俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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第五十一話 障害

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「おいお前」
 呼び掛けられて我に返ると部屋にはビジュアル系のバンドメンバーかと思うほどの長髪で美形の青年がいつの間にかいた。
 年は18歳前後、俺と同じか少し年下くらい。ビンテージ物のGパンにブルーのシャツにチョッキを格好良く着こなしている。如何にも才能溢れ女にも友達にも恵まれていそうで、俺とは縁がなさそうな奴だが。
「何か用か?」
 碌でもないことだと勘というか経験則が告げている、警戒するように答えた。
「お前が噂の時雨の恋人か?」
 何処で情報拡散している? 矢牛か? だがまあいい堀から埋めていくのも悪くない。
「そうだが」
 俺が答えると見知らぬ青年は俺を値踏みするようにじろじろ見る。
 失礼な奴だ。敵であることは確定だな。
だが真意はまだ分からない。こんな法律事務所で儲け話を持ってくる詐欺師がいるとは思えないが、俺から金を毟り取ろうとする以外の目的って何だ?
「お前、今すぐ時雨と別れろ」
「聞く理由がないな」
 俺は即答した。
 しかしそうきたか。確かに今の俺には金以外に他人が欲しがる物を持っている。宝を手に入れるとはことはこういうこと、祝福するより奪おうとする者が表れる。
 覚悟はしていたが、まともなデートをするより早く表れるとも思ってなかった。
「ハッキリ言おう、お前では釣り合わない」
「それがどうした?」
「これだからプライドのない奴は困るぜ」
 青年はやれやれと肩を竦めてみせる。
 俺を見下しきった口調と態度、それが許されると信じている。
「まるで自分なら釣り合うと言いたげだな」
「当たり前だ。家柄、容姿、そして将来ゴールドにまで到達すると期待される才能。俺ほど時雨に似合う男はそうそういまい」
 ほう、此奴は旋律士か。なるほど納得、魔法にも匹敵する現象を起こせる技を持っているんだ、一般人など見下したくなるのも理解できる。だからといって、むかつかないということはない。二度と会わないというならいい人モードで流してもいいが、時雨さんが絡んでいる以上流すわけにはいかない。
「良く語るが、お前は時雨のことを随分前から知っているのか?」
「ああ、そうだが」
 返答ありがとう、これで俺は反撃できる。
「ならなぜ今俺に言う?」
「ん?」
 俺の言っている意味が分からないという顔をしてくれる。期待はしてないさ、これで察せられるような聡明な奴なら、こんな中途半端に攻撃を仕掛けやしない。俺なら徹底的に調べ上げた後に、二度と反撃できないように奇襲か闇討ちで叩き潰す。俺を見下しきっているのかも知れないが、自分が惚れた女を落とした男を俺なら軽んじたりしない。
「お前は俺より先に時雨と知り合っていたんだろ。お前の理屈なら、今現在お前は時雨と今付き合ってないとおかしくないか?」
「そっそれは」
 声に詰まって何とか反論しようとするが、可哀想だが聞いてやらない。
「今現在時雨は俺と付き合っている。
 お前より後に出会った俺が付き合っている。
これから導き出せる結論は、ただ一つ」
ここで溜めて男を指差す。
「お前は時雨と釣り合わないということだ」
相手の理論で相手をねじ伏せる。
やられた方は、これ以上屈辱的なことはあるまい。
さてどう反論する? 下手な反論は己自身を食い潰すぞ。
「巫山戯るなっ。前埜さえいなければ・・・」
「お前、諦めたな」
 目を全開に開けて下から男の目を覗き込んでやった。
「相手が自分より優れていると思って諦めたな」
 青年の顔にぐぐぐっと顔を寄せ男の瞳をトラウマを剔るように覗き込む。
「諦めたのならお前に資格は無い。さっさと尻尾を丸めて家に帰りな」
 一歩下がって、優しく大人が悪さをした子供を諭すように言う。
「巫山戯るなッ。前埜はいずれ俺が越えるはずだったんだ。付き合うのは、それまでと我慢していたが、お前のようなゴミでは1秒たりとも我慢が出来ん」
 青年は顔を真っ赤に染めて怒鳴り返してくる。
「そうかい。敵前逃亡したヘタレが言う言う」
「痛い目に合わないと分からないらしいな」
「分からせてくれるのかな、坊や」
 俺と青年は真っ向から睨み合う。青年の目には憎しみと殺意が混ざり合う、なかなかの眼力修羅場は潜っているようだ。だが俺も退かずの一念で睨み返す。俺のような弱い人間は両極端、逃げる時はさっさと逃げるが逃げないと決めたのなら死んでも退かない。
「俺の名は音羽 翔。俺に向かってその口を効いたこと後悔させてやる」
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