俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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無限エスカレーター

第百四十七話 悪質なキャッチ

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 俺は一人喧噪の街を歩いている。
 仕事じゃ無い、完全にオフ。仕事関係のメールも電話も完全遮断、絶対に仕事をしないという固い決意表明でも何でも無く、先の事件で右手首を負傷したことによる労災休業。右手首程度で休むとは根性が無いと陰口を言う奴もいるかも知れないが、銃も握れない状態で現場に出るほどこの仕事を舐めてない。上司も説得納得の上、事務仕事だけでもと縋り付く上司をペンが握れないと振り払って右手が治るまでは退魔官は完全休業、学業に専念することにした。その学業も午前中で終了、折角空いた時間を無駄にしないため午後は時雨とのデートに備えることにした。
 今からネットで調べた今若い女性が行ってみたいデートスポットトップテンの内三つほど回る予定だ。入念な事前調査と緻密な計画こそが俺の真骨頂、行き当たりばったりの臨機応変では時雨をおもてなしするなんて出来ない。
 まずはランキングに急浮上してきた「天空のエスカレーター」、待ち時間とか風景がいいかのチェックは当然として、天空のエスカレーターに乗った後にビル内で取るランチに備えレストランも入念に調査をする予定だ。幸いここ数件の事件解決の報酬で懐は温かい、命を危険に晒して得た代価だ有意義に投資させて貰う。
「さてと」
 気が乗らないがあの長い行列に並ぶとするか。
 向けた視線の先には天空のエスカレーターに乗るための長い列、最後尾には待ち時間30分とか何とか目眩がするようなプラカードが立てられている。早くもスルーしたくなってくるが待ち時間もデートの大ゴミじゃない醍醐味とどっかのハウツー本にも書いてもあった。
 読書でもしていれば無駄な待ち時間などないと列に向かって歩き出したときだった。
「ちゃお」
 俺の正面に割り込んできたギャルが俺に向かった手を上げ馴れ馴れしく挨拶してきた。
 健康的に焼けた肌は高級チョコレートのような肌理滑らかさと色でうまそうだ。髪はふわっとカールを掛けたロングで一房二房とピンクに染めたラインが入っている。
 八重歯がチャームポイントとでも言いたそうな子猫のように生意気な顔付きと控えめな体付き。
 誰だ此奴?
 ふっ俺もこの頃の事件で世間的には美少女で通る連中と会話とかしていたもんだから少々思い上がっているようだな。本来の俺は道ばたで初めて出会った女が気軽に話し掛けてくるような奴じゃ無い。俺の後ろにいる奴に挨拶したのだろう。
 俺はギャルを避けて通り抜けようとするがさっと前をギャルが塞ぐ。
「無視は酷いんじゃ無い?」
 猫のようにくるくる色が変わる目で俺を睨み付けてくるが、やはり知らん。
「誰だお前?」
 ただでさえ少ない知り合いの顔を忘れるほど耄碌したつもりは無いが、記憶に全くないのだから仕方が無い。時間の無駄だ尋ねた。
「ちょっひど。アッシーのこと覚えてないの」
「全く」
「それってちょー傷付くんですけど~」
 唇を尖らして抗議してくる。
「悪かった。お詫びに二度と君の前に会わないようにしよう」
 素直に詫びてギャルの横を通り過ぎた俺の腕を掴まれた。
「俺は忙しいんだが、キャッチーなら別の奴にしてくれ」
 俺に自ら絡んでくる女など不動産とかダイヤとか絵画とか売りつけてくる悪意とセットの連中ばかり、そんなのに鼻の下を伸ばす純朴な俺はもういない。
「水族館で背中を預けた仲間に対して冷たくね」
 水族館で背中を預けた?
 もしかしてあの時のその他大勢のモブか。そういえばピンクのギャルを助けたような記憶がうっすらとある。
「髪がピンクじゃ無いぞ、いや多少名残はあるか」
「アッシーのこと髪の色でしか覚えてないのか。
 ちょーむかつくんですけど。
 ちょー傷付いたんですけど。
 ちょー謝罪プリーズ」
 そう言われてもあの時は時雨の美しさから目が離せない状況だったしな。二度と会わないと連中のことを覚えるほど脳のメモリーを無駄にする浪費家じゃない。
「悪かった。お詫び二度と君の前には表れない」
 そして今度こそ綺麗さっぱり忘れて脳のメモリーの整理整頓だ。
「それさっきの繰り返し」
「ふう~何だ。助けられたお礼が言いたいのか?
 なら聞いてやろう、存分に言うがいい」
 有耶無耶の内に別れたからな礼も言われてない。そんなことを気にするような女に見えないが気にするようなら仕方が無い。別に害は無いというかこうして無駄な時間が浪費されるほうが害がある。さっさと言わせてすっかり別れよう。
「ちょー偉そう。そんなことよりお願いがあるんだけど」
 会話の前後が全然繫がってないように感じるのは俺だけだろうか?
「なんだ、聞くだけ聞いてやろう」
 聞く義理はないが時間の浪費もしたくない。
 悪質なキャッチに捕まったと思って対応しよう。
「彼女紹介して」
「彼女?」
「あの綺麗に踊っていた娘、彼女じゃ無いの?」
「彼女だよ。彼女に何の用だ?」
「ここじゃなんだし。あそこのカフェに入らない」
「いいだろう」
「よし」
 名前も知らないギャルがカフェの方に向くと同時に俺は反対方向に向いて走り出した。
「ちょっ」
 背後からギャルの声が聞こえたような気がするか知るか。ここは日課のトレーニングだと思って全力疾走ギャルを振り切ってやる。
 悪質なキャッチへの対応とは逃げるに限る。
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