおり、契約をしてしまったのはタサキ本人であることは事実。正直、中年の儲け話に興味もある。だからと言って犯罪はしたくない、みたいな感じかな》


「なぁ~~、おいおい。あのよぉ、まさか分割で数年間かけてなんて返済方法を考えてるわけじゃねぇよなぁ~~?社長がそんなふざけた返済プラン了承すると思うかぁ?」


「・・・ダメもとでグホッ!お願いしてみます・・・」

「スーーーー、ほぉぉぉぉ~~~~~~」

中年は再びタバコを吸い込み今度は天井にむかって煙を勢いよく吐いた。


「わーった!わーったよぉ~。お前はクソ真面目すぎるんだよなぁ。そういやこのヤミ金をクリーンな金融会社にしようって言い出したのもお前だったよなぁ」

「・・・・・・」


「確かに俺の設け話はホワイトじゃねぇグレーゾーンだけどよ。つっても交通違反する程度の軽いヤツよ。話を聞くだけの価値はあると思うがな~。まぁ、好きにすりゃいいさ」



中年はもったいぶった口調で語りながらタサキを起こした。


「悪かったなー、殴っちまって」

「・・・いえ、ボクも生意気なことを言ってすみませんでした」


「詫びと言ったらアレだが、明日社長に報告する際にオマエの長期返済の件、頼み込んどいてやるよ。はぁぁ~~」

中年はこれみよがしにため息をついて小さいスペースから出ようとカーテンに手をかけた。


「ま、待ってください!」

「何だよ?まだなんか文句あんのか?」


「違います。その、お話だけでも聞かせてくれませんか?」


タサキの申し出を聞いた途端、私の中に高揚感が流れ込んできた。


《何、この感情?私のじゃない。この中年の?・・・喜んでる?さっきタサキを蹴っているときは何も感じなかったのに。どういうことなんだろう?これも魔天の輪の能力?》



タサキの言葉を聞いた中年は平静を装ってはいたが内心とても喜んでいるのが分かった。

「バレたらヤバいってのは分かってんのか?」


「でも、もしかしたらバレない可能性もあるんですよね?それで2000万が手に入るかもしれないんですよね?」

「まぁ、そこはオマエ次第だな。じゃあ、やるってことで良いんだよな?」


中年は回りくどく最後の念押しをした。


「お願いします」


嬉しさのあまり興奮しているのか中年の鼓動がドンドン早くなるのが分かる。


《正真正銘のクズだ、・・・コイツ》


散々このクズ中年に蹴られたタサキがヨロヨロと頭を下げた。

「どうだ?俺のおごりで一杯やらないか?そこで教えてやるよ」


「ありがとうございます」


それはタサキにとって間違いなく破滅へのカウントダウンだった。そしてこれは過去の出来事、残念ながら私にはどうすることもできない。


《もしこの状況で私が動けたのなら、このクズ中年をグチャグチャにしてやったのに。・・・アレ?》





そこで目の前が真っ暗になり何も見えなくなった。際限なく広い空間に私だけが放り出されているような感じ。足が地につかず、かと言ってフワフワと浮いてるわけでもなく落ちているのか上昇しているのか進んでいるのか後退しているのかまったく分からない。


ただ、一定時間毎に何かに引っ張られるような感覚だけはある。何とも不思議で気持ち悪い状態がしばらく続いた。どうにか動いてみようとしても上下左右が分からないので、どこへ向かえば良いのかすら判断できなかった。しばらくすると頭上から光が差し込んでいるのが見えた。



それが上なのか下なのかは今もはっきり分からないので、適当に『上から』ということにしておく。身体が私の意思に反してその光に吸い寄せられていく。


こんな得体の知れない状況に陥っても私が落ち着いているのは、既にこの状況を過去2回経験しているからだった。



初めてこの状況を味わったときはパニックを起こしたが、3回目ともなると特に驚くこともなくなっていた。そうこうしている内に光がドンドン大きくなり近づき私を包み込んだ。


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