俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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無限エスカレーター

第百五十三話 脱衣マラソン

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 俺は銃を両手で支えたままに外を見る。
 ここはユガミによる認識の狭間、どんな風景が広がっているのか? 少し観光気分で風防から見下ろす風景は?
 普通だった。虫螻のようだった人など掻き消え、無秩序に広がっているようで何かの法則が潜んでいそうな迷路のような街並み。異世界の風景でも広がっているかと思えば、ただ普通に街並みを上空から見た光景が広がっている。
 そうか、この風防を割って外に飛び出せば500メートルの落下で済むのかと、視線を元に戻して見下ろすエスカレーターの先はとてもそうは見えない。外の風景が正しいのならこのエスカレーターは地の底に続いてることになる。
 外からと中から見る先のギャップを生み出す空間的騙し絵、どこかでインチキをして俺達を欺いている。
 ならば己の感覚を捨て、ここは高度計、数値を信じるか。たかが500メートルなら駆け下りられる。
「よし、駆け下りるぞ」
「ムッツリかと思えば、いきなり命令ですか~」
 水波は俺の命令口調に反発するように口を尖らせぶーぶー言う。此奴に代案があるわけでもなく命令されたのが気に入らないんだろうな。
「このまま上に連れて行かれたら、碌な事にならない。なら動ける内に動く」
 尤もこれが早期決断になるか短慮の決断なのかは、結果が出るまで分からない。
「でも、これを降りるの?」
 水波は下を見て不安そうに言う。その不安は理解できる、確かに見た感じではとても下に辿り着けそうにない。
「別に強要はしない。上に行きたければ行くがいい」
 此奴がどんなに不安だろうが納得させる義務が無いというか必要が無く、どちらかというとここに留まって貰った方が俺にとっては何かと都合が良い。
 一応誘ったというポーズさえ取れれば後はどうでもいい。
 自分の命が懸かっているんだ己の判断によって行動してくれ、それが自由さ。
「ちょっちょちょ、みんな仲良くもう少し話し合う的な~」
「お前、そういう無個性がいやでギャルやってんじゃないのか?」
 ちょっと突っ張る自分が格好いい、そういう年頃もあるだろうと理解はある。なら目上の者に逆らい是非我が道を行って欲しい。案外上の方が正しいかも知れないしな。
「これファッション的な~、置いていかないで~」
 水波は背を向けようとした俺の足に縋り付いてくる。
「ちっ」
「今舌打ちした的な~」
「気のせいだ。それより俺に見捨てられたくないのなら上を脱げっ」
「ええっ助けて欲しければ抱かせろ的な? いいけど、でもここじゃちょっと」
 水波はもじもじとしつつも、俺の方を期待するようにちらちら見る。
「急に積極的、サド的じゃないと興奮しない人とか」
 此奴と話しているとどうにもめんどくさい。
 俺は水波の真正面に立つ。
「あん、強引」
 満更でもない顔の水波のカーデガンに手の留め具を優しく外す。カーデガンは衣擦れの音と共に水波の足下に落ちる。
「あん、意外と優しい」
 落ちたカーデガンを拾いベルトに掛ける。
「良し走るぞっ」
「えっえっ続きは?」
「だから走るんだよ」
 本当は生きてユガミを認識する人間の方が座標としてベストなのだが、付いてくると言うならしょうがない。退魔官として積極的に助けはしないが、警官として付いてくるという者を突き放すわけにもいかないのが苦しいところ。
 このカーデガンは目印。俺達が何処まで下がったのか、この目印の無い世界における座標となる。なんでわざわざ此奴の服を脱がしたかといえば、俺の装備一式はどれも俺が厳選した大事なもの、むやみに捨てられる物じゃない。代わりがあるなら代わりを使うまでのこと。
 そしてこのカーデガンは俺の一つの仮説を確かめる実験材料でもある。
「いいか、決して焦るな。エスカレータの登る速度より早ければいい、こんな所で転んだらしゃれにならないからな」
 怪我した此奴を背負う俺なんて想像も出来ない。
 見捨てるのも後味悪い。
 怪我なく付いてきて貰うしかない。
「わかったじゃん。こう見えてアッシー長期戦得意よ、遅漏もオッケー」
「そりゃ良かったな」
 俺はそれ以上は会話せず走り出した。
 安全第一、ペースを守って走る。
 急がないがサボらない、機械のように正確にペースを守って走る。
 そして二十分後、500メートルならとっくに降り切れている時間、だが見下げる先にゴールは見えない。
 確認するのが怖いが時計で高度を確認すれば高度450メートル、ほとんど変わっていない。
 振り返れば水波のカーデガンは見えなくなっている。この事実からは50メートルどころでない距離を降りてないと可笑しいはず。
「ふう、はう。もう息切れ、そんなんじゃ女の子満足させられないぞ」
 水波が笑ってウィンクしてくる、うぜえ~。
「セーターも脱げ」
「へっ怒った的な」
「俺は冷静だ早くしろ。嫌なら見捨てる」
「分かった分かったじゃん。横暴的な」
 水波はセーターを脱ぐと小麦色に染まる上半身と胸を隠す黒のブラジャーを晒す。
「もう女の子を徐々に脱がしてどうするつもり?」
「いいから、ベルトに掛けろ」
「ノリ悪いじゃん」
 水波がベルトにセーターを掛けるのを確認するとまた走り出す。
 安全第一、ペースを守って走る。
 急がないがサボらない、恐怖に呑まれない。
 機械のように正確にペースを守って走る。
 そして更に二十分後、時計を見る前に振り返ってセーターを確認すれば見えなくなっている。100メートル以上は降りてないと可笑しいことを認識して時計で高度を確認すれば高度470メートルほとんど変わっていないどころか上がってるじゃねえか。
「怖い顔どったの?
 今度はブラジャーも脱ぐ」
「そうだな」
 そうしてやろうかと思ったが、ブラジャーまで脱いだらそのでかい胸が揺れて走りにくいだろうと思い直して言う。
「下を脱げ」
「ぎょっぎょ、いよいよ的な」
「そうだ、さっさと脱いでベルトに掛けろ」
 水波がGパンを脱いで黒のパンティーを晒すが、もともとGパンが際どかったこともあり肌を晒す表面積的には大して変わらない。
 そして走り出す。
 安全第一、ペースを守って走る。
 急がないがサボらない、恐怖に呑まれない。
 もはや下に辿り着けるとは思っていないが、活路を見出すまで俺の仮説を証明するまで走る。
 それにはどのくらい走ればいいか分からないが、走るしかない。
 更に二十分、加えて二十分、かれこれ1時間以上走っている。そろそろ俺の体力の残りも拙い。出来れば仮説を証明したかったが、これ以上体力を消費すればその後の行動に支障が出る。
 にしても、振り返れば水波は全身にうっすらと汗を浮き出させているが走って付いてきて、息もまだ整っている。へばったら置いていくくらいのつもりだったが、振り切れなかった。本当に男の相手をするためか知らないが、相当鍛えているのは確かだな。
「まだまだいけるっしょ」
 親指を立てて余裕の表情で言う。
 本気で此奴の方が俺より体力あるんじゃないか? ちょっとだけそんな脳天気さに心が解される。
 仮説を証明できなかったが、ここで決断をするしかないかと前を見る俺の目の先にベルトに掛けられた白いカーデガンが見えた。
 ふふっ証明は終わった。
 勝てるこれなら勝てる可能性がある。
 ならここからは実行あるのみ。
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