ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【49】2006年6月8日 時間・場所・天候不明。中年と青年④(レン視点)。

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《まぶしい・・・》

また風景が変わった。ココはマンションの一室だろうか?

私はあまりマンションやアパートに詳しくないので相場というモノが分からないが、なかなか高級感があって広さも十分な部屋だった。


《クサッ!!》


先程のオフィスよりは控えめだがヤニ臭さが漂っている。しかも、ムカつくことにあのクズ中年の体臭を少し覚えてしまったらしい。


風景が切り替わってもクズ中年の体臭が臭うということは・・・。


《間違いない。私はまだあのクズ中年の過去を見ているんだ》



しかし、何かあったのか、夜だと言うのに電気をまったくつけないで窓の側で1人佇んでいる。暗がりのためはっきり確認できないが、臭いと手の感触から察するに
クズ中年は片手にタバコ、もう片方には酒の入ったグラスを持って夜景を眺めているようだった。

クズ中年の体臭とタバコ、そして酒の臭いが絶妙に交わり気持ち悪い。


夜景はどこの街かまでは分からなかった。加えて言うと、酒もタバコもやらないのでメーカー名も一切分からない。それ以前に一応未成年であり、酒もタバコもできない上にどちらも大嫌いなので興味がないのだが。


クズ中年は先程タサキとのやり取りで見せた興奮状態がウソみたいに収まっており非常にスッキリしているようだった。



《ちょっと待って。この記憶はあれからどれくらい日が経ってんのかな?今の状況じゃ把握できるモノがない》


「ふぅ、さてと・・・」


クズ中年はグラスを置いて携帯電話を手に取るとどこかにかけ始めた。

プルルルルルル、プルルルルルル、ピッ。


相手は3コール目に入る直前でクズ中年の電話にでた。


「あぁ、お疲れ様です。例の件ですが『Bコース』で無事収まりましたぁ~」


《Bコース?何のこと??》


「おぅ、そうか。あのガキ、随分手こずらせてくれたみたいだな。それよりオマエ酔ってんのか?仕事のときはホドホドにしとけよ?」

電話口から低い声が聞こえる。このクズ中年が敬語を使っているくらいだからもしかしなくても上司もしくはボスクラスの人物なのだろう。声から察するにお祖父様や丹加部さんほどではないが、このクズ中年よりは年上に感じた。だいたい50代か60代のような印象を受けるが私の勝手な思い込みであることは否めない。



「えぇ、申し訳ありません。このガキ信用させるのにちょっと飲み過ぎちゃいまして、ハハハッ」

《ガキ?飲みすぎた?あの安っぽいオフィスでの出来事からあまり時間は経ってないのかな・・・》

「で、どうなんだ?そのガキの価値は?」

《価値?》


「はい、たしか学生時代は運動部でサッカーで全国優勝したとかって話をしてたような気がします。タバコはやらない、酒もまったくダメでしたねぇ。嫌ってくらい健康体ですよ」


クズ中年は誰かとよく分からない話をしている。


「そいつぁ優良だな」


「えぇ、高値で取引されるはずです。では、俺はこれで退散するんで、あとの処理はお任せします」


クズ中年はそう言って電話を切ると視線が足元へ移動した。



《ッ!!??》


クズ中年の視界に映ったモノ、それはタサキの遺体だった。タサキは白目を向いて仰向けで死んでいた。口の端には少し泡みたいなモノが付着しており、首にはロープで締め上げられたような痕が残っていた。遺体の側にはロープが落ちている。


今の電話とこの状況から察するに、クズ中年が殺したことは明白だった。


「おっと、ヤベーヤベー。証拠残して帰ると社長に死ぬほど怒られるからな。場合によっては俺も殺されかねない」


クズ中年は携帯をポケットにしまいタバコを灰皿で消すと窓を開けて外に捨てた。そのまま中腰になり落ちているロープを拾うと、タサキの額をパシパシとはたき始める。



「まったくよぉ、おまえがいけないんだぜ?ヤミ金だったアメズファイナスを『クリーンな金融会社にしましょう』なんて、こともあろうに社長に進言しやがって」



クズ中年はロープをカバンに入れながら立ち上がると遺体の頭を軽く蹴った。


「でもまぁ、いずれこうなることは予定されてたんだけどな。ヤミ金はあと数年もすりゃ締めつけが厳しくなるだろうし、どのみち首が回らなくなるのは目に見えていたからなぁ」


クズ中年はグラスに残った酒を一気に飲み干すとキッチンでフキンを濡らし固く絞った。そして、残った酒瓶とグラスについている指紋、それから自分が触ったであろう箇所をフキンで拭き始めた。



「そこで社長が思いついたのが臓器売買さ。社長はそういうのをサバけるルートを知っててなぁ。丁度、跳ねっ返りなオマエの扱いに思いあぐねていたタイミングだったから弊社新事業の第一号となってもらったんだよ。単純な話だろ?現在、返済できないヤツらも順次同じ目に遭ってもらう予定だからよ、オマエの所にすぐに仲間が駆けつけてくれるはずだぜ?ハハハッ!はぁ~、飲みすぎたぁ」


クズ中年は指紋を拭き取りながら遺体に語りかけるように、しかし隣の部屋に聞こえない声量で淡々と話し続けた。


「大口の融資はやめて少額借金と暴利漬けにして返済不能になったらバラしていく。これが新しい『社の方針』ってヤツさ。クリーンさは微塵もないが、シンプルでローリスク・ハイリターンな商売だろ?そして今日から俺の仕事は実行役ってことさ。人生、綺麗事だけで生きていけるわけじゃねーからなぁ。社畜のツレェところだよぉ。ひっく、う~・・・うッうッうッ・・・」



クズ中年は急に背中を丸めて激しく身を震わせた。

「下戸のオマエに無理やり飲ませて悪かったけどよぉ、最期に美味い酒飲めてよかったじゃねぇか。ククク・・・ハハハ、アハハハハハッ!これで1体200万は病みつきになりそうだぜ、ククク・・・。間違いねぇ。俺の、俺の天職だ。クククッ」


クズ中年の意識が喜びで満ち溢れ暴走しているのを感じた。


《ッ!!》



そこで私の視界はブラックアウトし、意識が引き剥がされ空へと飛ばされた。
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