俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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雨は女の涙

第百六十五話 裁くのは雨なり

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 空は曇天
 日は沈み月は隠れ人工の光のみが街を照らす。
 地上に煌めく星空を再現するネオンの渦 
 輝き溢れ闇が一掃される
 人は闇を恐れることは無くなった
 だがそれで人の何が変わるのだろう?
 外に闇がなければ内に闇を抱えるが人
 街を照らす光の一つ
 ホテルから漏れる光の中を覗いてみれば
 ベットの上服を剥ぎ取られた少女が泣いていた。

 泣いている少女を数人の男達が取り囲んで助けるでも慰めるでもなく、ニタニタ笑っている。
「は~い、お疲れさん。撤収撤収~」
 20代前半くらいの男達は掛け声にデトックで毒を吐き出しきったかの如くスッキリとした顔で動き出す。
「ふう、シャワー浴びてこよ」
「急げよ」
 シャワーにいく者、既に着替え終わって片付けを始める者などなど。
 ハンディカメラで画像をチャックしていた眼鏡の男が180は超える巨漢の男に話し掛ける。
「合谷さん、いや~いい絵が取れましたね。これならいい値になりますよ」
「たりめえよ、辺秀。
 おいっ柄作、破いた服の破片を残すなよ。ちゃんとベットの下とか見ておけよ」
 合谷が伸ばした太い腕には炎のような入れ墨が施されている。
「わかってるって」
 ゴミ袋を持って掃除をしていた軽そうなイケメン男が答える。
「でっそっちはどうだ、朝瑠?」
「この女の住所とか本名とかバッチリです。いつでもお宅訪問ゴーです」
 鼠のようにはすっこそうな男が答える。
「よし」
 女物のバックを漁っていた朝瑠の答えに満足そうに合谷は頷く。合谷はベットの上で放心している少女に話し掛けようと近付く。
「どう気持ちよかった~。あっそうそうこれ破いちゃった服の代わりね。君も裸で帰るわけにいかないでしょ」
 合谷は用意しておいた量販店で売っているような安いTシャツとズボンを少女の横に放り投げる。
「俺って優しいな~。これで俺が極悪人だったら、君をこのまま裏ルートに売り捌いちゃっているところだよ。ちゃんと帰してあげる俺って優しい~。
 なあ、優しいよな」
 反応のない少女に業を煮やしたのか髪を掴んで海老反りに頭を持ち上げる。すると少女の肌に塗り込まれ乾いて張り付いていた排出物が、ぱりぱりと脱皮するかの如く剥がれ出して独特の臭いを放つ。
「うほっすげえ臭い。えんがちょ」
 合谷は顔を顰めると汚れたくないとばかりに少女に触れないように気を付けながら間近に顔を寄せて少女の放心している目を覗き込む。
「なあ優しいよな。返事は?」
 のぞき込み臓腑を剔るように睨み付ける。
「はっはい」
 泣き腫らし放心していた少女は痛みと恐怖で正気に戻り怯えきった顔で答える。
「そうそう。だから警察なんかに駆け込んだりしちゃだめだよ。そんなことされたら優しい俺もゲキオコだから。
 オコだよオコ。お家もう分かっているんだから、君だけじゃなく君の家族がどうなっても知らないから」
 徐々に反りをきつくしつつ合谷は少女を脅す。
「はっはい」
 自分はただ街を歩いていただけ。この男達は言葉を交わした事も無い、今日初めて出会った。なのにここまでされた。これで恨みを買ったりしたら、もう本当に何をされるか分からない。少女は頷くしかなかった。
 弱り切った心に恐怖で烙印の如く命令が刻み込まれむ、一種の洗脳である。
「よし、いい子だ。ここの部屋代は払っておいてあげるから、ゆっくり休んでから帰りなさい。返事は?」
「はい」
「よし、いい子だ。
 お前等片付けは終わったか?」
「だいじょうぶっす」
「じゃあ、帰るぞ」
 一人一人と部屋を出て行く男達に振り返って少女を気にする者はいなかった。

 雲は益々厚く黒くなり一雨来そうである。
 男達は道歩く少女を拉致るのに使ったワゴン車に機材を注ぎ込むと、そのまま乗り込み帰路に付く。
 それぞれが余韻に浸る男達を乗せて走るワゴン車を運転する辺秀の運転は模範的な安全運転、絶対にやっかいごとを起こすまいとした細心の注意が行き届いている。
「あっ俺ここでいいや」
 合谷に匹敵して180はある引き締まった体格の青年が大通りから小道に入ろうとした運転手に告げる。
「林野さん、えっもう少し先っすよ」
「ちょいと夜風に当たりたくてな。
 今日は久々に当たりだった、あの顔を思い出すと体が猛ってきてな」
 リンのは自分の禿頭を叩きながら言う。
「おいおい、絶倫だな」
 合谷が呆れ気味に感心して言う。
「だから少しクールダウンしたいのさ」
 林野は車から降りていく。
「明日の編集作業には遅れるなよ」
「分かってるよ。じゃあな」
「「「おつかれした」」」

 夜風に吹かれ林野は道を歩く。
 街灯がぽつんぽつんとあるだけの寂しい道、街灯と街灯の間には闇がある。だがその静けさと闇が林野の猛りを沈めてくれる。
 少女の幸せを潰されて驚愕から泣き顔そして全てを諦めた放心へ季節のように移り変わっていく顔を思い出し悦に浸っている林野の顔に雨粒が当たった。
「ん? 降り出してきたのか」
 上を向いた林野が少し足を早めようと前に向き直したら、ぽつんと街灯のスポットライトの下、「少女」が居た。
 栗色の髪のセミロングで、ワンポイントのおしゃれに左側に小さなサイドアップをしている。白銀のスカート付きのレオタードのような服を着て、肋が透けて見えるような肉の薄い体付き。少女、成熟してしまった女性では出せない青い果実の魅惑を放っている。
 ゴクンッと生唾を飲む、林野は実った女よりこういう華奢な方が好みだった。この場でお持ち帰りしたくなる。だが流石にこの場では拙いと抑える。毒を吐き出した後でもありクールダウンもしている林野は惜しいと思いつつも少女を見逃すことにした。
 ここで一時の劣情に負けて、この先にまだまだある女を潰していく機会を失いたくないという大欲が小欲を抑えた。
「邪魔だどけ」
 忸怩たる苛立ちを少しでも晴らすべく、林野は少女を怒鳴りつけた。
 少女は驚いたのか一歩下がるが、踏み止まり。
「天にあっては雲」
 さっと指先まで神経を研ぎ澄ませ伸ばした右掌が天に仰ぎ。
「地に墜ちては水」
 くるっと体ごと返して左掌が地を掴む。
「天の地の狭間の一時だけに雨はある」
 天を仰いで地を掴み、そのまま体を倒しつつ足を天と地の狭間にまっすぐ水平に浮かべると、駒のように軸ぶれなく旋回する。
「はあ?」
 少女が突然美しい声で詩を謳いモダンバレエのように全身で踊って表現する。
 見るものが見ればトップダンサーに匹敵する技の切れ、だが林野に取ってみれば訳が分からない。
 でも本能が美しいと感じて見てしまう魅入ってしまう。
「善になっては天使と成り」
 両手を広げて翼を羽ばたかせ天に飛び。
「悪に落ちては鬼となる」
 獲物を狙う虎の如く地に伏せ、他人の足を狙う手を伸ばす。
「善と悪の狭間で揺れるが人」
 ぽんっと地から足を放し、それでいて天まで届かない。狭間の空間に浮かんで伸身後方一回転で着地する。
「ならば人は雨に裁かれる」
 ばっと天に両手に上げ、ざっと手を下ろす。
 雨乞いの儀式か少女のたぐいまれ成る表現に天が感銘したか雨が激しく降り出してきた。
「てめえが訳の分からねえ踊りで邪魔するから濡れちまったじゃねえか。どうしてくれるんだ? ああっ」
 怒鳴りつけつつ林野は冷静に計算する。
 この雨で視界は更に悪くなり、悲鳴も掻き消してくれる。元々人通りの少ない道、ここで少女を攫う危険度は更に下がった。これならばれない。ばれないならば何を我慢する必要がある? 単独でのこういった行動は厳禁されているが、ゆとりじぇねえんだ、いつもいつもみんな仲良くは平等は反吐が出る。
 たまには一人でじっくり楽しみたい。
「私はどうもしない、裁くのは雨」
「ポエムごっこの続きは俺の部屋で聞いてやるよ」
 林野は数多くの女を攫ってきた容赦のなさを見せた。引き締まった体はストライカーの体。全身バネの如し。
 いきなり跳び蹴りを放ったのだ。相手は50キロもなさそうな可憐な少女、こんなの喰らえば吹っ飛んで大怪我をするかも知れない。それでも林野に加減するという思考はない怪我したらしたで痛がる顔を楽しめると躊躇いなく放つ。
「乱暴な人」
 少女は不意打ちに戸惑うことなく軽いステップで躱す。林野にしてもこんな攻撃躱されても驚きはしない、少々はしっこい女なら躱される。大事なのは一気に間合いを詰めること。ここまで接近すればもう逃がさない。全力で逃げても自分の方が足が速いことを知っている。
「ふんっ、ふんっふん」
 ジャブ、ジャブ、ストレート。磨き上げ実戦慣れした容赦ない連続パンチが少女を襲うが、少女はくるくるっくるーんとオルゴールドールのように回ってパンチを躱してしまう。
 そして気付いているか雨に打たれて髪から色素が抜けていく。
「くそったれが」
 頭かち割るハイキックには軟体動物なのかぐにゃと背を折り曲げて躱すと、そのままひっくり返って大きく後ろに間合いを取る。
「にがさねえよ。
 ん!?」
 己の体が重い。
 少女が後ろに飛んだ以上に前に飛べる自信があった。道行く少女を襲って攫う為、むかつくカップルの彼氏を叩きのめして女を奪う為、日々のトレーニングは欠かさない。下手なボクサーより動ける自信がある。なのに思った半分も飛ばない。
 雨に濡れ服が重くなった程度でこんなに体が重くなるか?
 林野が己の体を見れば、己に降り注いだ雨は地面に一滴たりとも落ちてなかった。
 服に染み込み、染みこみきれず溢れた雨はしがみつく女の手となり絡みつく髪となって自分にのし掛かってくる。
「うっうっわああああああああああああああああああああああああ」
「貴方の大好きな女よ。熱烈に抱きつかれて嬉しいかしら」
 少女は可愛く小首を傾けて笑う。
「離れてろっれろよ」
 林野が必死に髪や腕を引き剥がそうとするが、水の手や髪は掴んだ先から砕けてしまい掴めない。鍛えた力が役に立たない。砕けた先から手も髪の伸びて更に絡んでくる。
 雨はドンドン降ってきて、どんどん林野に降り注ぐ。
 ぬーーーと、雨が降り積もって己の胸から女の顔が3Dプリンターで作られるように積み上がってくる。
 泣き腫らし怨嗟に染まった目で林野を睨み付ける。
「ひいいいいいいいい」
 林野は咄嗟に女の顔をパンチで砕くが、砕いても直ぐさま雨は降り積もり。
 次々と怨念に歪む女の顔が体中から積み上がってくる。
「うごっ」
 降り注がれる雨の重さに林野は支えきれなくなり、ついに膝を付いた。
「貴方に泣かされた涙の量だけ雨となって降り注ぐ。
 罪の重さは涙の重さで知りなさい」
 少女は右手で天の雨を掬って林野に振り掛け
 翻って
 少女は左手で女の涙を掬って林野に浴びせる。
「なにを、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
 林野が少女の断罪する声に顔を上げてみれば、少女の髪は雨に打たれ色素が抜けて銀髪になっていた。
 その色に罪を刈り取る大鎌の刃を連想する。
 涔涔と降り注ぐ
 雨と涙と罪
 しんしんと積もっていく
 振り払っても振り払っても女の手が伸びて縋り付き髪が伸びて巻き付いてくる。
 雨に体温を奪われ、体は鈍っていき。
 砕いても砕いても体に女の顔が積み上がり怨嗟の瞳で呪って、呪いの如く体の穴という穴、毛穴からすら雨が染みこんでいく。
「重い苦しいきもちわるい、たったすけてくれ」
 少女に伸ばした手の指はソーセージのように膨らんでいる。
 染みこんだ雨で内臓から膨らんでいき、食い過ぎのように腹が割けそうに苦しく。もはや増加した自重でナメクジのように地面を這うことしか出来なくなっている。
「私は何もしない。
 裁くは雨」
 そう告げ少女は何もしない。
 ただ罪の結果を見届けるだけ。
 まだ数分しか経っていないというのに、その体は長時間風呂に入っていたようにぶよぶよに白く皮膚はふやけ、だぶだぶに体は膨らんでいく。
 ゴキッ
 自らの重さでとうとう骨が砕け初め内臓が一気に潰れていく。
 その末路は深海に沈められた水死体。
 少女は末路を見届け去って行く。
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