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世界救済委員会
第236話 技術者魂
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しまった、あまり馬鹿らしいことを言うので思わず口に出してしまった。
怒り出して会話を打ち切られたらまずい、何か取り繕った方がいいのかとも思うが、真の愛、人間の闇を見た俺からすればあまりに荒唐無稽さに何か気が抜けてしまった。
もういいか。
カチャと俺はリボルバーのシリンダーを外して弾の再装填を始める。
「そうだ。
人は紛い物の愛しか知らぬ。
そこらを歩いている恋人同士など滑稽よ」
俺の失言など気にする様子も無く気持ちよく語り続けてくれる。なら急ぐことも無い、もう少しこの戯言に付き合うか。
「恋人から愛を感じるといっても、それは純粋な愛の波長では無く他の波長の感情も同時に受ける。ただ愛の波長がその時強いから愛を感じていると大ざっぱに思っているだけのことよ」
人は愛していながら憎んだり、好きと言いつつ打算を巡らせたり、憎いと思いつつも憧れたり、入り交じり複雑なのが普通。様々な感情の波長を織り交ぜて発する。
受け取る側も、己でスペクトル解析し一番強い感情の波長を代表の感情として受け取る。
そんなことは日常誰もが言葉にせずとも感覚的にやっていること。
別にだからといってその愛が嘘というわけじゃ無い。人間だから仕方ない、犬ほど人間は純粋に成れない、神ほど人間は器が大きくない。
「愛の単一波長じゃ無い、純粋じゃ無い、幾つもの感情の波長が混じった合成された波。
分かるか、人は愛を感じながら、淫らな肉欲を感じているかもしれない、僅かながらの憎しみを感じているかもしれない。
僅かな雑味がどうした神経質だと笑い飛ばす奴がいるかも知れないが、そこが肝なのよ。その僅かな雑味が真の愛を変質させ紛い物に貶める。
理解できるか」
「出来るさ」
例えれば、一般人ではどうでもいいことでも技術に拘るなら99%の純度では使い物にならず、99.999%の純度が無ければ今のハイテク製品は生み出せない。
高みを目指すなら雑味は許されない。どんな世界もその雑味に拘った者こそが一流と呼ばれるようになる。
真の愛など何の戯言かと失笑するが、0.001%に拘る技術者魂は理解共感出来る。
「いい返事だ。
人が人の身である限り愛の波長だけを生み出し発することはほぼ不可能。故に人はその生涯で真の愛を他人から感じることは出来ない。
何と哀れな生物なのか。愛を求めながら真の愛を手に入れることは出来ない。宇宙の果てを目指しているようなもので、辿り着く前に力尽きる。
ならば我が到達して見せよう。
純粋な愛を発することが出来ないというなら、余計な感情をフィルターで遮断してしまえばいい。
今私の体にはあらゆる感情を反射し純粋な愛だけを透過するようにコーティングされている。
見よ、この者達を。
雑味の無い真の愛に晒された者達の幸福に満たされた者達の至福の顔を」
あれほど邪悪な石皮音、自己愛に溢れてそうな天見、怒りに染まっていたセウ、そんな者達ですら心の奥底では愛を求めていたというのか。
愛は水の如し。
あれば意識せず。
乾けば渇望する。
真の愛を感じるのは泥水しか飲んだ事の無い者が清流を初めて口にした如き感動、人は兎角初体験ほど心を揺さぶられることは無い。
心の奥底で愛を求める者達にとって、混じり気無しの純愛はさぞや心を剔られる甘美だったのだろう。
そしてそんな者達すら求めた愛を前にして背を向けられる俺は、一番の怪物なのか?
「なるほど理屈は理解出来たが、一点理解出来ないことがある」
「何かな。質問を許そう」
技術者は己を理解できる者を前にしては口が軽くなる。
真の愛を発するのは技術の力、此奴自身が聖人になったわけじゃない、中身は凡俗。
「愛だけを発することが出来ないのならフィルターで余計な感情を除くのは分かるが、そもそも愛が無ければ意味が無いのでは無いか?」
そう幾ら優秀なフィルターでも自ら発光することは出来ない。元から無ければ意味が無いのである。
「何か勘違いしているんじゃないか」
「何がだ」
「我が感情の無いモンスターか何かだと思っているのか?
我にだって当然愛はあるぞ」
その台詞に腑に落ちた。確かにそうだな。乃払膜は先程熱く語っていた。
愛だけを発することは出来ないが愛だけを発しないようにすることも出来ない。
「レアに対するコレクター愛」
セウに見せたあの歓喜、あの執着は確かに愛が根底になる。
「それの何が悪い。対象に対して愛があればいいのだよ。どんな愛でも我がフィルターが真の愛に濾過してくれる」
納得だ。実に面白いテクニカルな話だった。
真の愛とか言うから道徳の時間でも始まるかと思えば、実に俺好みな感情論抜きの技術的な話、大いに納得できた。
「だったら、こんなところで遊んでないでさっさと真の愛とやらを啓蒙しに行ったらどうだ?」
これだけの成果に満足して帰ってしまえ。これだけの力があれば一大宗教組織など直ぐさま築き上げられて、金も美女(美男か?)も思いのまま人生勝ち組だ。
「ふっ前々からこのフィルターには怒りの赤が足りないと思っていた。それは今日貴様に会って実感したよ」
これだけの効果があれば俺一人くらいイレギュラーでいいじゃないかと思うが、そう思えないが故にここまで来れたと言える。
富より高み、つくづく技術者だな。尊敬するぜ。
「故にこの娘の噂を聞いてから手に入れる機会をずっと狙っていた。そして今日手に入った。早速帰ってこの娘より感情を抽出して、更なるフィルターを作り上げてやる。
その時には貴様も我が技術の前に平伏す。そしてその時こそ我は至高の技術に酔いしれ甘美する」
ここまでの話の上だけ聞いていれば、いい話だ。テレビで開発に情熱を燃やす技術者の特番が組めてしまう。
此奴が開発したフィルターを、こんな奴で無く元々人間への愛溢れるジャンヌや時雨に施せば、それこそ人の意識の変革が起きるかも知れない。世界救済委員も解散だ。協力するのだって吝かじゃ無い。
上澄みだけ聞いていたらな。
「随分といい話しに聞こえるが、折角だもう一つ教えてくれないか?」
「何かね」
「人の感情をどうやって抽出する?」
怒り出して会話を打ち切られたらまずい、何か取り繕った方がいいのかとも思うが、真の愛、人間の闇を見た俺からすればあまりに荒唐無稽さに何か気が抜けてしまった。
もういいか。
カチャと俺はリボルバーのシリンダーを外して弾の再装填を始める。
「そうだ。
人は紛い物の愛しか知らぬ。
そこらを歩いている恋人同士など滑稽よ」
俺の失言など気にする様子も無く気持ちよく語り続けてくれる。なら急ぐことも無い、もう少しこの戯言に付き合うか。
「恋人から愛を感じるといっても、それは純粋な愛の波長では無く他の波長の感情も同時に受ける。ただ愛の波長がその時強いから愛を感じていると大ざっぱに思っているだけのことよ」
人は愛していながら憎んだり、好きと言いつつ打算を巡らせたり、憎いと思いつつも憧れたり、入り交じり複雑なのが普通。様々な感情の波長を織り交ぜて発する。
受け取る側も、己でスペクトル解析し一番強い感情の波長を代表の感情として受け取る。
そんなことは日常誰もが言葉にせずとも感覚的にやっていること。
別にだからといってその愛が嘘というわけじゃ無い。人間だから仕方ない、犬ほど人間は純粋に成れない、神ほど人間は器が大きくない。
「愛の単一波長じゃ無い、純粋じゃ無い、幾つもの感情の波長が混じった合成された波。
分かるか、人は愛を感じながら、淫らな肉欲を感じているかもしれない、僅かながらの憎しみを感じているかもしれない。
僅かな雑味がどうした神経質だと笑い飛ばす奴がいるかも知れないが、そこが肝なのよ。その僅かな雑味が真の愛を変質させ紛い物に貶める。
理解できるか」
「出来るさ」
例えれば、一般人ではどうでもいいことでも技術に拘るなら99%の純度では使い物にならず、99.999%の純度が無ければ今のハイテク製品は生み出せない。
高みを目指すなら雑味は許されない。どんな世界もその雑味に拘った者こそが一流と呼ばれるようになる。
真の愛など何の戯言かと失笑するが、0.001%に拘る技術者魂は理解共感出来る。
「いい返事だ。
人が人の身である限り愛の波長だけを生み出し発することはほぼ不可能。故に人はその生涯で真の愛を他人から感じることは出来ない。
何と哀れな生物なのか。愛を求めながら真の愛を手に入れることは出来ない。宇宙の果てを目指しているようなもので、辿り着く前に力尽きる。
ならば我が到達して見せよう。
純粋な愛を発することが出来ないというなら、余計な感情をフィルターで遮断してしまえばいい。
今私の体にはあらゆる感情を反射し純粋な愛だけを透過するようにコーティングされている。
見よ、この者達を。
雑味の無い真の愛に晒された者達の幸福に満たされた者達の至福の顔を」
あれほど邪悪な石皮音、自己愛に溢れてそうな天見、怒りに染まっていたセウ、そんな者達ですら心の奥底では愛を求めていたというのか。
愛は水の如し。
あれば意識せず。
乾けば渇望する。
真の愛を感じるのは泥水しか飲んだ事の無い者が清流を初めて口にした如き感動、人は兎角初体験ほど心を揺さぶられることは無い。
心の奥底で愛を求める者達にとって、混じり気無しの純愛はさぞや心を剔られる甘美だったのだろう。
そしてそんな者達すら求めた愛を前にして背を向けられる俺は、一番の怪物なのか?
「なるほど理屈は理解出来たが、一点理解出来ないことがある」
「何かな。質問を許そう」
技術者は己を理解できる者を前にしては口が軽くなる。
真の愛を発するのは技術の力、此奴自身が聖人になったわけじゃない、中身は凡俗。
「愛だけを発することが出来ないのならフィルターで余計な感情を除くのは分かるが、そもそも愛が無ければ意味が無いのでは無いか?」
そう幾ら優秀なフィルターでも自ら発光することは出来ない。元から無ければ意味が無いのである。
「何か勘違いしているんじゃないか」
「何がだ」
「我が感情の無いモンスターか何かだと思っているのか?
我にだって当然愛はあるぞ」
その台詞に腑に落ちた。確かにそうだな。乃払膜は先程熱く語っていた。
愛だけを発することは出来ないが愛だけを発しないようにすることも出来ない。
「レアに対するコレクター愛」
セウに見せたあの歓喜、あの執着は確かに愛が根底になる。
「それの何が悪い。対象に対して愛があればいいのだよ。どんな愛でも我がフィルターが真の愛に濾過してくれる」
納得だ。実に面白いテクニカルな話だった。
真の愛とか言うから道徳の時間でも始まるかと思えば、実に俺好みな感情論抜きの技術的な話、大いに納得できた。
「だったら、こんなところで遊んでないでさっさと真の愛とやらを啓蒙しに行ったらどうだ?」
これだけの成果に満足して帰ってしまえ。これだけの力があれば一大宗教組織など直ぐさま築き上げられて、金も美女(美男か?)も思いのまま人生勝ち組だ。
「ふっ前々からこのフィルターには怒りの赤が足りないと思っていた。それは今日貴様に会って実感したよ」
これだけの効果があれば俺一人くらいイレギュラーでいいじゃないかと思うが、そう思えないが故にここまで来れたと言える。
富より高み、つくづく技術者だな。尊敬するぜ。
「故にこの娘の噂を聞いてから手に入れる機会をずっと狙っていた。そして今日手に入った。早速帰ってこの娘より感情を抽出して、更なるフィルターを作り上げてやる。
その時には貴様も我が技術の前に平伏す。そしてその時こそ我は至高の技術に酔いしれ甘美する」
ここまでの話の上だけ聞いていれば、いい話だ。テレビで開発に情熱を燃やす技術者の特番が組めてしまう。
此奴が開発したフィルターを、こんな奴で無く元々人間への愛溢れるジャンヌや時雨に施せば、それこそ人の意識の変革が起きるかも知れない。世界救済委員も解散だ。協力するのだって吝かじゃ無い。
上澄みだけ聞いていたらな。
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