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第三十一話 俺嫌われてます
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「は~い、時雨」
彼女は親しげに近寄ってきて、そのままハグでもしそうな勢いだ。
「おはよう、キョウちゃん。予定より早いね」
「そりゃそうよ。私は誰かさんと違って、少しでも実績を積んで早く独り立ちしたいんだから」
「そんな焦らなくても僕らはまだ高校生じゃ無いか」
時雨さんはキョウとかいう女が込めた冷やかしの意味を完全に履き違えている。
「彼女は?」
「紹介するね。彼女は矢牛 京。ボクと同じリードの旋律士で今回のもう一人の護衛さ」
「そうか。俺は・・・」
「よろしくね。あなたが護衛対象の大友さんね」
矢牛は挨拶しようとした俺を完全に無視して俺の後ろに控えていた大友さんに挨拶をしつつ右手を差し出した。いちいちボディーランゲージが派手なアメリカンチックな女だ。
それにしても初対面で随分と嫌われたもんだな。しかし昔ならいざ知らず今の俺はこの程度で心の湖面は漣一つ立たない。ビジネスライクに淡々とやるべき事をこなすのみ。
「はっはい、こちらこそよろしくお願いします」
大友さんはもじもじしながらも矢牛の手を握った。
「大船に乗った気でいなさい」
「よっ」
二人のやり取りに気を取られていると背後から肩を叩かれた。
「西村」
「なんだなんだ、美人に囲まれて羨ましいな」
「安心しろ、直ぐに替わってやるよ。
時雨は覚えているな」
「ああ、命の恩人だ」
「それとあそこにいるのが護衛に付くそうだ」
俺は大友さんと話している矢牛を指差しながら説明する。
「OK それで」
「お前には二人が大友さんの傍にいられるようにして欲しい」
「あの二人をか」
西村は時雨さんを見て矢牛を見て、大きく溜息をついた。
良かった。制服姿の時雨さんや嫌でも目立つ矢牛を問題にならずに大友の傍にいさせることが困難だと思うのは俺だけでは無かったんだな。時雨さんの自信満々の顔に俺も実は俺の方がひょっとして間違っているのかとか、自分の分析能力に疑問を持ち始めたところだったので自信が回復した。
「そうだ。元々関係ない俺をお前が巻き込んだんだ、嫌とは言わないよな」
「うっ」
自分がされて嫌な交渉術は早速吸収して試させて貰う。
「あれ、一緒に来ないの?」
傍で話を聞いていたらしい時雨さんが俺に聞いてくる。
「彼女は文系で俺は理系だ。そして俺はこの後大事な講義がある」
一年の一般教養なら兎も角、二年に成って理系文系にハッキリ別れだした今では理系の俺が文系の講義とかに紛れ込むのはなかなかに難しい。
そしてなにより、この後の講義は必修科目で絶対に落とせない。落として留年なんて俺の経歴に傷が付く。経歴しか無い俺にとってそれは致命傷だ。
「ちょっと、彼女より講義の方が大事だって言うの」
この女、体付きだけじゃなく耳もいいな。大友と話していたはずなのにいきなり割り込んできた。ちっ俺のことが嫌いなら構うなよとも思う。
「俺がいたって役に立たないだろ。取り敢えず便宜を図ってくれと言う依頼はこなしたぞ」
だいたい俺だって時雨さんと一緒にいたいさ、一年しか時間が無いんだからな。それを我慢しているというのに。
・・・
そうなんだよな、俺という人間は我慢が出来てしまう。我ながら嫌な性格だ。
「うわっ官僚的。もてなさそう」
この女徹底的に俺が嫌いなんだな。だが、まあいいや。
「自覚しているよ。それじゃ西村頼んだぞ。何かあったら呼んでくれ」
俺は西村に後を託し講義に向かうのであった。
彼女は親しげに近寄ってきて、そのままハグでもしそうな勢いだ。
「おはよう、キョウちゃん。予定より早いね」
「そりゃそうよ。私は誰かさんと違って、少しでも実績を積んで早く独り立ちしたいんだから」
「そんな焦らなくても僕らはまだ高校生じゃ無いか」
時雨さんはキョウとかいう女が込めた冷やかしの意味を完全に履き違えている。
「彼女は?」
「紹介するね。彼女は矢牛 京。ボクと同じリードの旋律士で今回のもう一人の護衛さ」
「そうか。俺は・・・」
「よろしくね。あなたが護衛対象の大友さんね」
矢牛は挨拶しようとした俺を完全に無視して俺の後ろに控えていた大友さんに挨拶をしつつ右手を差し出した。いちいちボディーランゲージが派手なアメリカンチックな女だ。
それにしても初対面で随分と嫌われたもんだな。しかし昔ならいざ知らず今の俺はこの程度で心の湖面は漣一つ立たない。ビジネスライクに淡々とやるべき事をこなすのみ。
「はっはい、こちらこそよろしくお願いします」
大友さんはもじもじしながらも矢牛の手を握った。
「大船に乗った気でいなさい」
「よっ」
二人のやり取りに気を取られていると背後から肩を叩かれた。
「西村」
「なんだなんだ、美人に囲まれて羨ましいな」
「安心しろ、直ぐに替わってやるよ。
時雨は覚えているな」
「ああ、命の恩人だ」
「それとあそこにいるのが護衛に付くそうだ」
俺は大友さんと話している矢牛を指差しながら説明する。
「OK それで」
「お前には二人が大友さんの傍にいられるようにして欲しい」
「あの二人をか」
西村は時雨さんを見て矢牛を見て、大きく溜息をついた。
良かった。制服姿の時雨さんや嫌でも目立つ矢牛を問題にならずに大友の傍にいさせることが困難だと思うのは俺だけでは無かったんだな。時雨さんの自信満々の顔に俺も実は俺の方がひょっとして間違っているのかとか、自分の分析能力に疑問を持ち始めたところだったので自信が回復した。
「そうだ。元々関係ない俺をお前が巻き込んだんだ、嫌とは言わないよな」
「うっ」
自分がされて嫌な交渉術は早速吸収して試させて貰う。
「あれ、一緒に来ないの?」
傍で話を聞いていたらしい時雨さんが俺に聞いてくる。
「彼女は文系で俺は理系だ。そして俺はこの後大事な講義がある」
一年の一般教養なら兎も角、二年に成って理系文系にハッキリ別れだした今では理系の俺が文系の講義とかに紛れ込むのはなかなかに難しい。
そしてなにより、この後の講義は必修科目で絶対に落とせない。落として留年なんて俺の経歴に傷が付く。経歴しか無い俺にとってそれは致命傷だ。
「ちょっと、彼女より講義の方が大事だって言うの」
この女、体付きだけじゃなく耳もいいな。大友と話していたはずなのにいきなり割り込んできた。ちっ俺のことが嫌いなら構うなよとも思う。
「俺がいたって役に立たないだろ。取り敢えず便宜を図ってくれと言う依頼はこなしたぞ」
だいたい俺だって時雨さんと一緒にいたいさ、一年しか時間が無いんだからな。それを我慢しているというのに。
・・・
そうなんだよな、俺という人間は我慢が出来てしまう。我ながら嫌な性格だ。
「うわっ官僚的。もてなさそう」
この女徹底的に俺が嫌いなんだな。だが、まあいいや。
「自覚しているよ。それじゃ西村頼んだぞ。何かあったら呼んでくれ」
俺は西村に後を託し講義に向かうのであった。
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