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傘
第308話 会議
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日が沈み窓の外が真っ暗になった頃に捜査会議は始まった。
所轄署の大会議室には、まだ事件と決定されていないので他からの応援はなく初動捜査に当たった所轄の者達だけが10名ほど集まっていた。殺人事件と認定され正式に捜査本部が立てば他からも応援が来て100名を超えるほどに成るが今は慎ましいものだ。
「店内にいた客達の事情聴取及び身元確認は終わりました。これが調書です」
見た感じ元辻みたいに摺れて無くどちらかというと官僚気質な感じがする若い杉本という刑事が年配の刑事達が揃っている中俺の相手を務めるようだ。
所轄のボスのような刑事と揉めた得体の知れない部外者の対応なんて貧乏籤を誰もやりたがらず生け贄に差し出されたのだろうか、それとも案外中央へのパイプを欲しがる野心家なのか?
目に力は宿っている。
半々と言ったところか、まあどっちにしろ仕事はドライに合理的にするだけだ。
「身元は全員第三者に確認取れたか?」
渡された調書を読みつつ俺は尋ねる。
「はい、ご命令通り行いました。偽っている者はいませんでした」
「そうか」
身分を偽った成りすましは無し。いれば一気に大事にすることも出来たが、まあ予想通りか。
調書を読み進んで行くも特に怪しい記述はない。俺達同様に急な雨に飯を兼ねた緊急避難的に店に入った者が多いいようだ。
「それで被害者の身元は分かったのか?」
一匹狼で捜査をしているはずの元辻はちゃっかり会議に出席してしゃしゃり出てくる。
会議から閉め出したら裏で何をし出すか分からないというのもあるが、いい具合に事件を掻き乱してくれることも期待している。
「それが被害者の身元ですが・・・」
「どうした?」
言い淀む杉本に辻本が苛ついたように急かす。
「氏名は出東 昌大、会社員。
三週間ほど前に家族から捜索願が出ていることが分かりました」
「なに!? 行方不明者だった奴が暢気に都内の飯屋で昼飯を食べていたというのか?」
「そうなります」
「そうなると誘拐や事件に巻き込まれたわけでなく中年男性の家出だったということか。
家出して不審死かつくづく人騒がせな奴だな」
辻本は呆れ果てたように椅子にふんぞり返すが、まだ結論は早いと俺は口を開く。
「家出をするような理由はあったのか?」
「いえ捜索願によりますと家族には思い当たる点はないそうです。いつものように仕事に行って会社で働いていたことまでは分かっていて、帰宅途中でいなくなったようです。家族は何か事故にでも遭ったのかと心配して捜索願を出したようです」
「そうですか、なら明日の朝一から出東が行方不明になってからどこにいたのか調べ上げてください」
「おいおい家出中年がたまたま食中毒に当たっただけだろ。そんな必要あるのか?」
「検死の結果はまだ届いていませんから、まだ食中毒か結論は出ていませんよ。
それと調書を読んだのですが被害者が倒れる前に店を出た者がいますね」
「もう読みおわったのかっ!?」
「この程度の枚数直ぐですよ」
伊達に理系で論文を読んでいるわけじゃ無い。返答しつつ調書の束を元辻に渡す。
「その者の行方を明日追って下さい」
「たまたま店にいた者をですか?」
捜査員の一人がうんざりしたように言う。
まだ事件化もしてないのにそんな苦労をしたくない気持ちも分からないでもない。
だから俺は反抗的無い態度でも怒らない。
「まずはモンタージュ写真なり似顔絵を作成、それを持って商店街の監視カメラを使って男の足取りを追うのと同時に付近の聞き込みを行って下さい」
「あんた以外と泥臭い指示を出すんだな」
「必要ならするまでです。
現状捜査対象は二人だけです。この人数でもやれなくはないでしょう」
ここで理由をこじつけて綿柴の捜査を差し込む無謀は俺には無かった。綿柴の捜査はもう少し事件が大きくしてからだな。
「ですが市民をまだ拘束するんですか?」
もう夜も遅くなってきているので杉本の懸念も分かる。
「明日また来て貰うよりはいいだろ。それに今ならまだ記憶鮮明だろ」
「しかし今出来る者がいません」
「何?」
「今から他署から応援を呼んでも明日になってしまいます」
ここでも経費削減の影響か、金はやはり何より大事だな。
「ならそれは俺がやる」
「あんたそんなことも出来るのか?」
「一通り訓練は受けている」
如月さんに即席とはいえ捜査のイロハや鑑定などの技術を仕込まれている、会社命令の訓練だというのに無給で。抗議したら講義代と相殺と言われた。
まんまんと如月さんに半官半民を逆手に取られた苦い記憶だが、役には立っている。
ブラックを賛美はしないが身に付けた技術は身を助けるものだ。
「後でその出ていった者を見た者を呼んで下さい」
店主と店員と客が二人ほど、そんなには掛からないだろう。
「他の人は帰宅して貰っていいです」
市民への配慮も忘れない。これで杉本の懸念も少しは払拭されるだろう。
「分かりました」
「モンタージュは明日の朝には皆さんに渡しますから、明日は朝から被害者と出ていった者の足取り調査をして貰います」
「そこまでやって食中毒だったらどうするんだよ」
「その時はその時です。
明日の朝から午後3時まで追跡して下さい。その頃には検死の結果も出ているでしょうから一旦集まって情報整理の会議をしましょう。場合によっては捜査本部が立つかも知れませんね」
まああの異様な東出の死体があるんだ五津府の説得は可能だが、説得材料は多いい方が俺が楽になる。
「なああんた何を知っているんだ? 幾ら何でもその対応は可笑しいぞ」
強引な俺に疑念が湧いたのか元辻が突っかかってくる。
「今は言えませんね。知りたければ自分で調べるんじゃないんですか?」
「けっ」
「分かりましたが、割り振りはどうします?」
杉本が尋ねてくる。
「そうだな」
「まてまて部外者が口を出しても碌な事にならない。割り振りは俺がしよう」
「お願いします」
流石に個人の能力を知らない俺が関与してもいいことは無いだろう。ここは元辻が俺の妨害をしないと信じてみるか。
さて今日の夜も長そうだ。
所轄署の大会議室には、まだ事件と決定されていないので他からの応援はなく初動捜査に当たった所轄の者達だけが10名ほど集まっていた。殺人事件と認定され正式に捜査本部が立てば他からも応援が来て100名を超えるほどに成るが今は慎ましいものだ。
「店内にいた客達の事情聴取及び身元確認は終わりました。これが調書です」
見た感じ元辻みたいに摺れて無くどちらかというと官僚気質な感じがする若い杉本という刑事が年配の刑事達が揃っている中俺の相手を務めるようだ。
所轄のボスのような刑事と揉めた得体の知れない部外者の対応なんて貧乏籤を誰もやりたがらず生け贄に差し出されたのだろうか、それとも案外中央へのパイプを欲しがる野心家なのか?
目に力は宿っている。
半々と言ったところか、まあどっちにしろ仕事はドライに合理的にするだけだ。
「身元は全員第三者に確認取れたか?」
渡された調書を読みつつ俺は尋ねる。
「はい、ご命令通り行いました。偽っている者はいませんでした」
「そうか」
身分を偽った成りすましは無し。いれば一気に大事にすることも出来たが、まあ予想通りか。
調書を読み進んで行くも特に怪しい記述はない。俺達同様に急な雨に飯を兼ねた緊急避難的に店に入った者が多いいようだ。
「それで被害者の身元は分かったのか?」
一匹狼で捜査をしているはずの元辻はちゃっかり会議に出席してしゃしゃり出てくる。
会議から閉め出したら裏で何をし出すか分からないというのもあるが、いい具合に事件を掻き乱してくれることも期待している。
「それが被害者の身元ですが・・・」
「どうした?」
言い淀む杉本に辻本が苛ついたように急かす。
「氏名は出東 昌大、会社員。
三週間ほど前に家族から捜索願が出ていることが分かりました」
「なに!? 行方不明者だった奴が暢気に都内の飯屋で昼飯を食べていたというのか?」
「そうなります」
「そうなると誘拐や事件に巻き込まれたわけでなく中年男性の家出だったということか。
家出して不審死かつくづく人騒がせな奴だな」
辻本は呆れ果てたように椅子にふんぞり返すが、まだ結論は早いと俺は口を開く。
「家出をするような理由はあったのか?」
「いえ捜索願によりますと家族には思い当たる点はないそうです。いつものように仕事に行って会社で働いていたことまでは分かっていて、帰宅途中でいなくなったようです。家族は何か事故にでも遭ったのかと心配して捜索願を出したようです」
「そうですか、なら明日の朝一から出東が行方不明になってからどこにいたのか調べ上げてください」
「おいおい家出中年がたまたま食中毒に当たっただけだろ。そんな必要あるのか?」
「検死の結果はまだ届いていませんから、まだ食中毒か結論は出ていませんよ。
それと調書を読んだのですが被害者が倒れる前に店を出た者がいますね」
「もう読みおわったのかっ!?」
「この程度の枚数直ぐですよ」
伊達に理系で論文を読んでいるわけじゃ無い。返答しつつ調書の束を元辻に渡す。
「その者の行方を明日追って下さい」
「たまたま店にいた者をですか?」
捜査員の一人がうんざりしたように言う。
まだ事件化もしてないのにそんな苦労をしたくない気持ちも分からないでもない。
だから俺は反抗的無い態度でも怒らない。
「まずはモンタージュ写真なり似顔絵を作成、それを持って商店街の監視カメラを使って男の足取りを追うのと同時に付近の聞き込みを行って下さい」
「あんた以外と泥臭い指示を出すんだな」
「必要ならするまでです。
現状捜査対象は二人だけです。この人数でもやれなくはないでしょう」
ここで理由をこじつけて綿柴の捜査を差し込む無謀は俺には無かった。綿柴の捜査はもう少し事件が大きくしてからだな。
「ですが市民をまだ拘束するんですか?」
もう夜も遅くなってきているので杉本の懸念も分かる。
「明日また来て貰うよりはいいだろ。それに今ならまだ記憶鮮明だろ」
「しかし今出来る者がいません」
「何?」
「今から他署から応援を呼んでも明日になってしまいます」
ここでも経費削減の影響か、金はやはり何より大事だな。
「ならそれは俺がやる」
「あんたそんなことも出来るのか?」
「一通り訓練は受けている」
如月さんに即席とはいえ捜査のイロハや鑑定などの技術を仕込まれている、会社命令の訓練だというのに無給で。抗議したら講義代と相殺と言われた。
まんまんと如月さんに半官半民を逆手に取られた苦い記憶だが、役には立っている。
ブラックを賛美はしないが身に付けた技術は身を助けるものだ。
「後でその出ていった者を見た者を呼んで下さい」
店主と店員と客が二人ほど、そんなには掛からないだろう。
「他の人は帰宅して貰っていいです」
市民への配慮も忘れない。これで杉本の懸念も少しは払拭されるだろう。
「分かりました」
「モンタージュは明日の朝には皆さんに渡しますから、明日は朝から被害者と出ていった者の足取り調査をして貰います」
「そこまでやって食中毒だったらどうするんだよ」
「その時はその時です。
明日の朝から午後3時まで追跡して下さい。その頃には検死の結果も出ているでしょうから一旦集まって情報整理の会議をしましょう。場合によっては捜査本部が立つかも知れませんね」
まああの異様な東出の死体があるんだ五津府の説得は可能だが、説得材料は多いい方が俺が楽になる。
「なああんた何を知っているんだ? 幾ら何でもその対応は可笑しいぞ」
強引な俺に疑念が湧いたのか元辻が突っかかってくる。
「今は言えませんね。知りたければ自分で調べるんじゃないんですか?」
「けっ」
「分かりましたが、割り振りはどうします?」
杉本が尋ねてくる。
「そうだな」
「まてまて部外者が口を出しても碌な事にならない。割り振りは俺がしよう」
「お願いします」
流石に個人の能力を知らない俺が関与してもいいことは無いだろう。ここは元辻が俺の妨害をしないと信じてみるか。
さて今日の夜も長そうだ。
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