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【56】2006年6月8日 1:35・山中・晴れ。自由(レン視点)。
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自宅への帰り道、山中を私とユアルは突き進んでいた。
魔天の輪を装着した状態の全速力でもユアルには追いつけない。走っても走ってもユアルに距離をとられてしまう。
当たり前だ、私なんかが敵うわけないんだから―。
去年、私はユアルとアイナに出会った。彼女たちとの出会いは私の人生を劇的に好転させたがその代償として私は人に似て非なる存在になってしまった。
最初は人間じゃなくなったことに戸惑いもあったがしばらくして学園生活も日常生活も問題なく送れることに気づいてからは、割と色んなことに順応できるようになった。
何より今は2人に出会ったおかげで大好きな魂煌珠(こんこうじゅ)を食べられるのだから感謝さえしている。魂煌珠を食べれることが今はどんなことよりも至上の喜びとして君臨する日々の中において、魂煌珠ほどではないが人間をやめて良かったと断言をできることが1つだけあった。
そう・・・私は人間をやめると同時に生理から解放されてしまったのだ。
男は毎日こんな楽な生活を送っているのかとついつい恨んでしまうくらい明日に対する煩わしさが消えてしまった。人間としての生活は以前からの悩みに加えて同居生活における悩みの種もいくつか芽吹きそうで正直ヒヤヒヤしている。ただ、そんな悩みの数々が塵に思えてしまうくらい今の私は2人と同居できなくなることを酷く恐れている。
私はお金持ちの孫娘だけど、べつに私がお金や不動産をたくさん持っているわけではない。お祖父様の遺産を全て受け取れる保証だってどこにもない。そもそも父がまだ生きているわけだし。お祖父様には感謝はしているけど実際問題、私はただお金持ちのお祖父様に生活を握られ管理されているだけに過ぎない。
あまりにも裕福過ぎる家で育った常識は、世間一般からすれば非常識な部分が多すぎて今住んでいる家のお風呂にすら不満をも持つ私がアパート暮らしなんてできるはずもない。だから私は物心ついたその日からお祖父様に嫌われないように、厳しい習いごとやあのクソみたい学園生活を必死に我慢してきた。
何不自由なく生活していると勝手な誤解をもたれ疎まれ、あらゆる理不尽な目に合わされても頑張って耐えてきた。でもそれはユアルたちに出会う前の話。
私は出会ってしまった。ユアルとアイナに。
そして、知ってしまった。人智を超えたモノの存在やその喜びを。
ネガティブ思考だった私が明日に希望を抱いているのだから人生って不思議だ。去年の私からすればまったく考えられない奇跡だ。今の私なら例えお祖父様に嫌われて、西冥と縁を切られようとも、あるいはあのクソッタレな学園を卒業した後のメス牛品評会みたいなヘドの出るコミュニティからの誘いを全て蹴ろうとも怖いモノなんて何もない。
自由を得たんだ。ずっと欲しかった自由。自分で生きていく道を選択できる自由。
これを知ってしまったら、もうあの生活になんて戻れない。
《あぁ、早く魂煌珠が食べたい。次はいつ頃だろう。3ヶ月後くらいだろうか。イヤ、2ヶ月後くらいにしてもらえるように今度ユアルに頼んでみようか。しかし、ユアルのことだ、どんな変態な要求をされるか分かったモンじゃない・・・》
目の前を走るユアルが私がついてきているか確認するためにこちらを振り返った。目があったユアルは意味ありげに微笑んでいる。
《イヤ、でも。言うだけ言ってみて、変態の要求も聞くだけ聞いてみよう。もしかしたら、大した要求じゃないかもしれないし》
今、何だかとてつもなく残念な思考が生まれたような気がした・・・。
山中を物凄いスピードで駆けるユアルの後ろにつきながら、私は舌なめずりをしては魂煌珠の味が残ってないか確認していた。
私は西冥レン。
お祖父様と不自由な人生から解放され制限つきとは言え自由を手に入れた、魂煌珠と明日を渇望する、人に似て非なる存在。
そして今はただただ幸せを享受する者。
ハラヘリヴィーナス 第一章 私の日常/非日常 END
魔天の輪を装着した状態の全速力でもユアルには追いつけない。走っても走ってもユアルに距離をとられてしまう。
当たり前だ、私なんかが敵うわけないんだから―。
去年、私はユアルとアイナに出会った。彼女たちとの出会いは私の人生を劇的に好転させたがその代償として私は人に似て非なる存在になってしまった。
最初は人間じゃなくなったことに戸惑いもあったがしばらくして学園生活も日常生活も問題なく送れることに気づいてからは、割と色んなことに順応できるようになった。
何より今は2人に出会ったおかげで大好きな魂煌珠(こんこうじゅ)を食べられるのだから感謝さえしている。魂煌珠を食べれることが今はどんなことよりも至上の喜びとして君臨する日々の中において、魂煌珠ほどではないが人間をやめて良かったと断言をできることが1つだけあった。
そう・・・私は人間をやめると同時に生理から解放されてしまったのだ。
男は毎日こんな楽な生活を送っているのかとついつい恨んでしまうくらい明日に対する煩わしさが消えてしまった。人間としての生活は以前からの悩みに加えて同居生活における悩みの種もいくつか芽吹きそうで正直ヒヤヒヤしている。ただ、そんな悩みの数々が塵に思えてしまうくらい今の私は2人と同居できなくなることを酷く恐れている。
私はお金持ちの孫娘だけど、べつに私がお金や不動産をたくさん持っているわけではない。お祖父様の遺産を全て受け取れる保証だってどこにもない。そもそも父がまだ生きているわけだし。お祖父様には感謝はしているけど実際問題、私はただお金持ちのお祖父様に生活を握られ管理されているだけに過ぎない。
あまりにも裕福過ぎる家で育った常識は、世間一般からすれば非常識な部分が多すぎて今住んでいる家のお風呂にすら不満をも持つ私がアパート暮らしなんてできるはずもない。だから私は物心ついたその日からお祖父様に嫌われないように、厳しい習いごとやあのクソみたい学園生活を必死に我慢してきた。
何不自由なく生活していると勝手な誤解をもたれ疎まれ、あらゆる理不尽な目に合わされても頑張って耐えてきた。でもそれはユアルたちに出会う前の話。
私は出会ってしまった。ユアルとアイナに。
そして、知ってしまった。人智を超えたモノの存在やその喜びを。
ネガティブ思考だった私が明日に希望を抱いているのだから人生って不思議だ。去年の私からすればまったく考えられない奇跡だ。今の私なら例えお祖父様に嫌われて、西冥と縁を切られようとも、あるいはあのクソッタレな学園を卒業した後のメス牛品評会みたいなヘドの出るコミュニティからの誘いを全て蹴ろうとも怖いモノなんて何もない。
自由を得たんだ。ずっと欲しかった自由。自分で生きていく道を選択できる自由。
これを知ってしまったら、もうあの生活になんて戻れない。
《あぁ、早く魂煌珠が食べたい。次はいつ頃だろう。3ヶ月後くらいだろうか。イヤ、2ヶ月後くらいにしてもらえるように今度ユアルに頼んでみようか。しかし、ユアルのことだ、どんな変態な要求をされるか分かったモンじゃない・・・》
目の前を走るユアルが私がついてきているか確認するためにこちらを振り返った。目があったユアルは意味ありげに微笑んでいる。
《イヤ、でも。言うだけ言ってみて、変態の要求も聞くだけ聞いてみよう。もしかしたら、大した要求じゃないかもしれないし》
今、何だかとてつもなく残念な思考が生まれたような気がした・・・。
山中を物凄いスピードで駆けるユアルの後ろにつきながら、私は舌なめずりをしては魂煌珠の味が残ってないか確認していた。
私は西冥レン。
お祖父様と不自由な人生から解放され制限つきとは言え自由を手に入れた、魂煌珠と明日を渇望する、人に似て非なる存在。
そして今はただただ幸せを享受する者。
ハラヘリヴィーナス 第一章 私の日常/非日常 END
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