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【55】2006年6月8日 1:26・八恩慈駅周辺・晴れ。我に返って(レン視点)。
しおりを挟む「ユアル!もっと!もっとちょうだい!!フゥゥゥッ」
見兼ねたユアルが私の腕を掴んで抱き寄せると優しく頭を撫でた。
「レン。残念ですが、それはまた今度にしましょう。 アクディピス 」
背景が歪む―。
次に気づくと、そこは雑居ビルの屋上だった。
「今度っていつ?明日?明後日?」
私は居場所が変わったことなどまったく気にも留めず次の狩りはいつなのかしつこくユアルに尋ねていた。
「フフフ、そうですねー。レンが良い子にしていたらきっとすぐですよ?」
ユアルは私を抱きながら頭をひとしきり撫で終えるとソッと魔天の輪を解除した。
「う゛う゛ッ?ん゛ん゛!!」
今まで羽のように軽かった身体にとんでもない気だるさが襲ってくる。風邪を引いたときのような倦怠感、あれを何倍も酷くしたような感じだろうか。
「・・・あ、あれ?」
《気分が悪い。身体の節々が痛む》
「気分はいかがですか、レン?私を認識できますか?」
「う、うんユアルでしょ?私、元に戻ったの?」
「えぇ、結界もそろそろ効力が消えてしまいますから屋上に退避してきました。それから、ちょっと頭を冷やしてほしくて」
魔天の輪を強制解除された今少し冷静になって考えてみると、魔天の輪を装着中、理性とは程遠い言動ばかりだったように思う。まったく自分をコントロールできてなかったような気がする。
「ごめんユアル。ちょっとあの中年を殺(や)った後から興奮しすぎて思いのほか制御できてなかったみたい」
「良いんですよ、レン。そんなときためのフォロー役なんですから。気にしないでください」
「ありがと」
「今回は長時間の使用だったのでしばらく気だるさが残ると思いますが、いかがなさいます?帰りは私がレンを運んでいきましょうか?」
「長時間使用による影響ってこの倦怠感だけなの?それとも使い続けたらもっと深刻な悪影響があるとか?」
「いいえ、その倦怠感は単純に慣れの問題です。身体への影響は特にありません」
「じゃあ、帰りも装着して帰ろっかな。そっちの方が早く慣れるだろうし」
「あらあら、フフフ。ところで久々の狩りはいかがでした?」
「・・・最高だった。魂煌珠はとても美味しかったし、ココ最近のストレスも一気に吹っ飛んだかな。でも・・・」
「でも?」
「今日ユアルにフォローしてもらってはっきり分かったよ。思い上がってた。まだ当分、私1人で狩りは無理なんだなって。魂煌珠が絡むと頭が真っ白になってそれしか考えられなくなるみたい」
「レン・・・」
「あ、勘違いしないでね?悲観してるわけじゃなくて、今日の狩りで何となくだけど、魔天の輪への理解を深めることができたのは嬉しかったんだから。まぁでも、理解することと上手く使うことは必ずしもイコールではないし、魔天の輪の使い方を覚えただけではダメだということも改めて痛感したんだけど」
私はビルの屋上からまるで湯上り気分で街を眺めていた。反省をペラペラと喋ってはいたが、強めの気だるさも相まってちょっとした放心状態に近かった。ただ気持ち良かった。もう少しこの余韻に浸っていたかったのかもしれない。それは丁度、長時間水泳したあとの心地よい疲れに似ていた。
「昔と違って今は色んな所に監視カメラがあるから、結界張ったり血を消したりできないと色々と問題ありすぎてすぐに大騒ぎになっちゃう。今日の狩りまで数ヶ月も待たされたのは、てっきりユアルの性質の悪い焦らしプレイかと思ってたけどそうじゃなかったんだね・・・」
思えば過去2回ともユアルとアイナのフォローがあっての成功だった。もちろんそのことを忘れてなどいない。
《今日に限らず、もし魂煌珠欲しさに1人で突っ走っていたら、かなりの確率でニュースやワイドショーを総なめにしていたかも。イヤ、確実にそうなっていたと思う》
数ヶ月ぶりということもあり魂煌珠のことしか頭になかった私は、時間の経過と共に紙一重の状況だったことを理解し反省した。のだが、やはり心地良さが何よりも勝っているのは否めなかった。甘美な魂煌珠を口いっぱい頬張っているあの至福のひとときをどうしても忘れられない。
「レン、そう気落ちしないでください。たしかに私のフォローありきの狩りでしたが、それでも今日のレンは上出来だったと思います。それに狩りで課題が見つかったのなら、クリアできるように訓練すれば良いだけです。私たちはいくらでもフォローさせていただきますから」
「ありがと。頼りにしてる」
「えぇ、お任せください」
「課題かぁ。ん~、今回分かったのは私にはまだこういう人が密集する場所は早かったことかなぁ。今度はもっと人が少ない所にするよ」
「そうですね。それが分かっただけでも今日の狩りは十分成果があったと思いますよ。では、レン。帰りましょうか?」
「うん」
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