ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【50】2006年6月8日 1:06・八恩慈駅周辺・晴れ。捕獲(レン視点)。

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「・・・んはぁ!!はぁ、はぁ、フゥゥゥ~~~」

「おかえりなさい、レン」

「ただいまユアル。フゥ、フゥゥ」

「どうでした?」

「うん、バッチリだった」

「フフッ。おめでとうございます」

「私、どれくらい意識飛んでた?」

「そうですねぇ、だいたい1分くらいだと思います」



「1分ね、フゥゥゥ」

《このタイムラグは覚えておいた方が良さそう》


「それであの中年はどこに行ったの?」

「レン、少し集中してみてください。今のアナタなら分かるはずですよ?」


「え?・・・うん、やってみる」

《あのクズ中年の存在を探れば良いのかな?》


私は目をつむってあのクズ中年を思い浮かべた。

「・・・ウソ」

瞬時にクズ中年の居場所を感じ取れた。あのクズ中年が移動した分だけ居場所が更新されながらリアルタイムに感じ取ることができる。

「こういう使い方もあるんだね。魔天の輪って」

「フフフ、レンの飲み込みが早くて助かります」

「何か含みのある笑いだけど、素直に褒め言葉として受け取っておくね、ありがと。フゥゥゥ 。じゃあ、行ってくるね?」

「はい、フォローはお任せください。ミラジュレンスは宜しいですか?」

「あの不干渉の透明にしてくれるヤツ?う~ん、ギリギリまで自分でやってみたいから遠慮しとく。ヘマしそうになったらフォローお願い」

「良い心がけだと思いますよ、レン。それに魔天の輪の影響でミラジュレンスの効果は少し早めに切れる可能性がありますから。レンが意識を失っている間にも、1度かけているんです」

「え?効果の持続時間が増すとかじゃなくて?」

「えぇ。魔天の輪は使用者の保護を優先する設計になっておりまして自分以外の能力はすべて敵からの攻撃として認識され軽減したり、無効化したりするのです」

「へぇ~、初耳。あ、そうだッ」

私は自宅付近の失態を思い出した。

「ねぇユアル、さっき家を出るとき不干渉の魔法が途中で切れちゃったのも魔天の輪の効果ってこと?フゥゥゥ」

「あのときレンは魔天の輪を使用していませんでしたし、私にかけられた効果はそのままでした」

「あ、そう言えばそうだね。フゥゥゥ」

「茂みに足をとられたとき、恐らく私に置いていかれないように早く追いつこうと、言い換えれば自分の存在を伝えようという意識が働きませんでしたか?」

「あ、うん。まさにその通り」

「ごめんなさい。きちんと説明していなかった私のせいですね。ミラジュレンスは基本的に不干渉化、つまりあらゆるモノから干渉・認知不可能になる効果がありますが全てにおいて不干渉を発動するわけではないんです」


「どういうこと?」

「認識してほしい相手に向けて強く意識することでその相手のみ認識させることも可能なんです。ただ、あまりにも意識が強すぎたり私の調子いかんで、効果の持続力が左右されることもあるみたいなんですが」


「なるほどね。説明してもらったおかげで全部じゃないけど何となく理解できた。フゥゥゥ。今回の結果次第でまたお世話になるかも」

《ユアルの調子も影響するのか》

「はい、私はいつだってレンの味方ですから、それだけは忘れないでくださいね?」

「りょーかいッ」

私はビルの屋上から勢いよく飛び出す。大通りを挟んだ向かいのビルにも飛び移れたが、流石に目立ちすぎるので迂回する形で隣接するビルの屋上を素早く、また低空を意識して飛び移りながらあのクズ中年の居場所を目指した。



「お?お?」

ビルからビルへ飛び移りながら1分もしない内にあのクズ中年が視界に入ってきた。クズ中年は丁度人気(ひとけ)のないビルの裏路地へ入っていく途中だった。


「あひゃッ!!見ーつけたっと!!」

嬉しさのあまり下品な笑い声が出てしまった。しかし、今の私には怖いモノなど何もない。誰にどう思われても今の私を西冥だと知る者はいない。私は今、全身で喜びを表現するように飛び跳ねている。ただただ喜びに満ち溢れいている。


身体の中がどんどん熱くなっていく。

ダムッ!!

空中で体勢を整えてビルの外壁を思いきり蹴り、急降下する。




「タサキさぁ~~んッ!!」

私の声に面倒くさそうに振り向きはじめるクズ中年。

ガシィッ!!




しかし、クズ中年が振り向くよりも先に私は首を鷲掴みにして捕獲した。

「んぐぅ??ググググング??」


可哀想に、このクズ中年は私の姿すらまだ確認できてないというのに、首がギチギチに締め上げられ呼吸困難に陥ってしまっている。

「あ、そうか」

私はそこでちょっとした間違いに気づいた。

「タサキってオマエの部下だった人だよね??」

「グブブブ!?ヒューヒューッ!!」

クズ中年は私の言葉を聞いて明らかに呼吸が荒くなり始めた。人間の確定的な死期の訪れを知らせる呼吸困難の音が心地良い。

「って、さすがに答えられないか。フゥゥゥ。えーっと?あれ?名前、なんだっけ?」

考えてみると私はクズ中年の名前を知らなかった。

「まぁ、この際どーでもイイかぁ。フゥゥゥ、さて」


これ以上首を締め上げていると呆気なく死んでしまう。それにいつまでも地上でモタモタやっていると関係ないヤツの目についてしまう危険性もあった。そこで私はこのクズ中年を近場のビルの屋上へと連れていくことに決めた。

「せーのッ!!・・・あ゛!!??」


勢いをつけて飛ぶ直前、空間の歪みとでも言えば良いのだろうか?例えるなら自宅近くでユアルが高速移動をしたときと似たような感覚に襲われた。景色が歪むことはなかったが周りの空気が一変する。動物的な直感としてヤバイ雰囲気を特定の場所から察知するとか、これはそんな生易しいモノじゃない。


ヤバイ雰囲気そのものに包まれるような逃げ場なんてどこにもないまさにそんな感じだった。とてもじゃないが穏やかになんて装っていられない。私は突然の出来事に最大限周囲に注意を払い警戒する。


「レン?」


「ッッ!!??」

背後からの声に驚いた私は咄嗟に中年の首を掴んだまま飛び跳ねて空中に退避した。いくら獲物を前に興奮しているからと言っても魔天の輪を装着中の私はあらゆる感覚が向上している。それが魔天の輪の効果でもあると以前ユアルが説明してくれた。


とにかく今の私が背後をとられるなんて絶対にありえないと断言しても良いくらい五感が研ぎ澄まされているはずなのに。その声の主は私の警戒網を簡単に突破して背後に現れた。


《ん?待てよ?今、名前呼ばれなかった?》


声の主が誰なのか理解するのに数秒かかりやっと気づく。私は注意深くさっきまで立っていた場所に視線を向けた。


「あ、あれ?」

しかし、そこにはもう誰もいなかった。おかしいと思いつつも、念の為、元いた場所からかなり距離をとって着地をする。

「レン、落ち着いてくださいッ」

「ヒッ!?」

またも背後から声をかけられる。さすがに声の正体がユアルだと気づいてはいたが、魔天の輪を装着中でも予告なしに背後から声をかけられると寿命が縮む。昨日の体育の着替えのときとは悪質さのレベルが違う。


「ユ、ユアル、頼むから驚かさないでよ。フゥゥゥ・・・」

「フフフ、ごめんなさいレン。ですが、今の回避反応とても良かったですよ?」


ちなみに、ユアルの説明によれば魔天の輪を装着中の私には器官が存在しないらしい。実際に中身を見たわけじゃないから真偽は不明だけど。なので、『心臓に悪い』という表現は今の状態だと当てはまらなくなってしまう。一応、心臓の位置に手をあて鼓動を調べる。


《うん、これだけ驚いてるのに全然振動がない》


無理やりポジティブ思考に持っていくのなら唯一の救いは死ぬほど驚かされても心臓へのダメージがないことだろうか?


《イヤ、待てよ。背後から声をかけてきたのがユアルだとしてそれってつまり魔天の輪を装着中の五感ビンビンの私の警戒網をあっさり突破できるってことだよね》


この事実に気づいてしまった現時刻をもって、ユアルとお祖父様はヤバイ人物ランキング同率1位となった。お祖父様同様に『逆らわない方が身のため』と本人が警告するのではなく、相手に自発的に思い知らせるという共通のヤバさが2人にはあった。



「あのぉ~レン?」


《そもそもユアルもアイナも通常状態で異次元レベルなことができるわけだし。これ以上とんでも能力を見せつけられたら、お祖父様の首位陥落だって十分あり得る》

ユアルのことを知れば知るほどそのスゴさに引く。

ユアルがお祖父様と同率1位になったおかげで自動的にアイナが2位に昇格したことを薄っすら認識しながらがも今は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

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