俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

文字の大きさ
240 / 328
世界救済委員会

第239話 策で勝って勝負に負ける

しおりを挟む
「残念だよ。
 だがどうする、勇ましく吼えてもお前は我の前に立つことすら出来ないではないか」
 此方を嘲笑うかのような声が響いてくるが、そういう余裕をカマしている奴の足下を掬ってこそ気分がいい。
 最近演技で無く根本から嫌な奴になってきたな俺。
「そうだな、っと」
 惚けた返事をしつつ俺は南無三と引き金を三度引いた。
「なっ」
 ひゅう~、思わず口笛を吹いてしまった。珍しく俺の銃弾は目標を撃ち抜いた。
 天見がゆっくりと倒れていく。
 直接見れないが、人間には道具がある。鏡と銃を俺を挟んで対角線上に並べ鏡に映る銃の照準で狙いを定めて撃つ、精度の甘さは弾数で補ってはみたが当たるとは驚いた。ハラスメント攻撃程度の気分だったが、宝くじに当たった気分だぜ。
「はっは、勝てなくても嫌がらせなら出来るんだぜ。
 いつだって天才の足を引っ張るのは凡人よ」
 今の乃払膜の顔を見れなくて実に残念。高笑いで乃払膜を挑発しつつ夢よもう一度で急ぎ狙いを音先に定め直していく。
 だが世の中甘くは無い。
「ゴミがっ、そこの鬼っ、我に仇為す其奴を挽肉にしろ」
 おうおう、先程までのどこか理知的な態度は何処にやら、ゲームに負けてモニターを破壊する子供のような激昂だ。
「はい」
 子供のような素直な返事が聞こえると同時にブンッと咄嗟にしゃがんだ頭上を豪腕が過ぎ去っていく。今まで虚ろな顔をして俺の前に突っ立っていた鬼が振り返ると同時の裏拳を放ってきたのだ。
 もう少し遅ければ髪の毛を持って行かれ、少し遅ければ首が吹っ飛んでいた。
 最悪の予想は当たり相手の意識を奪うだけで無く洗脳して操ってくる。下手な頭数は敵が増えるだけの結果になる。
 倒すなら魔が届かない所からの遠距離攻撃か魔を使われる前に倒す奇襲のどちらか。そういった意味では出直してただ数を揃えようとしなくて正解だったな。
 後はここをどう切り抜けるか。
 天見と音先の二人同時に敵に回す最悪の目は免れたんだ、風は俺に吹いている。
 とはいえ鬼の陰から出ればアウトと鬼の攻撃を真後ろに下がりならが回避するしか無い状況はまず過ぎる。
 勝利への道は乃払膜を倒すのみ。
 手榴弾でもあれば鬼の頭越しに攻撃できるが、そこまで物騒な物用意していない。
 小型爆弾じゃ牽制程度。
 跳弾を利用した曲芸撃ち、なんて出来るわけが無い。
 どうする?
「ちいっ避けたか、ゴキブリのように苛つかせやがって。
 役に立たないくせにどうして苛つかせることは一人前なんだ。
 くそっくそっ、どいつもこいつも嫉妬しやがって。
 くそっ
 くそっ
 くそっ」
 エキサイティングして口汚い台詞と地団駄を踏む音が響いてくる。
 その様子に此奴に決して世界を救うなんて思想は無いことが察せられる。此奴はただただ自分の技術を追い求めたいだけの我が儘な子供だ。
「はあはあはあ、だが侮れば、そのしぶとさに躓かされる」
 怒りを一気に爆発させて平静さを取り戻した口調になってくる。
「お前はそこでそのゴキブリを現代壁画にしてやれ、我はそれを朝のニュースで見て溜飲を下げることにした。
 残りは私と共に来い」
 鬼に俺の相手をさせつつ、乃払膜はセウ達を連れて退却するようだ。下手に戦えば俺の悪足掻きで更にレアを失う可能性がある。鬱憤晴らしより手に入れた素材の確保を優先させたか。
 手堅く手強い。
 感情を切り離せる相手。俺にとっては高見で高笑いしてくれている輩でないと足下に付け込めないじゃ無いか。
 去って行ってくれたおかげで鬼の背に隠れる必要は無くなったようだが、代わりに鬼を倒すしか手は無くなった。
「お前の上司が連れ去れたぞ。さっさと目を覚ませ」
 正気に戻れと銃弾を打ち込むも鬼の分厚い筋肉に受け止められ、返礼に擦れば吹き飛ぶ拳が飛んでくる。
 ちくしょうが、割に合わない。
 体力がある内に何とかしないとジリ貧で俺はミンチになる。
 命の危機に晒されて活性化する俺の脳は今更ながら殻の意図を悟る。
 殻の奴、どこからか乃払膜がセウを狙っていると知って、俺やシン世廻、天至教を当て馬にしやがったな。
 来るのが遅いと思いはしていたが、殻の奴どこかで観戦していたに違いない。殻の目的がセウなのか乃払膜が生み出す愛のフィルターだったのかは断定出来ないが、このままだと殻の一挙両得の流れ。
 だが、微笑んでしまう。
 策謀ではやはり俺が一枚上手だったようだな。
 俺には伏せていたカードがある。この場にいないジャンヌだ。
 ジャンヌには何があろうとも戦いに参加せず、やがて現れるであろう殻の尾行に専念しろと命じてある。
 捕らぬ狸の皮算用で微笑む殻の背をハンターが狙っている。きっと最高のタイミングで殻から獲物をかっ攫ってくれるだろう。
 そう思うと死線のさなか笑いが込み上げてしょうが無いが、唯一の誤算は自分の戦力を少々高く見積ったこと。
 幾ら誘い込む為とはいえやはり一人は護衛を付けるべきだったか。
 凡人の俺では鬼一人でも手に余る。
 何度目の攻撃だったのか、躱した体勢のままに足がもつれた。溜まった乳酸が俺の足から踏ん張りを奪い去っていたようだ。
 尻餅を付いてしまった俺の眼前に鬼の拳が迫ってくる。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

都市街下奇譚

ホラー
とある都市。 人の溢れる街の下で起こる不可思議で、時に忌まわしい時に幸いな出来事の数々。 多くの人間が無意識に避けて通る筈の出来事に、間違って足を踏み入れてしまった時、その人間はどうするのだろうか? 多くの人間が気がつかずに過ぎる出来事に、気がついた時人間はどうするのだろうか?それが、どうしても避けられない時何が起こったのか。 忌憚は忌み嫌い避けて通る事。 奇譚は奇妙な出来事を綴ると言う事。 そんな話がとある喫茶店のマスターの元に集まるという。客足がフッと途絶えた時に居合わせると、彼は思い出したように口を開く。それは忌憚を語る奇譚の始まりだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...