ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【54】2006年6月8日 1:23・八恩慈駅周辺・晴れ。いただきます(レン視点)。

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「ね、ねぇ・・・ユアル!ソレ、私のだよね?ねぇ!?」

「フフフ、そう慌てないでください。    デアクリート    」

ユアルが何か唱えると私の身体や服にベットリついていた血と道路にあった血だまりが全て跡形もなく消えてしまった。


「はい、これで綺麗になりましたよ?レン?」


「ありがとう、フゥゥゥ」

たしかに血の感触が気持ち悪かったので有り難かったが私は魂煌珠(こんこうじゅ)のことで頭がいっぱいで血なんてどうでも良かった。ユアルは私が子犬みたいに魂煌珠を見つめいてるのを分かっているはずだった。しかしユアルは分かっている上でわざとゆっくり短刀を引き抜く。

すると、短刀の形状が崩れて元の赤黒い光に戻り、しばらくするとどこかへ消えてしまった。


ユアルが魂煌珠をもったいぶりながら両手で持ち、私の前へ差し出す。


「さぁ、どうぞレン。このまま召し上がってくださいね?」


「え?な、何でそんな・・・んッ犬や猫みたいな食べ方しなきゃ、んぐッ!いけないの?フゥゥゥ」

口内が唾液で満たされ喋り辛いったらない。


「レンは先程あの中年に『代償を支払え』と言いました。覚えてますか?」

「う゛ッ、はい。そーです言いました。フゥゥゥ」


このやり取りでユアルの思惑を全て理解した。


「今日、自宅からココまで来れたのは誰のおかげですか?」

「ユアルのおかげ、んッ!です、フゥゥゥ」

たまにユアルはこうやってドSな一面を見せることがある。それも私と2人きりのときに限って。

「では、魔天の輪を開発してレンに提供したのは誰ですか?」

「提供っていうか私の意思と関係なく埋め込まれたんじゃ」

「誰ですかぁ~~?」

「んぐ!・・・ユアルです」


そもそも魔天の輪はアイナとユアルの共同開発らしく、こういうモノを総称して魔創具(まそうぐ)と呼ぶらしいが魔天の輪を私に埋め込んだのも魂煌珠(こんこうじゅ)の味を覚えさせたのもこのユアルだった。


どんな事をしてでも私が魂煌珠を欲していることを一番理解しているはずなのにユアルは平然とこういうことをやってのける。


例えは悪いかもしれないが、この関係性はまるで麻薬のために売春をする女子高生のようなスゴイ敗北感がある。にも関わらず従わざるを得ない・・・。


普段の学園生活では至って優秀な生徒で、申し分の無い容姿の持ち主は裏では人智を超えた能力の使い手でさらに度し難いドSな一面を持ち合わせていた。


「さらにさらに、レンや道路にベットリ残っていた血を完璧に浄化したのは誰ですかぁ?」

これ見よがしに魂煌珠を私の鼻まで近づけてくる。


「分かったよぅ、分かったからぁ。全部ユアルのおかげだから、感謝してるからぁッ!そのままで良いから食べさせてよぉ、フゥゥゥ」

「はい、よくできましたぁ。魂煌珠には触っちゃダメですよぉ?」

《このドSめッ!もうこの際なんでも良い!これ以上我慢できないッ!!》

私はユアルの腕を掴み固定すると一心不乱に魂煌珠にかぶりついた。


「あんッ♪レン!そんなにがっつかないでくださいッ!指にレンの舌が当たってくすぐったいですよぉ。フフフッフフフフフッ♪」


《まさにこの瞬間のために数カ月間も我慢したんだ。どうせ結界が張ってあるしユアル以外には見られてないんだから、なりふり構ってなんかいられないッ!!》

「アグアグングングングッ!!」


魂煌珠は臭みなどまったくなく瑞々しさと歯ごたえが何とも絶妙で私は永遠にこの時間が続いてほしいと思いながらひたすら喰らいついた。普通の食事では食べ物が喉を通り胃に向かうがこれはそうではない。どういう仕組なのか分からないが魔天の輪を装着している私は器官がないらしく、頬張れば頬張るほど体の隅々まで潤い活気づくような感覚に包まれる。


敢えて例えるのなら瑞々しい弾力のある梨を喉ではなく『全身』で味わっているような感じだろうか?


腹を満たすというよりは私という存在そのものを潤わせていると言った方が近いかもしれない。そしてどういうワケか『魂煌珠を食べないと死んでしまう』という原始的な生への渇望または死への恐怖にヒドく駆られてしまう。それは人間や動物の生まれたての赤ん坊が教えらなくても母乳が必要だと理解しているのと似ているような気がする。


いずれにせよ人間のままでは一生できない体験なのは間違いない。この味を全身で覚えてしまったため、昨日の学校ではユアルのせいで禁断症状っぽいモノに悩まされて大変だった。


疑う余地もなくアレもドSユアルの策略だと思う。




しかし、これだけ素晴らしい魂煌珠だが、残念なことに1つだけ欠点があった。それは魔天の輪を装着してないと絶対に食べられないことだ。


実際、魔天の輪を装着した状態で魂煌珠にかぶりついている顎の力は普段の何倍あるのか分からないほど強いと思う。これを未装着の状態でやれば確実に歯が折れるだろう。だが、その欠点を除いてしまえばこれはまさに宝そのものだった。



《たしかユアルの説明だと、私がこれを食べるとえっと何だっけ?・・・まぁイイや》


今は余計な思考を張り巡らせている場合ではない。


「あぐあぐあぐあぐ・・・んぐぐんぐんぐ、ぷはッ!!」


「フフフッ♪美味しいですか、レン?」


「うまうまうまムグムグムグ」

当たり前の話だが、私がかぶりつく度に魂煌珠が小さくなっていく。


《もうこんなに小さくなってるッ!何て理不尽で不公平なんだッ!!》



私は内心そう叫びながら、しかし声に出す時間を惜しみ次のひと口を繰り返した。客観的に見ると浅ましすぎる自分の姿にゾッとするだろう。しかし、考えてみてほしい。もし一般人が全然好みじゃない金持ちから数千万円貰う代わりにセックスを求められたとしたらどうだろう?


この不景気の時代において、いったいどれくらいの人が断るのか。

もちろん、何割かは断る人もいるだろう。だが、全ての人が断るわけではないと思う。私はまだ経験ないけど無一文の状態でお祖父様に家を追い出され困窮していたら処女だろうが何だろうが関係なく求めに応じると思う。


だって数千万貰えるんだから―。


私にとって魂煌珠は一般人における数千万以上の価値がある。理性や常識なんて所詮、この小さい島国の日本という狭い場所で大勢が生活するための工夫でしかない。大抵の人は、他人の目が届かない場所で大なり小なり欲望を爆発させていると思う。なぜなら私を含めて人間ほど欲望に忠実な生き物はいないからだ。


まぁ、今の私は元人間なのだが―。

大多数の人間が他人に言えない欲望を抱えていて、その中の何割かは欲望にひらすら従順で常識や理性なんてお構いなしな連中だと思っている。そんな他人に言えない、または叶わない欲望がいきなり目の前に現れでもしたら今必死に魂煌珠にむしゃぶりついている私のように理性や常識なんて跡形もなく消し去ってしまうだろう。




つまりは理性や常識なんてその程度のモノでしかない。私が冷静に脳内でこんなことを考えていても、ユアルの目には卑しい犬が必死に餌を食べている姿と同じモノが写っていると思う。私だってこうやって偉そうに分析していても自分の欲望に逆らうことができずユアルに浅ましい姿を晒し続けている。


どれだけ綺麗に取り繕っても欲望なんかに逆らえない。それは誰の他でもない、自分を満たすためにやっているんだ。


そもそも生きること自体、欲望の塊なんだから。


「あんッ♪レンッ!もう魂煌珠はなくなりましたよ?そんなに一生懸命私の手を舐めないでくださいッ!フフッ」


「あぁ、あぁ、あ・・・」

私は最後のひと口を終えてしまったらしく、指摘されてようやくユアルの手を舐めていることに気づいた。これじゃあ、ホントにただの犬だ。


「ユアル!無くなった!!フゥゥゥ!!」

「えぇ、残念ですが。もう無くなっちゃいましたね?美味しかったですか?」


「ユアル!!無くなった!!無くなったよ!!!」


《おかしいな?次が出てこない。本邸にいた頃は何だって際限なく貰えたのに・・・》



こういうときばかり本邸を思い出す自分が少しムカつく。私はユアルの手の平を返して、魂煌珠がまだどこかにあるのでないかと必死に探した。

何度も言うが第三者から見れば自分の行いがいかに愚かで稚拙なのかはよーく分かっている。しかし、そうせざるを得ない。そうせざるを得ないほど私の心は魂煌珠(こんこうじゅ)に蝕まれていた。
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