ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【53】2006年6月8日 1:20・八恩慈駅周辺・晴れ。歓喜の異音(レン視点)。

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「ちょっと力加減が難しいけど。フゥゥゥ、これくらいかなッ!」


クズ中年の脚を持つ手に力を入れて天に向ってブン投げた。クズ中年が物凄い勢いで上昇していく。


「あッ、ちょっと投げすぎたかも」

普段、生活していると直進方向の距離感は何となく分かるが、空中になると途端に分かりづらくなるのは私だけだろうか。


「んー、大丈夫だと思いますよ?」

ビダァン!!


「え??」

「あら?」

ユアルの言葉の直後、上空から物凄い音が聞こえた。見上げると、先程まで凄い勢いで上昇していたクズ中年がピタッと止まっている。どうやら天井に衝突したらしい。


しばらくすると吸着力のなくなった壁掛けフックのようにクズ中年がゆっくり天井から剥がれ落下し始めた。





クズ中年は特に暴れる様子もなく、重力に従い人形のように落下してきた。



いよいよ感動のフィナーレが近づいてきた。私は短刀を持っている腕を伸ばし、クズ中年の心臓を串刺しにできる落下位置を調整しながら待った。

「アハハハ!来いッ!来いッ!来いッ!来いッ!フゥゥゥ」

「フフフ、レンったら下品ですよぅ♪」


この空間には私とユアルしかいないのだから人の目なんて関係なかった。私は自分の欲望をありのまま受け入れて、舌なめずりをしながら今か今かとクズ中年が落ちくるのを待った。


そして――



    ズブゥ・・・


「かはッ!あぐぅ」


見事に短刀はクズ中年の心臓を捉え、抵抗や摩擦なくスーッと簡単に貫き串刺しにした。と言っても、刀身の長さはそこまで長くないので刃の先端がギリギリ貫いた程度だが。


クズ中年の体がゆっくり脱力して重力に逆らえなくなり、手足がダランと胴体にぶら下がるように垂れる。



「さよならオジサン。タサキさんに宜しくね?」


ブシュゥゥ―――――。




クズ中年の真下にいた私はモロに血しぶきを全身で浴びてしまったが今の私にはそんなこと眼中にないくらい興奮が抑えられなかった。むしろ、その血しぶきが更に興奮状態を助長させていたくらいだった。


「はッはッはッはッはッはッはッ!フゥゥゥ、フゥゥゥ!!」


真夏の犬のように絶えず呼吸をして熱を放出しないと興奮のあまり体内温度が上昇し続けて頭がおかしくなりそうだった。


「早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く!!!」

歓喜と狂気が波のように襲ってくる。

「早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く!!!!!」


もう我慢の限界だ。


「早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く!!はやッ??」

「ふぎゅッ!!??」

ボコォ!ベキィ!!

クズ中年のマヌケな声と共に身体から鈍い音が聞こえた。



「始まった!やっと始まった!待ちわびた!!ヒャハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」


メキィベキベキッゴキィ―――。



この鈍い音の正体。それは中年の身体が圧縮されるのに伴い骨が折れたり、粉砕されている音だった。


「きゅッ?んぐぅッ?ひゅッ!」


クズ中年に意識があるのかは分からないが、圧縮される度に小動物みたいな鳴き声を漏らす様は本当に滑稽で愛おしく、そして待ち遠しかった。


ボコォ!ゴリュッ!

「・・・・・・」


そのうちクズ中年の鳴き声は聞こえなくなり、心臓を串刺しにしている腕がどんどん軽くなっていく。クズ中年だった『モノ』はみるみる圧縮されて、両手で持てるくらいのサイズになる頃には身体から聞こえていた鈍い音も聞こえなくなっていた。



ユアルとアイナはこれを『魂煌珠(こんこうじゅ)』と呼んでいた。両手サイズに圧縮された琥珀(こはく)色のそれは中心に大きな珠があり、その周りをブドウの粒を2倍くらいに大きくした半珠がランダムにくっついているのだが、初めて見る者によってはグロテスクな印象を受けてしまいそうな少し歪な形をしていた。


「はぁ~はぁ~フゥゥゥ・・・やっと食える」


短刀に刺さった魂煌珠を引き抜こうと私は血まみれの手を伸ばした。

「う゛う゛う゛ぅぅぅッ!う゛う゛う゛ぅぅぅッ!!」


全身が歓喜に震えている。喜びのあまり震えを止められない。

「あ゛ッ!!」

私が短刀から引き抜こうとすると魂煌珠が刺さったまま私の手から離れフワフワとユアルの手に飛んでいってしまった。
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