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世界救済委員会
第二百話 疑似デート
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「奥の席を頼みたいんだが空いているか?」
「はい大丈夫です」
緑を基調とした制服を着たウェイトレスが案内をしてくれる。
板張りの広いフロアの到るところに置かれた植物からのオゾン臭に包まれ森に迷い込んだ錯覚すらするカフェ「森の迷い家」である。
都会にありながら郊外の森に迷い込んだ気分に成れる店で、時雨とのデートに備えてチェックしていた店である。
時雨と来る前に他の女と来てしまったのだが、まさか退魔の話をファーストフード店のようなオープンスペースでするわけにもいくまいとの苦肉の選択。
まあ本番前に一人で下見に来ようと思っていたし、仕事とデートの下見を一度に済ませられれて一石二鳥だったと思えば悪くない。
「雰囲気のあるお店ね。
流石、手抜かり無いね」
ジャンヌの邪気の無い笑顔で褒められると、少し申し訳なくむず痒い。
あれだな今後のためにも仕事用の店もストックしておく必要がありそうだ。
「お褒めにあずかり恐縮です」
俺とジャンヌはウェイトレスというより森の番人と言った方が納得するウェイトレスに案内されて奥の席に着く。
席に着き、ざっと周りを見渡すが兎に角植物が多く直ぐ近くの席でも顔が葉で遮られよく見えないし、音も吸収してしくれる。
木々に囲まれた静けさを演出をする店が全然爽やかじゃ無い密談をするのに向いているとは皮肉かもしれないが、仕事の話も恋バナもそう変わりないだろ。
「ふふっ」
「何か嬉しそうだな」
ジャンヌが嫌にニコニコしているので尋ねた。
「こんな風にやさしく二人っきりにされると恋人みたいね。
狙ってた?」
ジャンヌが笑いながらウィンクをしてくる顔はチャーミング過ぎて時雨がいなかったら恋に落ちていたかもな。
「もてない男に雰囲気だけでも味合わせてくれ」
時雨もこれくらい俺に気安く接っしてきてくれたら嬉しいんだが、まあ夢か。
「仕方ない。サービスよ」
ジャンヌが俺の胸をちょんと突いてくる。
「いい女だな。注文は決まったか?」
「決まったわよ」
ジャンヌは広げていたメニューをテーブルの上に置く。
「それじゃウェイトレスを呼ぶか」
森の恵み溢れるパスタに香る木々のコーヒーとか、やたら森を強調してくる名前の料理を頼み、料理が届くまでの間という魔が始まる。
ウェイトレスがいつ来るか分からないこの間で仕事の話を始めるわけにはいかない。
目的のない無意味な会話は苦手だ。
ここで三人いれば俺は聞き役に徹するフリをしてしゃべらなくてもいいのだろうが、二人ではそうもいかない。
間を持たせる何か適当な話は無いだろうかと口を開く。
「そう言えばジャンヌは日本に残っていたんだな。てっきりフランスに帰ったかと思っていたよ」
無難なつもりで地雷を踏み抜いてしまったようだジャンヌの眉間に皺が寄る。
「それよ、それ。事件の後会いに来てくれたっていいじゃないの? なのにその後全く音沙汰なしだなんて薄情すぎない」
「そう言われてもな。ジャンヌの個人的な連絡先なんて知らないし、どうせフランス大使館に問い合わせしたって教えてくれないんだろ?」
「嘘ね」
何一つ虚言を述べてないのにこの言われような酷くないか?
流石の俺でも少し傷付くぞ。
「言い切るなよ」
「貴方がその気になれば私がフランスに帰っていたって探し出せるでしょ。あんたはそれだけの能力がある」
意欲の問題を言われると耳が少し痛い。
俺の能力を過大評価し過ぎだが、事件が終わってジャンヌの行方を捜そうとしなかったのはどうなんだろうか?
俺とジャンヌはセクデスという強敵に一緒に挑み勝つという大仕事を果たした。
共に駆け抜けた時間の密度の濃さ。
互いに背中を預け合っていると感じる充足感。
そして死線を潜り抜けて果たした達成感。
なまっちょろい友情や愛、セックスじゃ比較することすら出来ないほどに心が満たされる。
それだけのものを味わい、無事なのも分かっているなら、その後の行動など余韻を冷ます蛇足に過ぎない。
この気持ちを理解してくれる人は少ないだろう。
普通の人から見れば薄情と言われても仕方が無い。
共に駆け抜けたジャンヌは違うのだろうか?
「買い被りすぎだ。お前の方こそ俺に連絡無かったじゃ無いか。それこそお前なら俺の連絡先なんて調べられたんじゃ無いのか?」
「しょうが無いじゃ無い。貴方は民間人だから、私の方から迂闊に接触するのはどうしても躊躇われるのよ。それに無事だとは聞いていたからね」
勝手な言いぐさのようでいてジャンヌも俺と似たようなものなんだな。
なぜか少し安心した。
「なのにいつの間にかこっち側の人間になっているみたいじゃない。だったら連絡くらいしてくれても良かったんじゃない」
口を尖らせクレームを言ってくる。
体育会系か? 後輩が先輩に挨拶に来なくて拗ねるのかよ。
まあ拗ねた顔はちょっと子供っぽくて可愛いのが反則で憎めない。
「フランスに帰っていると思っていたんだ。
それに美しい思い出は別れたままの方が保存される」
ただ会ってどうする?
ジャンヌに会って共に果たそうとする試練はもう無い。
つまりあれ時以上の体験は得られない。
ならそっと心のアルバムに保存するのも美学では無かろうか?
「そんなことそんな真顔でよく言えるわね」
目を目一杯見開いて驚くなよ。
「ほっとけ」
「なら、もっと美しい思い出を作らないとね」
それはセクデス以上の試練があるということか?
それはそれで遠慮したい気分はある。
「俺はあの事件の後に退魔官になった」
こう言えば使命に目覚めて志願してなったように聞こえるが、実際にはあの事件で色々やらかした責任を取らされたようなものだ。
責任を取って職を失う奴は普通にいるが責任を取って職をやらされる希有な奴というのが実に俺らしい。
「そうなんだ。まあ、貴方なら不思議と思わないわ」
そんなにも俺はそちら側の臭いを出していたのだろうか?
まあ魔人も俺も世間から一歩はみ出ている点では同じか。
「やけに嬉しそうだな」
「これで貴方もこちら側、何の遠慮はいらなくなるのね。
早速だけど、番号教えて」
「レディーがはしたないぞ。丁度食事が来たようだ」
ウェイトレスが料理を丁度歩込んできた。
仕事の話は食事が終わってから、今は食事を楽しもう。
くうねるやるの人間最大欲求。
その内やるはこんな俺だ諦めているが、最近はねるすら怪しくなってきている。ならせめて最後のくうくらいは堪能したいものだ。
「はい大丈夫です」
緑を基調とした制服を着たウェイトレスが案内をしてくれる。
板張りの広いフロアの到るところに置かれた植物からのオゾン臭に包まれ森に迷い込んだ錯覚すらするカフェ「森の迷い家」である。
都会にありながら郊外の森に迷い込んだ気分に成れる店で、時雨とのデートに備えてチェックしていた店である。
時雨と来る前に他の女と来てしまったのだが、まさか退魔の話をファーストフード店のようなオープンスペースでするわけにもいくまいとの苦肉の選択。
まあ本番前に一人で下見に来ようと思っていたし、仕事とデートの下見を一度に済ませられれて一石二鳥だったと思えば悪くない。
「雰囲気のあるお店ね。
流石、手抜かり無いね」
ジャンヌの邪気の無い笑顔で褒められると、少し申し訳なくむず痒い。
あれだな今後のためにも仕事用の店もストックしておく必要がありそうだ。
「お褒めにあずかり恐縮です」
俺とジャンヌはウェイトレスというより森の番人と言った方が納得するウェイトレスに案内されて奥の席に着く。
席に着き、ざっと周りを見渡すが兎に角植物が多く直ぐ近くの席でも顔が葉で遮られよく見えないし、音も吸収してしくれる。
木々に囲まれた静けさを演出をする店が全然爽やかじゃ無い密談をするのに向いているとは皮肉かもしれないが、仕事の話も恋バナもそう変わりないだろ。
「ふふっ」
「何か嬉しそうだな」
ジャンヌが嫌にニコニコしているので尋ねた。
「こんな風にやさしく二人っきりにされると恋人みたいね。
狙ってた?」
ジャンヌが笑いながらウィンクをしてくる顔はチャーミング過ぎて時雨がいなかったら恋に落ちていたかもな。
「もてない男に雰囲気だけでも味合わせてくれ」
時雨もこれくらい俺に気安く接っしてきてくれたら嬉しいんだが、まあ夢か。
「仕方ない。サービスよ」
ジャンヌが俺の胸をちょんと突いてくる。
「いい女だな。注文は決まったか?」
「決まったわよ」
ジャンヌは広げていたメニューをテーブルの上に置く。
「それじゃウェイトレスを呼ぶか」
森の恵み溢れるパスタに香る木々のコーヒーとか、やたら森を強調してくる名前の料理を頼み、料理が届くまでの間という魔が始まる。
ウェイトレスがいつ来るか分からないこの間で仕事の話を始めるわけにはいかない。
目的のない無意味な会話は苦手だ。
ここで三人いれば俺は聞き役に徹するフリをしてしゃべらなくてもいいのだろうが、二人ではそうもいかない。
間を持たせる何か適当な話は無いだろうかと口を開く。
「そう言えばジャンヌは日本に残っていたんだな。てっきりフランスに帰ったかと思っていたよ」
無難なつもりで地雷を踏み抜いてしまったようだジャンヌの眉間に皺が寄る。
「それよ、それ。事件の後会いに来てくれたっていいじゃないの? なのにその後全く音沙汰なしだなんて薄情すぎない」
「そう言われてもな。ジャンヌの個人的な連絡先なんて知らないし、どうせフランス大使館に問い合わせしたって教えてくれないんだろ?」
「嘘ね」
何一つ虚言を述べてないのにこの言われような酷くないか?
流石の俺でも少し傷付くぞ。
「言い切るなよ」
「貴方がその気になれば私がフランスに帰っていたって探し出せるでしょ。あんたはそれだけの能力がある」
意欲の問題を言われると耳が少し痛い。
俺の能力を過大評価し過ぎだが、事件が終わってジャンヌの行方を捜そうとしなかったのはどうなんだろうか?
俺とジャンヌはセクデスという強敵に一緒に挑み勝つという大仕事を果たした。
共に駆け抜けた時間の密度の濃さ。
互いに背中を預け合っていると感じる充足感。
そして死線を潜り抜けて果たした達成感。
なまっちょろい友情や愛、セックスじゃ比較することすら出来ないほどに心が満たされる。
それだけのものを味わい、無事なのも分かっているなら、その後の行動など余韻を冷ます蛇足に過ぎない。
この気持ちを理解してくれる人は少ないだろう。
普通の人から見れば薄情と言われても仕方が無い。
共に駆け抜けたジャンヌは違うのだろうか?
「買い被りすぎだ。お前の方こそ俺に連絡無かったじゃ無いか。それこそお前なら俺の連絡先なんて調べられたんじゃ無いのか?」
「しょうが無いじゃ無い。貴方は民間人だから、私の方から迂闊に接触するのはどうしても躊躇われるのよ。それに無事だとは聞いていたからね」
勝手な言いぐさのようでいてジャンヌも俺と似たようなものなんだな。
なぜか少し安心した。
「なのにいつの間にかこっち側の人間になっているみたいじゃない。だったら連絡くらいしてくれても良かったんじゃない」
口を尖らせクレームを言ってくる。
体育会系か? 後輩が先輩に挨拶に来なくて拗ねるのかよ。
まあ拗ねた顔はちょっと子供っぽくて可愛いのが反則で憎めない。
「フランスに帰っていると思っていたんだ。
それに美しい思い出は別れたままの方が保存される」
ただ会ってどうする?
ジャンヌに会って共に果たそうとする試練はもう無い。
つまりあれ時以上の体験は得られない。
ならそっと心のアルバムに保存するのも美学では無かろうか?
「そんなことそんな真顔でよく言えるわね」
目を目一杯見開いて驚くなよ。
「ほっとけ」
「なら、もっと美しい思い出を作らないとね」
それはセクデス以上の試練があるということか?
それはそれで遠慮したい気分はある。
「俺はあの事件の後に退魔官になった」
こう言えば使命に目覚めて志願してなったように聞こえるが、実際にはあの事件で色々やらかした責任を取らされたようなものだ。
責任を取って職を失う奴は普通にいるが責任を取って職をやらされる希有な奴というのが実に俺らしい。
「そうなんだ。まあ、貴方なら不思議と思わないわ」
そんなにも俺はそちら側の臭いを出していたのだろうか?
まあ魔人も俺も世間から一歩はみ出ている点では同じか。
「やけに嬉しそうだな」
「これで貴方もこちら側、何の遠慮はいらなくなるのね。
早速だけど、番号教えて」
「レディーがはしたないぞ。丁度食事が来たようだ」
ウェイトレスが料理を丁度歩込んできた。
仕事の話は食事が終わってから、今は食事を楽しもう。
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