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【51】2006年6月8日 1:11・八恩慈駅周辺・晴れ。テスト(レン視点)。
しおりを挟む「レン!レン!!そろそろ放さないとそのヒュルリム死んじゃいますよッ?」
「へッ??」
「ング!グッグッグッ」
ユアルの言葉にクズ中年を見てみると私の手から逃れようとクズ中年が必死に暴れていた。しかし、力はなくただもがいているようにしか見えない。私は慌てて手の力を緩めた。
「今のレンの状態だと相手があっさり逝ってしまうので気をつけてくださいね?」
「う、うんごめん。分かっているつもりだったんだけど、フゥゥゥ。ところでユアル、何か用?」
「あぁ、ごめんなさい。ココから半径50メートルくらいですかね?結界を張りましたから、どんなに大声をあげようが暴れようが、誰も私たちに干渉することはできませんというご報告です。さすがにその状態で人目につくのは色々とマズイと思いまして・・・」
「結界?」
「結界というのは術者の絶対的なテリトリーで閉じ込められたら、その術者が結界を解くか術者を殺すしか出る方法がないんですよ」
「な、なるほどぉ」
この瞬間、私の中でユアルがランキング永久1位の座に君臨することになった。それ以前に、もうユアルをランキングする意味を見出だせない自分がいた。
「手早く済まそうとしたんだけどやっぱりダメだったよね。薄々感じてはいたんだけど、フゥゥゥ」
久々の狩りに思わず舞い上がって細かい部分まで考えてなかった。イヤ、考えられなかった。先程、ビルの屋上で反省したばかりなのに自分がいくら冷静だと思っていても獲物を目の前にすると欲望が先行してしまう。考えるよりも早く獲物を狩りたい気持ちが強すぎて理性が吹っ飛んでしまったらしい。
「まったくユアル先生の仰る通りで言葉もありません。実はこのまま山まで連れて行くべきか否か悩んでたからホントに助かる、フゥゥゥ。自分で最後までやるなんて大口叩いてたけど、まだまだ1人じゃ無理だね」
私はクズ中年を自由にしてやった。するとクズ中年は狭い檻に閉じ込められていた猪が山に放たれたように猛ダッシュで私たちから距離をとる。
「はぁぁはぁあああ!んはぁああああ!!!何だテメェら!!やる気かよぉぉぉおおお!!???」
死の一歩手前まで恐怖を味わったクズ中年は明らかに錯乱していた。なかなか人間の錯乱状態を見る機会がないので角刈りモアイの声飛びと同じくらい貴重な光景だとちょっと感動する。
「いいえ、レン。それは違います。たった3回でココまで成長したんですよ?正直なところ驚いているんです、私」
「ホントぉ?おべっかじゃなくてぇ~?フゥゥゥ」
「はい、おべっかでもゴマスリでもなくその成長っぷりは想像以上です。それに今日の狩りを失敗だと思うのでしたら課題をご自身で見つけてみてはいかがでしょうか?その解決策が見つかるまで私やアイナがサポートしますのでッ♪」
「ありがと、フゥゥゥ。ユアルに褒められると何か照れるなぁ」
「フフフ、正当な評価をしたまでです」
私たちはクズ中年の存在を思いきり無視して会話を楽しんでいた。
《何だろう、この既視感。あッ、アイナの件でも似たようなことあったな》
「おい!テメェら聞いてんのか!気持ち悪い格好なんかしやがって!!どうせ最近流行ってるアニメかなんかのコスプレだろぉが!!テメェらの素性調べて家族全員あの世に送ってやるからなぁ!!!」
「まぁ、怖い・・・」
ユアルが茶化すようにつぶやく。
「バカにできるのも今のうちだからなぁ。テメェらはもう取り返しのつかないことをやっちまったんだ。それをたぁ~っぷり教えてやるよ」
クズ中年はどこに忍ばせていたのかアーミーナイフのようなモノを手に持つとやる気満々で構えた。ただ、私も詳しいわけではないのであれが本当にアーミーナイフなのかまでは分からなかった。
「ユアル、ちょっと試したいことがあるからあとは私に任せてもらって良い?」
「仰せのままに」
「お?おぉ!?よく見たらそっちの背の高いメガネはスゲェ美人じゃね~か~。よし決めた!オマエは俺のモノにしてやるッ!散々遊んだあとで金持ちの豚オヤジ連中にレンタルしてボロ儲けだぁッ!!そっちの変なコスプレは今すぐぶっ殺す!!」
クズ中年はナイフを構えたまま私めがけて突進してきた。
「レン、私ヒドイメ目に遭わされちゃうみたいですね」
「フゥゥゥ、はーいはい。それにしても、まったく品性の欠片もない下品なセリフだなぁ」
私は微動だにせず、むしろクズ中年が刺しやすいように少し両手を広げて待ってやった。
「バカがッ!!死ね!!!」
クズ中年は十分すぎるくらい助走をつけ、その勢いのまま私にナイフを突き立てた。
ガキィィィイン!!
正中線から少し左の腹部あたりに衝撃を感じる。
「フゥゥゥ、なるほどなるほど。ナイフでは傷はつかないと。あ、ユアル確認なんだけど」
「はい、何でしょう?レン?」
「これってユアルが何か施してくれた能力の1つとかってわけじゃ・・・?」
「えぇ、もちろん私は何もしておりませんよ?」
「ふんふんふーんふんふん、なるほどねぇ~。イヤ、以前から少し気になってたからさ。そっかナイフは大丈夫なんだね~。フゥゥゥ、これは貴重な情報だ、ありがとオジサン」
「ハッ、ハッ、ハッ・・・ヒッ」
目の前にいるクズ中年の狂気に満ちた表情がみるみる血の気を引いていくのが分かる。口をパクパクせわしく動かしながら必死に何かを喋ろうとしている様子が少し滑稽だった。
「何なんだよ」
「オジサン?」
ちょっと私が動くとズ中年は防衛本能がフル稼働したのか何度も私にナイフを突き立て始めた。
「ぅぉぉおおおおおおおおおッ!!!!!!」
ガキィン!ガッ!ガキィイイイン!
《4、5、6、7。うん、痛みはないかな。8、9、10。やっぱり何か鋭いモノで叩かれている程度の感覚しかないな。これ以上やってもたぶん私の肌に傷をつけることすら無理だろうな》
パシッ!ボキィッ!!!
「ギャァァァァァァァアアアアアアアアア!!???」
私はクズ中年の右腕をとると試しにあらぬ方向へ軽く曲げてみた。ホントに軽く、そして優しく。
カランカランカランッ。
ナイフがクズ中年の手を離れて地面に転がる。もしかしなくてもクズ中年の腕は折れてしまったらしい。
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