俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

文字の大きさ
170 / 328
雨は女の涙

第百六十九話 正義はその身を蝕む毒

しおりを挟む
 声の方を見れば見れば、少女が三つ編みを旗の如く靡かせてこちらに走り寄ってくる。
 冬服のセーラー服に今時黒縁眼鏡を掛けた一切染めていない烏の濡れ羽色の髪、素材はいいのにどこか野暮ったい少女。そんな文学少女のような見かけのくせに意外と好戦的、悲鳴を上げるか警察でも呼べばいいのに真っ先に自ら自分で変質者だと断定した俺に挑んでくる。更には運動神経がいいのか走りに馬のような躍動がある。
 このままこの少女に抱きついたままでは、蹴っ飛ばされる。かといって離してしまえば千載一遇のチャンスで捕まえた魔人の少女を逃がしてしまう。このまま行けば、林野殺害事件は早期解決するというのに、そうか終わってしまうのか。それはそれで拙いな。かといって逃がしてしまえば、次はない。今回は少女の経験不足で何とか勝負になったが、経験を積まれ次は同じ土俵に上れるかする怪しくなる。ワンサイドゲームで俺が始末される可能性が高い。
 どうする?
 葛藤は一瞬だがその一瞬で三つ編み少女は間合いを詰めつつ容赦なく振り上げた足で俺をサッカーボールのように蹴り飛ばそうとしてくる。
 唸りを上げて迫る靴の爪先。何処まで好戦的なんだよ、殺意ありまくりじゃないか。
 バシッと鈍い音が唸った。
「あなた、大丈夫」
 三つ編み少女は容赦なく蹴り抜くと、解放された魔人少女の手を握って立ち上がらせる。
「後ろに隠れて」
 三つ編み少女は魔人少女を自分の背に庇う。ほんとそこらの男より勇ましい。
「ありがとう」
 魔人少女は三つ編み少女の耳元で囁く。
「へへん、私が来たからにはもう安心よ。こんな女の敵、とっととけいさ・・・。
 あれは何?」
 得意気に胸を張る三つ編み少女の視界に何かが映る。
 それはまさしく何か。初見では何がなんだが分からない。ぶよぶよに白く爛れて潰れている肉塊。例えるなら雨の日にタイヤに轢かれてふやけた蛙のような。
「えっへっあれは何。もしかして・・・。
 ちょっと、あれは何なの?」
 三つ編み少女が振り返れば、その背に庇ったはずの魔人少女はもういない。
「ちょっと、何処に行ったの?
 これは一体何なの?
 誰か説明してよ」
 慌てふためく少女の細い手首に鋼鉄の輪がガチャリと嵌まる。
「へっ」
「公務執行妨害で逮捕する」
 このまま魔人少女を連れて逃げてくれればいいものを、朝瑠の死体を見られたからには可哀想だが帰すわけにはいかない。
 大人の都合で悪いが、正義はその身を蝕む毒でもあることを若い内に知るのはいい勉強だと思って貰おう。
「あんた、何でもう動けるの!」
 俺の顔を見て三つ編み少女はゾンビにでも会ったかのように驚くが、そもそも死んだら終わりと咄嗟に拘束を諦めて手でガードしたからな。それでも首がガクンといって数瞬だが意識が飛んだぞ。
「大人しくしろ。これ以上の抵抗はお前の心証を悪くするだけだぞ」
「何言っているの私は女の敵から少女を助けただけで」
 三つ編み少女が必死に抗弁してくるし、その気持ちも分かる。
 正義を成したと思って褒められるどころか逮捕されるなんて納得がいかないだろう。
 ならば現実を教えてやろう。
「そこに転がっているの物体は死体だ」
「えっ」
 あれを元人間だと思いたくない少女の思考に現実を突きつける。
「そして、お前が助けた少女が殺した。
 ではその少女を捕まえようとしていた俺は何だと思う」
「そっそんなの嘘よ」
「オケ-オケ-。君がそう思うのは自由だ。ならば俺は現実を見せてあげよう。
 警察を呼ぶ」
 俺はスマフォを取り出す。
「ふっふん、あんたこそ今のうちに逃げ出さなくていいの。
 私に下らないハッタリは効かないんだから」

 二時間後、少女は警察署の取調室にぽつんと居た。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

都市街下奇譚

ホラー
とある都市。 人の溢れる街の下で起こる不可思議で、時に忌まわしい時に幸いな出来事の数々。 多くの人間が無意識に避けて通る筈の出来事に、間違って足を踏み入れてしまった時、その人間はどうするのだろうか? 多くの人間が気がつかずに過ぎる出来事に、気がついた時人間はどうするのだろうか?それが、どうしても避けられない時何が起こったのか。 忌憚は忌み嫌い避けて通る事。 奇譚は奇妙な出来事を綴ると言う事。 そんな話がとある喫茶店のマスターの元に集まるという。客足がフッと途絶えた時に居合わせると、彼は思い出したように口を開く。それは忌憚を語る奇譚の始まりだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...