35 / 328
第三十五話 ヘイト
しおりを挟む
30分もしないうちに鵡見さんはやってきた。
「直ぐにここを出るわよ。でもその前にベランダを見せて貰える」
「どうぞ」
鵡見さんは一人ベランダに出て行った。
そして窓越しに嗚咽が響いてくる。
「砂府で間違いないわ」
「そうですか」
鵡見さんの言葉に時雨さんも先程までと違い事実を呑み込んだ顔になった。きっとコンピューターのように情報として記録している、そうで無ければ戦えないから。戦いが終わって少女に戻った時に泣くのであろう。
「急いでここを出ましょう。準備はいい」
「はい。でもどこにいくのですか?」
「詳しい場所は決めていない、私の気分次第ね。暫くはホテル暮らしよ」
敢えて場所を決めないことで、敵の待ち伏せを防ぐ魂胆か。
「応援はどうなっているの? ブロンズの称号を持つ砂府さんが殺られたのよ。半端な応援じゃ返り討ちに遭うだけよ」
性格なのか防御より攻撃の方が気になる矢牛さんが鵡見さんに尋ねる。
「対応中よ。数を揃えるか質を揃えるか分からないけど明日には来る。だからそれまでは私が命に掛けても貴方達を守るわ」
決意の感情の籠もった鵡見さんの台詞に、時雨さんは心打たれたのか聖人にでも出会った顔をする。
「信用できないな」
「「「えっ」」」
予想外の俺の言葉に盛り上がっていた女3人が宇宙人でも見るような目を向けてくる。
「命を賭けて守るというなら、なぜあんたは生きている?」
気持ち悪い。気持ち悪い。互いに信頼し合い命を預ける? 砂府の死体を見ても起きなかった吐き気が湧いてくる。
映画の感動のシーンでも見ているようだが、リアルでやられているからか虫酸が走る。
「えっ」
「あんたが一番に守らなくては成らなかったのは砂府だろ。砂府がああなっちまった時にあんたは何をしていたんだ?」
そもそもこれが一番の疑問で、査問会でも開けばこれが追求される。まあ映画でのこういうシーンにおいて査問官は視聴者のヘイトを一身に集める舞台装置だがな。
「ちょうど別行動をしていて」
「つまり一番大事な時にあんたは『い』すらしなかったんだな。
そんな奴が・・・」
パチンッ、俺の頬が叩かれた。
加減の無い一撃に脳が揺れ視界がぐにゃりと歪むが、意地で頭を揺り戻し視線を向ければ嚇灼に染まる時雨さんの視線が突き刺さる。まるでユガミを見ているように俺を射竦めてくるが、俺も視線を反らさない。
「君は何でそんなことを言うの」
「事実だろうが」
「君には人の感情が無いの? 恋人だった砂府さんが死んで一番悲しんでいるのは鵡見さんなんだよ」
怒り一色だった時雨さんの瞳に涙がうっすらと浮かんでいる。それでも俺は引けない。
「知るかっ。そんな事情にいちいち構ってられるかっ。世の中結果が全てだ。そしてその結果から判断すれば、その女は君に本当に危険が迫った時にはいないぞ」
「君は最低だね」
「最低で結構だ。信用できない者は信用できない」
「なら一人ここに残る?」
「信用できない奴に君を託せない」
「なら勝手にすれば。その代わりその口は開かないでね。でないとボク、君のことを潰してしまいそうだよ」
もう時雨さんから怒りは消えていた。代わりに虫けらを見る侮蔑が籠もった冷たい瞳で俺を見下していた。
だがそれがどうした。俺は時雨さんに惹かれる。その事実だけは揺るがない。
そして嫌われたとしても、鵡見を心酔しようとする時雨さんの心に少しでも楔が打てたのなら意味はある。
「直ぐにここを出るわよ。でもその前にベランダを見せて貰える」
「どうぞ」
鵡見さんは一人ベランダに出て行った。
そして窓越しに嗚咽が響いてくる。
「砂府で間違いないわ」
「そうですか」
鵡見さんの言葉に時雨さんも先程までと違い事実を呑み込んだ顔になった。きっとコンピューターのように情報として記録している、そうで無ければ戦えないから。戦いが終わって少女に戻った時に泣くのであろう。
「急いでここを出ましょう。準備はいい」
「はい。でもどこにいくのですか?」
「詳しい場所は決めていない、私の気分次第ね。暫くはホテル暮らしよ」
敢えて場所を決めないことで、敵の待ち伏せを防ぐ魂胆か。
「応援はどうなっているの? ブロンズの称号を持つ砂府さんが殺られたのよ。半端な応援じゃ返り討ちに遭うだけよ」
性格なのか防御より攻撃の方が気になる矢牛さんが鵡見さんに尋ねる。
「対応中よ。数を揃えるか質を揃えるか分からないけど明日には来る。だからそれまでは私が命に掛けても貴方達を守るわ」
決意の感情の籠もった鵡見さんの台詞に、時雨さんは心打たれたのか聖人にでも出会った顔をする。
「信用できないな」
「「「えっ」」」
予想外の俺の言葉に盛り上がっていた女3人が宇宙人でも見るような目を向けてくる。
「命を賭けて守るというなら、なぜあんたは生きている?」
気持ち悪い。気持ち悪い。互いに信頼し合い命を預ける? 砂府の死体を見ても起きなかった吐き気が湧いてくる。
映画の感動のシーンでも見ているようだが、リアルでやられているからか虫酸が走る。
「えっ」
「あんたが一番に守らなくては成らなかったのは砂府だろ。砂府がああなっちまった時にあんたは何をしていたんだ?」
そもそもこれが一番の疑問で、査問会でも開けばこれが追求される。まあ映画でのこういうシーンにおいて査問官は視聴者のヘイトを一身に集める舞台装置だがな。
「ちょうど別行動をしていて」
「つまり一番大事な時にあんたは『い』すらしなかったんだな。
そんな奴が・・・」
パチンッ、俺の頬が叩かれた。
加減の無い一撃に脳が揺れ視界がぐにゃりと歪むが、意地で頭を揺り戻し視線を向ければ嚇灼に染まる時雨さんの視線が突き刺さる。まるでユガミを見ているように俺を射竦めてくるが、俺も視線を反らさない。
「君は何でそんなことを言うの」
「事実だろうが」
「君には人の感情が無いの? 恋人だった砂府さんが死んで一番悲しんでいるのは鵡見さんなんだよ」
怒り一色だった時雨さんの瞳に涙がうっすらと浮かんでいる。それでも俺は引けない。
「知るかっ。そんな事情にいちいち構ってられるかっ。世の中結果が全てだ。そしてその結果から判断すれば、その女は君に本当に危険が迫った時にはいないぞ」
「君は最低だね」
「最低で結構だ。信用できない者は信用できない」
「なら一人ここに残る?」
「信用できない奴に君を託せない」
「なら勝手にすれば。その代わりその口は開かないでね。でないとボク、君のことを潰してしまいそうだよ」
もう時雨さんから怒りは消えていた。代わりに虫けらを見る侮蔑が籠もった冷たい瞳で俺を見下していた。
だがそれがどうした。俺は時雨さんに惹かれる。その事実だけは揺るがない。
そして嫌われたとしても、鵡見を心酔しようとする時雨さんの心に少しでも楔が打てたのなら意味はある。
0
あなたにおすすめの小説
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
都市街下奇譚
碧
ホラー
とある都市。
人の溢れる街の下で起こる不可思議で、時に忌まわしい時に幸いな出来事の数々。
多くの人間が無意識に避けて通る筈の出来事に、間違って足を踏み入れてしまった時、その人間はどうするのだろうか?
多くの人間が気がつかずに過ぎる出来事に、気がついた時人間はどうするのだろうか?それが、どうしても避けられない時何が起こったのか。
忌憚は忌み嫌い避けて通る事。
奇譚は奇妙な出来事を綴ると言う事。
そんな話がとある喫茶店のマスターの元に集まるという。客足がフッと途絶えた時に居合わせると、彼は思い出したように口を開く。それは忌憚を語る奇譚の始まりだった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる